「海賊船みたい?」最新の北朝鮮駆逐艦

北朝鮮は今年6月、排水量5000トン級と同海軍最大での水上戦闘艦である駆逐艦の「崔賢」(チェヒョン 51)を就役させた。

北朝鮮の最新駆逐艦「崔賢」(チェヒョン 51)
北朝鮮の最新駆逐艦「崔賢」(チェヒョン 51)
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二番艦の「姜健」(カンゴン 52)も年内に就役する見込みとなっている。

この2隻は、全体にステルス性を意識した外観をしていて、前甲板に恐らく無人化された近代的な127mm級の主砲砲塔がある。

「姜健」の前甲板にある主砲砲塔
「姜健」の前甲板にある主砲砲塔

艦橋には、恐らく対空防御用の30mm機関砲の砲身が6本、束になった近接防御火器管制システム=AK-630があるが、これも砲塔は無人化されている。

「姜健」近接防御火器管制システム=AK-630 (2025年6月)
「姜健」近接防御火器管制システム=AK-630 (2025年6月)

それに、対空ミサイルと対空機関砲を連携させたロシアのパンツィリ短距離防空システムに極似したシステム、533mm魚雷管、さらに艦橋上部には、やや小ぶりながら日米のイージス艦のように四方向に向いたレーダー・アンテナを備えている。

「崔賢」の対空システム レーダー+対空ミサイル+対空機関砲を一体化 (2025年6月)
「崔賢」の対空システム レーダー+対空ミサイル+対空機関砲を一体化 (2025年6月)

複雑かつ現代的なシステムの軍艦であることを強調しているようだ。

ミサイル74発分の垂直発射装置を装備

だが、最も注目すべきは艦の前後にサイズの異なるミサイル合計74発分のVLS垂直発射装置を備えていることだろう。

「崔賢」 黄丸:フェイズド・アレイ・レーダー・アンテナ、赤丸:VLSミサイル垂直発射装置(2026年6月)
「崔賢」 黄丸:フェイズド・アレイ・レーダー・アンテナ、赤丸:VLSミサイル垂直発射装置(2026年6月)

この垂直ミサイル発射装置からは、対空ミサイルが連射されるだろうが、それは、前述の様々な対空兵装と連携がとれていなければならない。

北朝鮮メディアは2026年3月に、駆逐艦「崔賢」が「戦略巡航ミサイル」を約3秒間隔で連射する様子を発表していた。

「崔賢」から約3秒間隔で連射される 「戦略巡航ミサイル」(2026年6月)
「崔賢」から約3秒間隔で連射される 「戦略巡航ミサイル」(2026年6月)

この「戦略巡航ミサイル」は、北朝鮮発表で2000km級の飛距離も記録したことがある「ファサル(矢)」巡航ミサイルによく似ている。

「崔賢」が発射した「戦略巡航ミサイル」(2026年6月)
「崔賢」が発射した「戦略巡航ミサイル」(2026年6月)

2000kmというと、北朝鮮の日本海側の港から出たところを起点とすれば、米国には届きそうもないが、日本のほぼ全域に届いてしまうことなりかねない。

さらに気に掛かるのは、北朝鮮メディアが2023年に、「火山31」弾頭を核弾頭と称して紹介し、ファサル巡航ミサイルに搭載可能であるかのように強く示唆していたこと。

赤丸:「火山31」“核弾頭” 黄丸:「火山31」搭載可能と示唆されるミサイル(2023年)
赤丸:「火山31」“核弾頭” 黄丸:「火山31」搭載可能と示唆されるミサイル(2023年)

では、北朝鮮の駆逐、「崔賢」と「姜健」は、日本を射程にするような核ミサイルを連射しうる軍艦になるのだろうか。

核ミサイル連射可能な駆逐艦なのか

北朝鮮メディア(朝鮮中央通信2025年6月24日付)は、駆逐艦「崔賢」就役式に臨んだ北朝鮮の最高指導者、金正恩総書記が「海軍の核武装化はその道程を正確に歩んでいる。強力かつ信頼できる核戦争抑止力をさらに確実なものにすることで、核武力の多角的で効果的な運用を実現し、朝鮮人民軍海軍には、敵対国の軍事資産と基地が展開している水域に対する巡視と先制駆逐の義務が与えられている」と発言したと伝えている。

駆逐艦「崔賢」就役式に臨んだ金正恩総書記(2025年6月)
駆逐艦「崔賢」就役式に臨んだ金正恩総書記(2025年6月)

核ミサイルを持って『敵対国の軍事資産と基地』を監視し、先制的に打倒するのが北朝鮮海軍の義務だと言わんばかりである。

ところで、駆逐艦「崔賢」と「姜健」は、2025年と2026年で装備が変化している。

駆逐艦「姜健」(2025年)
駆逐艦「姜健」(2025年)

2025年初期の段階では無かった2銃身の14.5ミリ機関銃(恐らく旧ソ連が開発したもの)が、左右の複数の箇所に設置されていたのだ。

「崔賢」 黄丸は増設された双連機関銃(2026年)
「崔賢」 黄丸は増設された双連機関銃(2026年)

なぜ北朝鮮はこんな改造を行ったのか?

海面の脅威から艦を防御するかのよう

その狙いを読み解いていこう。

「崔賢」後部艦橋に増設された双連機関銃(2026年6月)
「崔賢」後部艦橋に増設された双連機関銃(2026年6月)

北朝鮮メディアによると、7月3日に実施した駆逐艦「姜健」の戦闘システム性能評価試験で、「戦略巡航ミサイル」の試射の他、自動期間砲(銃)など主要兵器の試験を行ったという。(朝鮮中央通信 7月5日付)

添えられた画像には、左舷側のAK-630近接防御火器管制システムと双連機関銃が一斉射撃する様子が捉えられていた。

「姜健」左舷側でAK-630と双連機関銃の一斉射撃(2026年7月)
「姜健」左舷側でAK-630と双連機関銃の一斉射撃(2026年7月)

AK-630は、接近する飛翔体から艦を防衛するという本来の役割を意識してか、やや上を向いているようにも見える。

しかし、左舷側の海面に大量の水飛沫が上がっているのを見ると、左舷側の低空というより海面の脅威から艦を防御しようとしているようにも見える。

駆逐艦「姜健」の左舷側に一斉射撃(2026年7月)
駆逐艦「姜健」の左舷側に一斉射撃(2026年7月)

他の国の軍艦でも、ゲリラ・コマンドウ(少人数の敵不正規部隊)の接近を阻止するため、小型船艇に機関銃を装備する例はあるが、「姜健」ほどの数や密度の例は見たことがない。

強いてあげれば、17世紀から18世紀に海を荒らしまわっていた海賊船や日露戦争で活躍した戦艦「三笠」の右舷、左舷に砲が並んでいたことが思い浮かぶ。

海賊船スタイルに見える北朝鮮の思考

では、北朝鮮海軍はなぜ海面からの脅威に備えているのだろうか?

イランとの戦闘を続けているアメリカ中央軍は2026年7月13日、イランの潜水艦及び軍用ボートの整備施設をコルセア自爆無人艇で破壊することに成功した。

イランの潜水艦及び軍用艇整備施設(緑丸)を攻撃する米海軍自爆無人艇(黄丸)(2026年7月)
イランの潜水艦及び軍用艇整備施設(緑丸)を攻撃する米海軍自爆無人艇(黄丸)(2026年7月)

自爆無人艇によって敵の艦艇や海岸施設を襲うという戦術は、ロシアとの戦いを続けているウクライナが確立したものだ。

2024年には対艦ミサイルと自爆ドローンでロシア黒海艦隊の約3分の1にあたる艦船24隻と潜水艦1隻を無力化したとウクライナ側は主張している。

マグラV5 水上自爆ドローン(ウクライナ国立国防大学HPより)
マグラV5 水上自爆ドローン(ウクライナ国立国防大学HPより)

アメリカ中央軍がイランとの戦いで、コルセア自爆無人艇で成果を上げたとなると、極東のアメリカ海軍も北朝鮮海軍の虎の子である「崔賢」と「姜健」に対して似たような戦術をとるのではないかと北朝鮮海軍が勘ぐっていた可能性も否定できないだろう。

自爆無人艇に体当たりされれば、沈没はしなくても「戦略巡航ミサイル」の発射は難しくなる恐れがある。

駆逐艦「姜健」から発射されるミサイル
駆逐艦「姜健」から発射されるミサイル

ロシアに急接近している北朝鮮は、ロシア黒海艦隊の命運に基づく教訓を学ぶ機会もあっただろう。それは、自爆無人艇からの防御のみならず、逆に自爆無人艇の使用方法も含んでいるかもしれない。

自爆無人艇と、その戦術が東アジアでも広がるならば、その状況は日本としても無視するわけにはいかなくなるだろう。

(執筆:フジテレビ特別解説委員 能勢伸之)

能勢伸之
能勢伸之

情報は、広く集める。映像から情報を絞り出す。
フジテレビ報道局特別解説委員。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。報道局勤務、防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードとNATO本部の双方で取材。著書は「ミサイル防衛」(新潮新書)、「東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか」(PHP新書)、「検証 日本着弾」(共著)など。