不動産取引をめぐる21億円の横領事件で罪に問われた、不動産会社「プレサンスコーポレーション」の元社長・山岸忍さんが後の裁判で無罪となった冤罪(えんざい)事件。

山岸さんの逮捕・起訴の根拠の柱となった、山岸さんの元部下の取り調べを担当した、当時大阪地検特捜部に所属していた田渕大輔検事の刑事裁判が7月10日から始まった。

田渕検事は「机を叩いて『検察なめんな』などと大声で取り調べた」ことについて、「特別公務員暴行陵虐」の罪に問われている。

始まった裁判で明かされたのは、特捜部の副部長や捜査のチェック役の検察官が取り調べを動画で確認しながらも、問題視していなかったということだ。

裁判を傍聴した山岸さんは「誰もひどい取り調べだと思ってなかったと明らかになり、驚いた」と語った。

■「命かけてるんだよ!検察なめんなよ!命かけてるんだよ、私は!」

田渕検事の取り調べとはどういったものだったのか。罪に問われている対象の一部は以下のようなものだ。(以下、取り調べを記録した録画・録音より)

・2019年12月8日の取り調べ
<田渕検事:自分の顔のあたりまで振り上げ、振り下ろし手の平で机を1回たたく>
【田渕検事】「嘘だろ!今のが嘘じゃなかったらいったい何が嘘なんですか!」

【田渕検事】「命かけてるんだよ!検察なめんなよ!命かけてるんだよ、私は!」

・2019年12月9日の取り調べ
【田渕検事】「なんで、そんなことしたの。それ何か理由があります?それはもう自分の手柄が欲しいあまりですか。そうだとしたらあなたは、プレサンスの評判を貶めた大罪人ですよ」

【田渕検事】「会社が非常な営業損害を受けたとか、株価が下がったとかいうことを受けたとしたら、あなたはその損害を賠償できます?10億、20億じゃすまないですよね。それを背負う覚悟で今、話をしていますか」

■田渕検事は「無罪」主張 検察官役弁護士指摘 最高検の「指導」

7月10日から始まった裁判で田渕検事は、「凌辱や加虐にあたる行為はなかったと考えております。検察官の職務に基づき取り調べを行っており、凌辱もしくは加虐をおこなう意図はまったくありません」と無罪を主張した。

一方、検察官役の指定弁護士は冒頭陳述で、大阪地検特捜部の主任検事らは、山岸さんの逮捕に消極的だったが、最高検察庁の「指導」によって、山岸さんの処分をどうするのかということを検討しだしたと指摘した。

そして田渕検事が「机を叩いて大声で威圧的に」取り調べる録画を当時の特捜部の副部長や捜査をチェックする役割の検察官が見ていたのに、問題視しなかったことも指摘した。

■「問題になるとは…」副部長や「チェック役」は田渕検事の取り調べを問題視せず

この冒頭陳述のあと行われた証拠調べでは、特捜部の副部長や捜査のチェック役である「総括審査検察官」の供述調書の内容などが法廷で明かされた。

それらによると、副部長は田渕検事の取り調べの動画を見たことを記憶していて、「熱心に調べていると思った。説得して追及することは必要で、問題になるとは全く思っていなかった」と供述したという。

この事件では、捜査のチェック役「総括審査検察官」は2人が選任されていた。しかし2人は、問題の取り調べを見たが、やはり問題視していなかったことを供述していた。

1人は「気になったことは間違いない」としながらも、「争点になりうると思っていませんでいた」「問題があるとは思いませんでした」と説明したという。

もう1人も「怒鳴った後に普通のやり取りもあり、『ゆさぶり』の一環で、全体を見ると、怒鳴ったことが(山岸さんの元部下の供述に)影響しているとは思わなかった」と話したそうだ。

裁判を傍聴した山岸さんは「誰もひどい取り調べだと思ってなかったと明らかになり、驚いた。かなり、我々一般国民と彼らの中で意識・常識の乖離(かいり)があるんだと感じました」と話している。

■チェック役検察官「録音・録画は正直、すべては見ていない」

なお、この「総括審査検察官」は、大阪地検特捜部で2010年に起きた証拠改ざん事件を受け、特捜部の捜査が適正に行われているかチェックするために導入された役割で、裁判で法廷に立つ、「公判部」の検事が任命されるという。

今回の2人の供述などから、この役割が十分に機能していないことをうかがわせる点もあった。

「録音・録画は正直、すべては見ていない」「総括審査検察官として捜査会議に出たことはない」などと語ったという。

初日の裁判を終えた後、指定弁護士は「検察庁全体の問題だと考えている」と話すなど、田渕検事1人の責任を問うというよりも、検察組織の問題点を指摘するという考えがうかがわれた。

次回、2回目の裁判では、田渕検事の取り調べの動画が法廷で流される予定だ。

関西テレビ
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