陣城を前進させて「王手」
ここまで見てきた通り、攻城戦でも野戦でも、大規模な合戦のキーポイントとなる陣城。実は長期戦となった場合、武将たちは必ずしも「ずっと同じ陣城にいた」とは限りません。争奪戦を経て敵の手に落ち、やむなく移動することもありますが、戦況に応じて自主的に場所を変えることもあります。
水攻めで有名な備中高松城攻めの際、秀吉ははじめ、本陣を竜王山陣におきました。敵の城から北東へ約2kmほど離れた、現在の最上稲荷の脇です。
秀吉はやがて戦況が自身に有利と見たのか、本陣を前進させます。今度は敵の城からわずか800mほど。まさに目と鼻の先です。
いわば、陣城を柔軟に移動して「王手」をかけたわけです。水攻めで城の周囲を水没させるだけでなく、自らの旗印を敵がはっきり見えるところに堂々と掲げる。備中高松城の戦いの勝利を呼び込んだのは、物理的のみならず、心理的なプレッシャーもあったに違いありません。
陣城とは、すなわち実戦を体現するような存在です。その地に立てばきっと、戦国時代の息吹を感じられるに違いありません。
今泉慎一(いまいずみ・しんいち)
古城探訪家。編集プロダクション・風来堂代表。著書に『戦う山城50』(イースト・プレス)『おもしろ探訪 日本の城』(扶桑社)など。

