2022年2月に始まった、ロシアのウクライナ侵攻は、すでに4年半が過ぎた。
侵攻から4年 ドローンが飛び交う戦場に
当初、戦車や自走砲、戦闘爆撃機など在来型の戦力では、圧倒的な差があることから、ロシアが短期間のうちに、ウクライナを席巻するとの見方も強かった。
しかし、従来なら戦場の兵器とは扱われなかっただろう自爆無人機ドローンをウクライナ軍が投入。
さらに、ウクライナ軍は、高速無人艇に爆薬を搭載して、ロシア海軍の艦艇に体当たりさせ、ロシア海軍黒海艦隊に対し、成果をあげた。
だが、ロシアも、イランから導入した自爆無人機などをライセンス生産して投入するようになり、ウクライナは、ドローンが飛び交う戦場となった。
だが、ウクライナの戦場を支配し、飛び交うのは、自爆無人機/ドローンだけではない。
ウクライナが恐れる弾道ミサイル
「8月19日から20日にかけての夜間に行われたロシア軍による複合攻撃には、弾道ミサイル、巡航ミサイル、そして攻撃用ドローンが使用された。ゼレンスキー大統領は『残念ながら、弾道ミサイルは現在最も困難な課題だ。今回の攻撃では巡航ミサイルの約90%が迎撃されたが、弾道ミサイルに関しては、状況ははるかに深刻だ』」
「大統領は、ウクライナがロシアの弾道ミサイル迎撃を依存しているパトリオット防空ミサイルの追加配備を改めて要請した」(ウクライナ・メディア「キーウ・ポスト」2026/8/21付)
ゼレンスキー大統領が指摘した、弾道ミサイルは、ロシア製のイスカンデルM/9M723弾道ミサイルと北朝鮮で生産され、ロシア軍が使用しているKN-23/火星11シリーズ弾道ミサイルを指すとみられる。
だが、ウクライナが懸念しているロシアの対地攻撃用の主なミサイルは、ウクライナの情報総局(GUR)によれば、「8月5日時点で、(ロシア製の)イスカンデルM複合システ用の9M723弾道ミサイルの備蓄は約130発に達していた」
「イスカンデルM用の9M723ミサイルの生産は月間60発。7月にはロシアの軍産複合体がこの数字を上回り、65発を生産した」(「ウクライナ・プラウダ」2026/8/20付)というのである。
これでは、ゼレンスキー大統領が、ロシアの弾道ミサイル攻撃を懸念するのは無理からぬことだろう。しかも、問題は、ロシア製のミサイルだけではない。
「7月時点で、ロシアは約50発のロシアが開発・生産したキンジャール空中発射弾道ミサイルと、北朝鮮のKN-23、KN-24、KN-30弾道ミサイルをほぼ同数保有していた」(「ウクライナ・プラウダ」2026/8/20付)というのである。
以前から、ロシア軍がウクライナ攻撃で、北朝鮮製のKN-23や、KN-24単距離弾道ミサイルを使用したことは、知られていたが、今回、ロシアは、初めて、「KN-30を受領した」(オンライン防衛メディア「Army Recognition」2026/8/21付)という。
KN-23ミサイルは、タイプにもよるが、射程450~690㎞で、迎撃システムによる捕捉が難しい変則軌道で飛ぶミサイルで、弾頭重量は500㎏程度。
それが、ウクライナの戦場で使用され、その実績に基づいて改良されて、着弾精度等の性能が向上した、という。(「Army Recognition」2026 / 8/21付)
一方、KN-30ミサイルは、KN-23を大型化したようなミサイルで、射程600~900㎞。
弾頭重量は、KN-23より遥かに重く、従って、威力も大きい2.5t(トン)とされていて「KN-30は、ロシアの奥深くからウクライナへの攻撃が可能で、KN-23やKN-24の数倍の爆薬を搭載できるため、ウクライナにとってより危険な存在である。
ロシア・南西部のヴォロネジ州に、KN-30ミサイル用の移動式発射機x6輌が配備されたため、ロシア軍は2,500kgの重弾頭を用いて、ウクライナの7つの地域にわたる深部インフラを標的にすることが可能になり、イスカンデルMミサイルとともに、ウクライナの防空網を飽和状態にできる」(「Army Recognition」2026/8/21付)との分析も紹介されている。
具体的な運用方法については「8月20日時点では、ウクライナに対するKN-30ミサイルの発射は確認されていなかったが、約90人の北朝鮮要員がロシア第112親衛ミサイル旅団と共同で運用する」(「Army Recognition」2026 / 8/21付)
このように、ロシアは、北朝鮮のKN-23、KN-24ミサイルに続いて、KN-30ミサイルを導入することになるが、ロシア側は、KN-30ミサイルにどんな能力を期待しているのだろうか。
「KN-23の命中精度は35~200mのCEP(=半数必中界)範囲と推定されているが、後にウクライナが(KN-23)改良型2025ミサイルについて推定した数値は約50~100mとなっている」(「Army Recognition」2026 / 8/21付)
つまり、KN-23ミサイルは、ウクライナ攻撃に使用されるうちに、実戦経験に基づいた性能向上と戦術開発が実施されたということなのだろう。
「(ロシア製の)イスカンデルMの命中精度は一般的に5~20mとされており、これはKN-23の50mの誤差がイスカンデルの20mの誤差の2.5倍、イスカンデルの5mの誤差の10倍であることを意味する。
このため、北朝鮮の兵器は、特定のTEL(=移動式発射機)、レーダー、掩蔽壕の入り口、または小さな指揮所よりも、飛行場、鉄道の分岐点、工業団地、変電所、倉庫群、弾薬庫などの大きな目標群に対してはるかに適している。
ロシアによる使用は2025年8月以降停止し、約11ヶ月の中断期間が生じ、2026年7月30日に再開された。
この時、新たな供給サイクルからのミサイルがウクライナ南部クリヴィー・リフ近郊のラドゥシュネに着弾し、供給の継続性が依然として重要な制約となっていることが明らかになった」(「Army Recognition」2026 / 8/21付)というのである。
北朝鮮のミサイルが、ロシア軍の手に渡り、ウクライナに実戦投入された結果、性能の向上と新戦術の開発が行われたことは、日本の安全保障という観点からも軽視すべきではないだろう。
前述したとおり、KN-30ミサイルは、KN-23を大型化したようなミサイルで、最高速度約マッハ5~6。日米のイージス艦に搭載されている弾道ミサイル迎撃用のミサイル、SM-3は、高度70km以下での迎撃は難しいとされるので、高度約 50 km の低い準弾道軌道で飛行できるとされるKN-30も、迎撃システムによる捕捉が困難な弾道ミサイルということになるかもしれない。
KN-30は、そもそも、推定射程600~900㎞ということは、現状でも、日本の西部に性能上は届きうる、ということであり、そんなミサイルの性能と戦術が、今後、ウクライナの戦場での経験に基づき、更なる性能と戦術を獲得するとなれば、日本の安全保障にも直結する可能性もあるだろう。
逆に言えば、ウクライナの戦場には、日本有事の際、最悪の事態から回避するヒントが見え隠れするということになるかもしれない。
(執筆:フジテレビ特別解説委員 能勢伸之)

