9月10日、青森県・三沢基地に、米航空宇宙局(NASA)のWB-57Fキャンベラ高高度観測機が飛来した。

青森県・三沢基地にアプローチするNASAのWB-57Fキャンベラ高高度観測機(2022年9月10日)
青森県・三沢基地にアプローチするNASAのWB-57Fキャンベラ高高度観測機(2022年9月10日)
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アジアの夏の「モンスーンに関する調査」を韓国・烏山(オサン)基地から行い、その帰路、三沢に寄ったものと見られている。

WB-57は、1949年に初飛行した爆撃機キャンベラを改造した航空機で、現在、NASAに3機しか存在しない。

そのWB-57Fの1機をNASAが派遣したことは、沖縄・九州に接近した台風11号も観測対象として注視していたことを示唆している。

三沢基地の一般公開で展示されたWB-57Fキャンベラ高高度観測機(2022年9月11日)
三沢基地の一般公開で展示されたWB-57Fキャンベラ高高度観測機(2022年9月11日)

この猛烈な勢力の台風11号の接近で、沖縄や九州が緊張していた8月31日、米空軍・横田基地(東京・福生市)に、米海軍のP-8Aポセイドン哨戒機が着陸した。

横田基地に着陸するP-8Aポセイドン哨戒機。機体下に巨大なレーダーが(8月31日、9月1日)
横田基地に着陸するP-8Aポセイドン哨戒機。機体下に巨大なレーダーが(8月31日、9月1日)

P-8Aポセイドンの本来の任務は、海中の潜水艦や水上艦を空中から見つけ出し監視。場合によっては“狩り出す”こと。

台風避難ともみられたが、その姿は、通常のポセイドンと異なり、機体の下に巨大な出っ張りを持つ、横田基地ではめったにみられない異形のポセイドンだった。

横田基地に展開したP-8A哨戒機(左)には通常のP-8A哨戒機(右)にはない"出っ張り"が目立つ
横田基地に展開したP-8A哨戒機(左)には通常のP-8A哨戒機(右)にはない"出っ張り"が目立つ

異形のポセイドンは、翌9月1日にも2機が横田基地に着陸。合計3機が横田に展開した。

一体、何が米海軍に異例の行動をとらせたのか?

米軍にとって、見逃せない動きが日本周辺であったということだろうか?

ロシア主催ボストーク2022における中露海軍演習

今月(9月)1日から7日にかけてロシア軍は、極東の各地で戦略的軍事演習とされる「ボストーク(東方)2022」を開始した。

ロシア主催「ボストーク2022」演習開会式。インド、中国など14ヵ国などが参加。参加人員ロシア発表「5万人以上」、英国防相発表「1万50000人以上参加の可能性は低い」
ロシア主催「ボストーク2022」演習開会式。インド、中国など14ヵ国などが参加。参加人員ロシア発表「5万人以上」、英国防相発表「1万50000人以上参加の可能性は低い」

ロシアによると、この演習には、中国やインドなど計14カ国、兵員5万人以上が参加したとされるが、兵員数は、2018年の約30万人以上の参加と比べると減っていた。

今回、特に注目されたのは日本海で実施された露・中海軍共同演習。

ロシアのメディアが発表した映像では、最初に、MR-750フレガット-M2対空捜索レーダーの大きなドームが目立つロシア海軍のマーシャル・ネデリン級ミサイル観測支援艦「マーシャル・クルイロフ(艦番号:331)」の姿があった。

ロシア海軍唯一のミサイル観測支援艦「マーシャル・クルイロフ(艦番号:331)」MR-750フレガット-M2対空捜索レーダーを有し、ZEFIR-Mミサイル追跡システムでミサイルの飛翔を追跡する
ロシア海軍唯一のミサイル観測支援艦「マーシャル・クルイロフ(艦番号:331)」MR-750フレガット-M2対空捜索レーダーを有し、ZEFIR-Mミサイル追跡システムでミサイルの飛翔を追跡する

ミサイル追跡艦の任務は、ミサイルの発射試験の際に、その高性能レーダーを使って、ミサイルの飛行をモニターすること。

従って、マーシャル・クルイロフの参加は、中露海軍共同演習で、本格的なミサイル発射があることが予想された。

ウクライナとの戦争で、砲弾やロケット弾の不足に直面することが予想され、北朝鮮から100万発もの砲弾やロケット弾の導入を行おうとしていると米「ニューヨーク・タイムズ」紙やCNNに報じられたロシアが、どんなミサイルを発射するのか(ロシア側は北朝鮮からの弾薬調達を否定)。そして、中露海軍は、どのような協力関係を構築しているのか。

ロシア・メディアの映像から、ボストーク2022演習への参加が確認できるのは、上記のミサイル観測支援艦「マーシャル・クルイロフの他に、ロシア海軍のウダロイ級駆逐艦「マーシャル・シャポシニコフ(艦番号:543)」、ステレグシュチィI級ミサイル・フリゲート「グロムキー(335)」、「アルダー・ツィデンジャポフ (339)」。

ロシア海軍のウダロイ級駆逐艦「マーシャル・シャポシニコフ(艦番号:543)」ウダロイ級駆逐艦7隻のうち、4隻がロシア太平洋艦隊所属。
ロシア海軍のウダロイ級駆逐艦「マーシャル・シャポシニコフ(艦番号:543)」ウダロイ級駆逐艦7隻のうち、4隻がロシア太平洋艦隊所属。

ウダロイ級は、一般的に、RPK-5ラストルブ-B対潜ミサイル、3K-95キンジャール艦対空ミサイル等、多彩なミサイルを搭載する。

RPK-5ラストルブ-B対潜ミサイルや85RUS対潜ミサイルなどを発射可能とされる四連装ミサイル発射機
RPK-5ラストルブ-B対潜ミサイルや85RUS対潜ミサイルなどを発射可能とされる四連装ミサイル発射機
3K-95キンジャール艦対空ミサイル垂直発射機
3K-95キンジャール艦対空ミサイル垂直発射機

また、ステレグシュチィI級も同II級もステルス性を意識した外観で、ステレグシュチィI級フリゲートは、射程130kmまたは260kmの3M24ウラン対艦ミサイル、そして、射程60km、到達最高高度15kmの9M96艦対空ミサイルを搭載している。

ボストーク2022演習に参加したステレグシュチィI級「アルダー・ツィデンジャポフ (339)」フリゲート。矢印:ウラン対艦ミサイル発射装置
ボストーク2022演習に参加したステレグシュチィI級「アルダー・ツィデンジャポフ (339)」フリゲート。矢印:ウラン対艦ミサイル発射装置

だが、日本や米国にとって注目されるのは、参加していたとみられるステレグシュチィII級フリゲートだろう。

同艦に搭載された、艦対空ミサイルである9M96対艦ミサイルは、射程60km、到達高度15km。

また、この他に、射程800kmのP-800 オーニクス対艦ミサイル、または、射程1500kmの3M-14Tカリブル地上攻撃用巡航ミサイルを運用できる。

ボストーク2022演習に参加したとされるステレグシュチィII級フリゲート(艦名不明)
ボストーク2022演習に参加したとされるステレグシュチィII級フリゲート(艦名不明)
ボストーク2022演習に参加したステレグシュチィII級フリゲートのミサイル垂直発射装置(左)から発射されたカリブル地上攻撃用巡航ミサイル。
ボストーク2022演習に参加したステレグシュチィII級フリゲートのミサイル垂直発射装置(左)から発射されたカリブル地上攻撃用巡航ミサイル。

さらに、極超音速巡航ミサイル「ジルコン」も搭載可能になるとされる。

アドミラル・ゴルシコフ級フリゲートから発射されるジルコン極超音速巡航ミサイル(ロシア国防省公式映像 Youtubeより・2021年7月19日)
アドミラル・ゴルシコフ級フリゲートから発射されるジルコン極超音速巡航ミサイル
(ロシア国防省公式映像 Youtubeより・2021年7月19日)

ジルコン極超音速巡航ミサイルは射程1000kmとされ、従来の発射試験では、マッハ7前後、最高高度20~30kmで飛び、標的に命中したと発表されているが、飛行途中でぐねぐねと機動するので、日米の弾道ミサイル防衛システムでは迎撃が難しいとされるミサイルだ。

米議会調査局資料。弾道ミサイル、極超音速滑空体、極超音速巡航ミサイルの飛び方の違い。
米議会調査局資料。弾道ミサイル、極超音速滑空体、極超音速巡航ミサイルの飛び方の違い。

また、中国海軍からは、同海軍最大の駆逐艦であるレンハイ級/055型ミサイル駆逐艦「南昌 (101)」の姿もロシアのメディアに映っていた。

ボストーク2022演習に参加する中国海軍のレンハイ級/055型ミサイル駆逐艦「南昌 (101)」
ボストーク2022演習に参加する中国海軍のレンハイ級/055型ミサイル駆逐艦「南昌 (101)」

レンハイ級は、ミサイルの垂直発射装置が、前後の甲板をあわせて、112セルもあるという軍艦。

米海軍のイージス巡洋艦の122セルには及ばないモノの、米海軍イージス駆逐艦が96セル、海上自衛隊の「まや型」イージス護衛艦が96セルを上回っている。

レンハイ級ではミサイル垂直発射装置112基装備(艦前部に64基、艦後部に48基)
レンハイ級ではミサイル垂直発射装置112基装備(艦前部に64基、艦後部に48基)

レンハイ級のミサイル垂直発射機には、射程2000kmの核・非核両用のCJ-10巡航ミサイル、射程537kmの対艦・対レーダー巡航ミサイルのYJ-18A、射程650kmと言われるYJ-100対艦巡航ミサイル、射程150km、到達高度30kmのHHQ-9A/B艦対空ミサイル、それに、射程9kmのHHQ-10艦対空ミサイルを混載できる。

「南昌 (101)」の他に、8月29日には、南昌とともに、中国海軍ジャンカイII級(054A型)フリゲート「塩城」(546)、フチ級補給艦「東平府」(902)東シナ海から対馬海峡を抜けて、日本海に入っているので、これらもボストーク2022演習に参加したかもしれない。

ジャンカイII級フリゲートは、最大射程180kmのYJ-83 対艦巡航ミサイル、射程40kmのHHQ-16艦対空ミサイル、射程30kmのCY-5対潜ロケット・システムを搭載している。

統合幕僚監部発表2022年8月30日
統合幕僚監部発表2022年8月30日
YJ-83 対艦巡航ミサイル最大射程180km
YJ-83 対艦巡航ミサイル最大射程180km

このように、中露の艦隊は、多彩なミサイルを搭載している可能性があり、米軍としても見逃すことは出来なかったのだろう。

アメリカ軍が派遣した特殊な軍用機とは

冒頭で紹介した、機体の下に出っ張りをもつP-8Aポセイドン哨戒機の姿は、これまでも沖縄・嘉手納基地で見られることはあるが、横田基地では珍しい。

8月31日、9月1日に横田基地に飛来した米海軍P-8A哨戒機。円内はAPS-154高度空中センサー・レーダー(AAS)
8月31日、9月1日に横田基地に飛来した米海軍P-8A哨戒機。円内はAPS-154高度空中センサー・レーダー(AAS)

この出っ張りはAPS-154と呼ばれる、高度空中センサー・レーダー(AAS)だ。

このレーダーは、稼働させるべきエリアに来ると油圧で細長いアンテナ面を下げる。

アンテナ面は左右を向いていて、ほぼ360度をカバー。

AASは、昼夜、悪天候下でも、監視対象の艦船や地上目標を遠距離から監視し、高解像度の映像を作成。

さらに、低空飛行でステルス巡航ミサイルや潜水艦の発見と追跡も可能とされる。

敵艦船を見つけると、AASを装備したP-8Aは標的の位置・動きの情報を、味方の軍艦や戦闘機、それに攻撃機に送付し、トマホーク巡航ミサイル、SLAM-ER地上攻撃用ミサイル、JASSM地上攻撃用ミサイルや、SDB IIグライダー爆弾など、ネットワーク化された兵器を誘導すると報じられている。

そんな特殊なミサイル等の監視役の航空機を米海軍は3機も横田基地に集めたのだ。

横田基地に着陸する米空軍E-8Cジョイントスターズ地上戦指揮機
横田基地に着陸する米空軍E-8Cジョイントスターズ地上戦指揮機

アメリカ海軍だけではなく、アメリカ空軍も、機体の下にレーダーを抱えたE-8Cジョイントスターズ地上戦指揮機や、空中で、レーダーや通信装置の能力を調べるRC-135Uコンバットセント電磁波計測偵察機、

横田基地に着陸するRC-135Uコンバットセント電磁波計測偵察機
横田基地に着陸するRC-135Uコンバットセント電磁波計測偵察機

それに、通信傍受が任務のRC-135Vリベットジョイント電子偵察機も、ほぼ同時期に横田基地に展開した。

横田基地に着陸するRC-135Vリベットジョイント電子偵察機
横田基地に着陸するRC-135Vリベットジョイント電子偵察機

もちろん、ロシアや中国もアメリカ軍の「目」を意識せざるをえない状態だったのではないだろうか。

では、ボストーク2022では、米軍の目を意識しつつ、どのようなミサイルの発射試験、または、発射訓練が行われたのか。

ボストーク2022演習にロシアが投入した様々な兵器

9月4日、「ボストーク-2022」演習で、ロシア太平洋艦隊のタランタル級コルベット、「R-11(艦番号:946)」「R-14(艦番号:924)」「R-18(937)」「R-19(978)」からなるミサイル艇打撃群(RKAUG)は演習で敵艦に見立てた標的の船に「モスキート」による打撃演習を実行した(タス通信2022/9/4)。

ボストーク2022演習に参加したと見られるタランタル級ミサイル高速艇(コルベット)。画像:統合幕僚監部8月22日発表
ボストーク2022演習に参加したと見られるタランタル級ミサイル高速艇(コルベット)。画像:統合幕僚監部8月22日発表

この演習では、ロシア太平洋艦隊の防空システムが、「敵」艦船のミサイル攻撃を撃退。

敵艦船を攻撃するよう命令を受けた「RKAUG」部隊は、直ちに敵艦船を追い、距離を50kmに短縮した後、RKAUGのミサイル艇は敵艦船を模擬した海上目標に4発のモスキートミサイルを命中させた」とロシア国防省は成果を示した (TASS通信2022/9/4)という。

タランタル級コルベットは、ソ連時代の1980年代から建造が続けられている軍艦で、全長56.1m、全幅11.5m、基準排水量391トンと小ぶりながら、最高速度は36ノットと小回りが利く艇体に、射程160km、最高速度マッハ2.2の超音速対艦巡航ミサイル=モスキートM(SS-N-22サンバーン)4発を搭載する。

この演習で、タランタル級コルベット4隻が参加し、モスキート対艦巡航ミサイル4発が発射されたのだとすれば、1隻で、4発発射したのか、4隻が1発ずつ発射したのか、興味深いところだが、上記のP-8A/AASやE-8Cジョイントスターズなら、リベットジョイントが傍受した通信内容を参考に、リアルタイムで状況を掌握出来たのかもしれない。

また、ロシアのプーチン大統領が、ボストーク2022演習を視察した6日、ロシア軍は「イスカンデル-M 戦術ミサイル・システムの複数回発射を使用して、仮想敵のコマンド ポストを破壊」するという演習を実行した(TASS通信2022/9/6)。

イスカンデル-M 戦術ミサイル・システムというのは、核弾頭装着可能な最大射程500kmの9M723弾道ミサイル、または、推定最大射程490kmの9M728 巡航ミサイルのどちらも装填/発射可能な西側ではあり得ないミサイル・システムだ。

そして、「敵の非常に重要な施設を標的にするために、複数回の航空攻撃に加え攻撃部隊の多連装ロケット・システムであるウラガン、トーネード G、グラッドからなる大隊、およびアルメニアとモンゴルの派遣団の多連装ロケット・システムの部隊に関与した。

ボストーク2022演習に参加するTu-95MS大型爆撃機
ボストーク2022演習に参加するTu-95MS大型爆撃機

これとは別に、2S5 Giatsint-S152mm自走砲や中国人民解放軍の PLZ-07 自走榴弾砲大隊も攻撃に従事した」(TASS通信2022/9/6)という。

さらに同日付で、配信された映像には、ロシア太平洋艦隊の地対艦ミサイル・システム「バスチオン」が、射程120~300kmとされる超音速対艦ミサイル「オー二クス」を発射するシーンがあった。

ボストーク2022演習でオー二クス対艦ミサイルを発射するバスチオン地対艦ミサイルシステム
ボストーク2022演習でオー二クス対艦ミサイルを発射するバスチオン地対艦ミサイルシステム

もちろん、ボストーク2022でロシア軍、中国軍が発射したロケット弾やミサイルは他にあったかもしれない。

が、米軍の様々な情報収集機の眼前で、様々な訓練発射がされていたなら、日本の安全保障にとっても重要な情報が収集される結果となっていたとしても不思議ではないだろう。

【執筆:フジテレビ 解説委員 能勢伸之

極超音速ミサイルが揺さぶる「恐怖の均衡」

極超音速ミサイル入門 |

能勢伸之
能勢伸之

情報は、広く集める。映像から情報を絞り出す。
フジテレビ報道局上席解説委員。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。報道局勤務、防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードとNATO本部の双方で取材。著書は「ミサイル防衛」(新潮新書)、「東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか」(PHP新書)、「検証 日本着弾」(共著)など。