初めての麻辣湯を食べて
「楊國福」には午前11時に到着したおかげで、何とか一巡目の最後のほうに滑り込むことができた。何しろ初めてなので、どうしたらよいのか勝手がわからない。私のすぐ前に並んでいる女性の所作を凝視しつつ、店の説明書きもしっかり確認した。
この店の場合、まずボウルを手にとって、トングを使って、好きな具材をボウルの中に入れていく。冷蔵ケースにあるのは白菜、空心菜、もやしなどの野菜や豚肉、牛肉、鶏肉、肉団子などの肉類、ほかに練り物、豆腐、うずらの卵など約70~80種類。好きなだけ取ったらレジで量ってもらう。100グラムで400円の計算だ。1000円以上、つまり250グラム以上の具材をとれば、好きな麺を80グラムサービスしてくれる。
私は適当に15種類の具材を取って計量してもらったところ、538グラムだった。多いのか少ないのかわからない。スープは定番の「麻辣湯」のほか、「牛骨湯」や「番茄湯」(トマトスープ)など五種類あり、その中から店員おススメの「麻辣湯」を選択。会計したら値段は2152円だった。
正直なところ「えっ、これで2000円超え?高い」と思ったが、あとの祭り(おそらく、ここで量を減らしたいと申し出る人もいるのではないかと予想)。レジで番号が書かれたレシートを渡され、席を探した。一階は満席だったので2階に上がった。不織布のエプロンを手に取って狭い座席に座る。座席はかなり狭く、隣との距離がやたらと近い。私の両隣はどちらも若い女性の一人客で、ずっとスマホをいじっている。
テーブルの上にレシートが置いてあったので盗み見ると、一人は600グラム超えで3200円!もう一人は私よりかなり少なかったが、それでも1500円以上だった。
少量のほうの女性に「あの、このお店はよく来るんですか?」と聞いてみた。ちょっと驚いた様子だったが、その女性は「はい。TikTokで見て美味しそうだったから」と笑顔で答えてくれた。俳優の石原さとみや仲里依紗、韓国のアイドルグループなどがSNSに「美味しい」と書いたことから評判になったそうだ。私以外、ほぼ全員が常連客のような感じ。やはり、SNSの影響は絶大だ。
実際に初めて食べた麻辣湯の味は、予想していたよりも美味しかった。予想していたより、というのは、ガチ中華の中には、ちょっと日本人の舌に合わないものもある。
でも、ここの麻辣湯はスープに深みがあり、具材も(自分で選んだから当たり前だが)美味しかった。しかし、一時間並んででも食べたいか? と問われたら……返答に詰まってしまうかもしれない。
中島恵
新聞記者を経てフリージャーナリスト。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』、『なぜ中国人は財布を持たないのか』、『日本の「中国人」社会』、『いま中国人は中国をこう見る』、『中国人が日本を買う理由』、『日本のなかの中国』(以上、日経プレミアシリーズ)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)、『中国人のお金の使い道』(PHP新書)などがある。

