豪雨による住宅被害が富山県内で600件以上にのぼるなか、唯一「全壊」となった住宅が氷見市長坂にある。所有者の木和田直樹さんは、30年続けてきたコメ作りの農機具をすべて失い、今年の稲の刈り取りさえ見通しが立たない状況に置かれている。それでも木和田さんは、「やめる選択肢は私の中にはない」と言い切る。
裏山が崩れ、主屋・納屋・蔵がすべて全壊

7月27日からの豪雨で、木和田さんの自宅裏山が崩落した。流れ込んだ土砂は主屋だけでなく、隣接する納屋と蔵をも飲み込み、3棟すべてが全壊した。
現場では、かつて1階だった空間がそのまま埋まり、コンクリートの道路面まで土砂が積み上がっている。木和田さんが「これが1階」と指さす光景は、被害の深刻さを物語る。
「一番初めは、『何が起きたの?』自分の家を見た時に本当に変わり果てていて」と木和田さんは振り返る。
追い打ちをかけるように思い起こされるのが、2年前の能登半島地震だ。あの地震でも自宅は被災し、実費でおよそ500万円をかけて瓦や床などを新しくする修繕工事を終えたばかりだった。復旧したと思ったその矢先の全壊だった。
農機具がすべて潰れ、今年の刈り取りが宙に浮く
木和田さんは塾講師の傍ら、兼業農家としてコメ作りを30年続けている。倒壊した納屋には、その仕事に欠かせないコンバイン、乾燥機、籾摺り機、そしてコメを選別するライスグレーダーなど多くの農機具が保管されていた。


「青いものが見えると思うんですけれど、あれがコメを選別する機械。ライスグレーダーというもの。原型をとどめていない」


木和田さんが所有するのは、長坂地区で最も広いおよそ1ヘクタールの水田だ。この長坂地区には約120枚の棚田が広がり、「長坂の棚田」として「日本の棚田百選」にも認定されている。標高200メートルの急斜面に美しい水田が連なる、地域の誇りでもある場所だ。
今年のコシヒカリは例年になく順調に育ち、地域の人からも「すごく成功しているね」と声をかけられていた。8月31日から刈り取りを始める予定だったが、その農機具はいま、倒壊した納屋の下で潰れたままだ。
「まさかここを手で刈ることもできないし。本当にどうしたら良いかが分からない」
コメ農家はほぼ同じ時期に収穫を行うため、他の農家から機械を借りることも容易ではない。氷見市内全体が今回の災害の影響を受けており、水田が泥水をかぶるなどの被害も各地で起きている。
「水が綺麗でお米が美味しい」 地域と消費者への思いが支え

それでも木和田さんが前を向く理由は、長坂という土地への愛着と、消費者の笑顔にある。
「水が綺麗でお米が美味しい。色んな消費者が喜んでくれるその笑顔を見ると今年も頑張る、もちろん来年も頑張る。そんな活力が出る場所」
生まれ育った長坂の家は、コメ作りの時期には特に欠かせない生活拠点でもある。失ったものは大きいが、「やめる選択肢は私の中にはない」という言葉に迷いはない。
一方で、「1人の力は限られている。市や県、国の支援がとても大切だと思う」とも話す。申請できるものは一つひとつ手続きを進めていく考えだ。

今後は農機を借りられる術を探しながら、少しでも早く稲の刈り取りに着手したいと木和田さんは話している。愛情を注いで育てたコシヒカリが、今年も長坂の棚田から届く日を、木和田さんは諦めていない。
(富山テレビ放送)

