7月の熊本地震から1カ月が経った。災害関連死の疑いを含めこれまでに38人が亡くなり、避難所には2400人以上が身を寄せている。(8月28日時点)
発災から4日後にDMAT(災害現場の医療支援隊)の隊員として被災地に入った高知医療センターの渡邊理史医師を取材すると「災害関連死」という課題の現実が浮き彫りになった。
想像を超える被害と過酷な避難所生活
渡邊医師率いるチームは、地震発生から4日後の8月1日に現地入りし、4日間の支援活動を行った。熊本市内では目立った被害は見られなかったものの、被災地に近づくにつれて被害の甚大さを実感したという。

屋根が崩れ、塀が倒壊し、家の中が丸見えになった住宅がいたる所に存在していた。
避難所に到着した彼らの目に最初に飛び込んできたのは、炎天下に置かれた簡易トイレであった。外気温は40度、トイレの中は50度近い過酷な環境だったという。さらに和式トイレであったため、腰をかがめる動作が高齢者には大きな負担となっていた。

また、日常から切り離された避難所生活は、高齢者の足腰を弱らせたり、認知機能が低下したりする「生活不活発病」のリスクが高まっていたそうだ。

この状況を打開するため、渡邊医師のチームは避難所で掃除当番を設け、避難者自身が自然と体を動かせる機会を作ったという。
女性の視点が変える避難所の環境
チームには女性メンバーも参加しており、女性ならではの気付きが避難所環境の改善に大きく貢献した。
受付に無造作に置かれた生理用品を見た女性メンバーから「私はこれでは恥ずかしくて受け取れない」との声が上がったのだ。これを受け、断水で使えなくなっていたシャワー室を更衣室として活用し、その中に生理用品を配置する工夫がなされた。

さらに、汗をかいた体をぬれたタオルで拭けるよう、室内のレイアウトも変更。ほかにも授乳室や診察スペースを設けるなど、少しでも安心して生活できる空間作りが進められた。
「防げる死」とどう向き合うか
医師である渡邊さんが避難所の環境改善にこれほどまでに注力する理由は、10年前の熊本地震が残した「ある数字」にある。2016年に起きた熊本地震では、亡くなった275人のうち地震による直接死は50人、避難生活で体調を崩して亡くなる「災害関連死」は直接死を大きく超える225人になった。

また、避難所での弁当などの塩分過多な食事は、高血圧をさらに悪化させる。単に薬を処方するだけではなく、食事や生活環境そのものを改善しなければ根本的な治療にはならない。
渡邊医師は「災害関連死の原因の多くは避難所での生活苦である。医療だけでなく、公衆衛生や生活的な観点からのサポートこそが重要だ」と強調する。
医療支援と生活支援を両立させることが、DMATに求められる役割だという。
未来への備えと地域の絆
高い確率で発生が予想されている南海トラフ地震で、高知県では県民の約半数が避難所生活を余儀なくされると言われている。被災地での経験を通じて、渡邊さんが強く感じたのは「地域のコミュニティーとつながりの力」であった。

助け合いの精神こそが、非常時において最も重要な支えとなる。渡邊医師はハード面の対策だけではなく、地域でのつながりを今だからこそ見つめ直すことが大切だと話していた。
