アメリカ人にも北朝鮮による拉致が疑われる被害者がいることをご存じだろうか。もう失踪から20年以上が経つ。当時大学生だったデービッド・スネドンさん(当時24歳)だ。
アメリカ中部ネブラスカ州出身のスネドンさんは2004年8月14日、中国に留学中、雲南省の虎跳峡(こちょうきょう)でハイキング中に突然行方不明になった。中国当局はアメリカ国務省に対し、川に転落死した可能性があると報告。しかし、転落した証拠や遺体は見つかっていない。スネドンさんは2004年秋には大学院を受験予定で、失踪直前には母親に「家に帰るのがとても楽しみだ」とメールを送っていたうえ、12日後には韓国で兄に会う約束もしていた。
失踪前後の状況から北朝鮮による拉致の可能性が高まり、2016年から2018年にかけ、上下両院は全会一致で「スネドンさん失踪への懸念表明」の決議案を採決し、国務省やすべての情報機関に北朝鮮による拉致の可能性を視野に徹底的な調査を行うよう求めた。しかし、今なおスネドンさんの行方はわかっていない。
失踪直前に知人に電話か
スネドンさん失踪については、救う会の西岡力代表が中国にいる関係者から情報を掴んでいた。西岡さんによると、2004年8月にスネドンさんは北京に住む中国人の知人に電話で「不法滞在者を助けた容疑で中国当局に捕まったが釈放された。近くアメリカから(人が)自分を迎えに来る」と伝えていたことがわかった。しかし、電話から3、4日後にこの女性がスネドンさんを探しに雲南省を訪れると、スネドンさんの姿は見当たらず、連絡もとれなかったという。
スネドンさんは8月26日に、翻訳会社を経営する兄・マイケルさんと韓国・ソウルで会う約束をしていた。しかしスネドンさんが現れなかったことから、心配した両親は8月26日に北京のアメリカ大使館に連絡。翌月9月12日にはマイケルさんら兄2人と父親が雲南省の現地を訪れ、警察当局と面会し、捜索活動を行っている。
横田めぐみさんに関する証言も…「裏付けは非常に困難」
スネドンさん失踪について、北朝鮮に複数回訪問し、北朝鮮当局とも直接やりとりを重ねてきたアメリカ政府の元当局者が匿名を条件に取材に応じた。元当局者によると、スネドンさんが失踪直前に電話をしていたことは国務省などにも報告されていたというのだ。一方で、事実であることを裏付けることはできなかったという。
「世界のどこかで誰かが電話をかければ、アメリカ政府がそれを傍受している可能性があるが、この件に関しては、実際にその電話があったか確認が取れなかった」と説明した。
元当局者は、スネドンさんが拉致された疑いについて「私は確固たる結論には至っていないが、実際に電話がなかったと断定されたわけではない。単に電話があったか確認が取れなかったということだ」と語った。日朝交渉を担当していた北朝鮮外務省の宋日昊(ソン・イルホ)氏とも何度も協議を行ったというこの元当局者は、アメリカ側にも拉致問題について様々な情報が入ってきたことを明かしてくれた。
アメリカ側にも共有された韓国の情報機関による脱北者への聴取内容には、「日本人を見たり遭遇したりしたとの証言もあった」としている。それだけでなく、韓国政府の許可の元で自ら脱北者の聴取をした際、「韓国政府当局者と脱北者の双方から、ある脱北者が横田めぐみさんを見たとする証言を聞いた」という。この証言を聞いたのは20年以上前で「多くの情報が数年前や数十年前のもので、最近の情報がなく、裏付けは非常に難しかった」と険しい表情を見せた。
また、この元当局者は、北朝鮮が通信傍受を防ぐために厳重な対策を講じているほか、衛星から国内の実態を把握されないよう、徹底した対策を取っていることを指摘し、「北朝鮮が核兵器を保有しているか調べる方が、アメリカ人を収容所に拘束しているかを調べるより簡単だ」と述べた。
拉致の可能性を示す複数の糸口
救う会によると、スネドンさんは雲南省で中国当局に拘束された後、脱北者を捜索していた5人組の北朝鮮国家保衛部員に捕まったという。その雲南省について、元当局者は「北朝鮮工作員が暗躍している可能性が高い地域の1つだ」と指摘する。多くの脱北者は、中国国内を移動して東南アジアの国々と国境を接する雲南省に入り、そこからメコン川を越えてラオスやミャンマーへ逃れることから、「脱北者を捕まえるため、雲南省には北朝鮮の工作員が配置されている可能性が高いと確信している」と強調した。
また、アメリカのNGO「北朝鮮人権委員会」のグレッグ・スカラトウ事務総長は、スネドンさんが最後に目撃された雲南省にある韓国料理を提供していたという飲食店が、「北朝鮮による情報収集や拉致工作の拠点になっていた」と指摘する。この飲食店は、スネドンさんの失踪後になぜか閉店したという。
アメリカメディアは、韓国の拉致被害者団体が平壌の情報提供者から入手した情報として、スネドンさんが北朝鮮で金正恩総書記らに英語を教えていると報じている。スカラトウ事務総長は、この情報について、「横田めぐみさんの夫が韓国人拉致被害者の金英男氏である可能性を日本側に最初に伝えたのも、同じ韓国の拉致被害者団体の関係者だった」とし、「この情報は信頼できる」と強調した。日本、韓国、アメリカで飛び交ういずれの情報も当局による裏付けは取れていないものの、それらの1つ1つを繋ぎ合わせると、スネドンさんが北朝鮮に拉致された可能性が浮かび上がってくる。
兄「この事件はまだ終わっていない」トランプ政権に訴え
スネドンさんの兄・ジェームズさんは「この事件はまだ終わっていない。アメリカ政府には今も調査を行う責任がある」と述べ、トランプ政権に対し徹底した調査を求めている。
さらに、ジェームズさんは「日本の拉致被害者とともに、私たち家族もトランプ大統領に面会したい」と訴え続けている。
何十年もの間、帰りを待ち続ける家族は日本だけではなく、アメリカにもいる。拉致は日本だけの問題ではない。トランプ大統領が北朝鮮の金正恩総書記との会談に意欲を示すなか、トランプ大統領が金総書記に直接、拉致問題の解決を求める機会となることが期待される。
(FNNワシントン支局長 林英美)

