「私はお姉ちゃんだから、最後でいいの」。女の子がそう言うと「え~?そんなルール、先生は知らないぞ~?」と顔をのぞき込む女性。このショートドラマがSNSで公開されると、250万回以上再生された。制作したのは福井市にある短期大学。なぜ地方の短大が保育をテーマにした動画を作りSNSで発信したのか。背景には、全国的に深刻化する保育者不足という課題があった。
「保育者になりたい」若者が減少
美玲ちゃんという女の子が、幼稚園の先生に優しく寄り添ってもらいながら、やがて「大きくなったら幼稚園の先生になりたい」という夢を持つまでを描いたショート動画。約3分と2分のこのショートドラマを制作したのは、福井市の仁愛女子短期大学だ。
同大学は保育士や幼稚園教諭の育成に長年力を入れてきた。9年前の調査では、県内の約6割の保育者が同大学の出身で、地域の保育を支える人材育成の拠点して役割を担ってきた。

しかし近年、入学者数は減少傾向にあり、志願者数は定員割れという厳しい状況が続いている。
背景にあるのは、全国的な「保育者離れ」だ。幼児教育学科長の増田翼教授はこう語る。「全国的に、保育者になりたと思ってくれる中学生や高校生が減ってきている」
こうした状況を打開しようと、増田教授は大学の広報チームと連携し、若者に向けた動画発信という新たなアプローチを模索。その結果として生まれたのが、このショートドラマだったのだ。
「周りから見ると何もしていないが、実は何かをしている」
ドラマの制作にあたって最もこだわったのは「保育者と子供の距離感」だという。よりリアルな保育の現場を描くため、細かい表現にまでこだわり抜いた。

増田教授は、一見すると地味に映るかもしれない。しかしそこにこそ、保育者の魅力の本質があると語る。
「保育者というのは、あんまり直接的に何かを言ったりやったりするのではなくて、多分周りから見ると何もしてないんじゃないかと思われる。でも、実は何かをしている。その上で何もしていないように感じるような関係作りとか雰囲気作りに、実はすごく気をつかっている」

保育者の仕事の醍醐味は、表には出てこない部分にこそある。子供が自然に笑顔になれる環境を、気づかれないようにそっと、しかし丁寧に整えていく——そういう「見えない技術」を持つのが保育者だ、と増田教授は語る。
ドラマではその「見えない部分」を映像で可視化することを試みた。美玲ちゃんが幼稚園の先生に憧れを抱くまでの心の動きを丁寧に描き出すことで、保育者という仕事の奥深さを視聴者に伝えようとした。
ドラマの終盤、美玲ちゃんは「大きくなったらなりたいもの」として「幼稚園の先生」と答える場面がある。
増田教授はこのシーンに込めた意図について「何でなりたいと思ったのか、美玲ちゃんの心のどこに、何が響いたのかを考えながら見てもらえると『あ、保育者ってすごいな』っていうのに気づいてもらえるんじゃないか」とする。
幼少期の記憶を呼び起こすショートドラマ
保育者の声掛けや寄り添いが、幼い子供の将来の夢にまで影響を与えることがある。実際に保育者を目指して仁愛女子短期大学で学ぶ学生たちも、自分自身の幼少期の体験を原点としている。
ある学生は「やっぱり一緒に遊んでくれた先生のことはよく覚えている。私も子供と一緒になって楽しく遊べる先生になれたら」と将来の自分の姿を描く。

また別の学生はこんな体験を明かしてくれた。「入園当初は毎朝泣いていたのが、先生が毎日抱っこや声かけで寄り添ってくれたことで、だんだん保育園が好きになっていった」という。そんな幼少期を振りかえり「親身になって寄り添えるような保育者になりたい」と話す。
公開後に予想を大きく超える反響を呼んだ仁愛短大のショート動画。SNS上での再生回数は250万回以上に達し、地方の短大が発信した動画としては異例の広がりを見せた。
保育者が日々、子供たちに向き合う「見えない仕事」を可視化したドラマは、保育者を目指す若者だけでなく、かつて保育者に支えられた経験を持つ多くの大人たちの記憶にも語り掛け、反響を呼んでいるのかもしれない。

