シリーズ『復興検証42兆円のゆくえ』第4弾は、インフラ整備と残した課題に焦点をあてる。被災地では復興の名の下、多くのインフラが整備された一方、人口減少が進む中でその維持管理費が自治体財政を圧迫している。復興とは何だったのか。現場の声からその実像に迫る。
国内最大級の排水ポンプ場が生まれた理由

宮城県石巻市門脇町に、国内最大級の規模を誇る巨大な「排水ポンプ場」がある。
石巻市下水道建設課 阿部貴章課長:
ここは5台のポンプがありまして、1秒間当たり30トン、小学校のプールに例えると約10秒で空にできるくらいの容量がポンプが備わっています。
震災前、石巻市の雨水排水は、ポンプで組み上げるエリアと、土地の勾配を利用して自然に流すエリアに分かれていた。しかし震災によって広域的な地盤沈下が起き、市内全域でポンプによるくみ上げが必要になった。その結果、11カ所の排水ポンプ場が新設された。
整備費用は全額、国の復興交付金「835億円」で賄われた。市の負担はゼロだった。
震災前の3倍超 膨らむ維持管理費の重荷

問題は、その後だ。
ポンプ場を動かし続けるための維持管理費は、市が負担しなければならない。ポンプ場が11カ所新設されたことで、石巻市の「雨水排水関連施設」の維持管理費は2024年度で4億6000万円となり、震災前の3倍以上に膨れ上がった。
こうした事情は石巻市だけの話ではない。

仙台放送が宮城県内沿岸部の15の自治体に対して行った聞き取り調査では、回答が得られた12の自治体の公共施設の総延べ床面積が、震災前の2009年度と2024年度の比較で2割増加していたことが判明した。さらに、道路や上下水道などのインフラも含めた維持管理費の総額は、震災前の約2218億円から2024年度にはおよそ3016億円へと、4割増加していた。
維持管理費増加の背景には、物価や人件費の高騰もあるとみられている。
「復興事業の影響が大きく出ている」 専門家が指摘する構造的問題
なぜ被災地で公共施設が増えているのか。宮城大学の上森貞行准教授はこう指摘する。
宮城大学 上森貞行准教授:
行政目的に利用している行政財産は、近年横ばいで推移しているのが全国の状況。そうした中で、復興を行った自治体では増加しているので、やはり復興事業の影響が大きく出ている。
全国的に公共施設は横ばいで推移している中、被災地では増加している。この事実が示すのは、復興という特別な事情が施設整備を加速させたということだ。

さらに上森准教授が課題として強調するのが、被災地の人口減少だ。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2010年の人口を「100」とした場合、2050年には全国で「81.7」まで減少するとされている。
一方で宮城県内沿岸部の自治体の推計を見ると、仙台市とその隣接自治体は全国平均を上回る水準を維持する一方、残る11の自治体では女川町が「30.5」、南三陸町が「29.2」と、全国平均をはるかに下回る急速な人口減少が予測されている。
宮城大学 上森貞行准教授:
被災地についてはさらに人口減少が早期に進んでいる。今後ますます1人当たりの負担が増していく段階に入っている。
施設は増えた。しかしそれを支える人口は急速に減っていく。この根本的な課題が、被災自治体の財政を構造的に追い詰めている。
国と自治体の隔たり
震災直後から事務方のトップとして復興を指揮した、元復興庁事務次官の岡本全勝さんは、当時をこう振り返る。
元復興庁事務次官 岡本全勝さん:
今までの災害復旧は、道路であれ住宅であれ学校であれ、元に戻すと皆さんに喜んでもらえた。現在、地域によっては元に戻すと無駄が出たという批判を受け、私もそれを認めざるを得ない。やっていく時は精いっぱいで、そういうところまでは思いが付かなかった。
政府が復興の基本方針を検討するために設置した「復興構想会議」の提言には、「地域のニーズを優先すべき一方で高齢化や人口減少を見据えた復興が望まれる」という文言がある。国として人口減少は念頭にあった。しかし、自治体との間には埋めがたい「隔たり」があった。
岡本さんはこんなエピソードを明かす。
ある市長は、人口が1割、2割増えるような街の復旧計画を作った。「市長、そんなことはあり得ないじゃないか」と岡本さんが指摘すると、その市長はこう答えたという。「岡本さん、やはり人口が急速に減るということを市民に示すのは政治家としてつらい。市民に夢を持っていただきたい」。
被災自治体が身の丈に合わない復旧計画を策定した背景として岡本さんは、制度設計上の問題点を言及する。
元復興庁事務次官 岡本全勝さん:
今回の復旧・復興は全て国費だった。地方負担、市町村負担がゼロ。これが市町村負担が少しでも入っていれば、もう少し考えてもらえたのかもしれません。これはその後の課題の1つとして残っています。
維持管理費100億円超、底をつく「貯金」

東日本大震災で最大規模の被害を受けた石巻市。災害公営住宅は県内最多の4456戸が整備され、公共施設とインフラの維持管理費は2024年度に震災前比8割増となり、100億円を超えた。
歳入で賄えない部分は、自治体の貯金にあたる「財政調整基金」を切り崩すことで対応している。しかし2020年度時点で91億5000万円あったその基金は、2028年度には約11億5000万になると試算され、底が見え始めている。
2021年から市長を務める斎藤正美市長は、現状を認めながらも「やるべき投資だった」と強調する。
石巻市 斎藤正美市長:
あの時は、とにかく一早く復興住宅を作らなくちゃいけないし、やむを得ない投資というよりも、やるべき投資だったと思います。これをおろそかにしたのでは、復興に歯止めがかかっちゃう、足止めになっちゃう。
しかし同時に、現実の苦しさも率直に語る。
石巻市 斎藤正美市長:
必要なものは必要なんです。それを一切全部切るというわけにはいかないので、そのジレンマというか、そこにはしっかり対応していかなければならない。
市は今年、新たな財政改革プランを策定し模索を続けている。いかに持続可能な街づくりをしていけるのか、その手腕が今、問われている。
42兆円が残した問い 「次の被災地」へ
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復旧・復興に投じられた国費は、15年間で42兆円にのぼった。そのうち「住宅再建・復興まちづくり(インフラ整備を含む)」には13兆6485億円が充てられ、最大の支出項目となった。
この巨額の投資は、被災地の暮らしを支える基盤を整えた。しかし人口減少時代の中で、その方法が本当に正しかったのかということは、改めて向き合うべき課題である。
元復興庁事務次官の岡本さんは、この経験を次のように総括する。
元復興庁事務次官 岡本全勝さん:
被災地に行けば、『なるべく早く戻してください』という熱い思いが出てくる。その熱い思いと、『ちょっと待って、考えさせてください』ということをどう折り合わせるか。これは市町村長さんたちの力量だと思います。東日本大震災では、そういう反省点もいろいろあります。次の被災地で、生かしていただきたい。
生活を守るためのインフラは不可欠だ。しかし、人口が激減する地域で「元に戻す」以上の整備を行えば、将来世代がその重荷を背負い続けることになる。
「元に戻す」だけではない「将来世代を考えた復興」。その問いに向き合うことが、次の災害が起きたときに求められている。

