AIや電気自動車の急速な普及を背景に、世界的な需要が拡大し続ける半導体関連産業。その熱気は、遠く鹿児島県の北部地域にも確実に届いている。湧水町や出水市、伊佐市といった地域に、高い技術力と生産力を武器に成長を続ける企業が集まっているのだ。なぜ、鹿児島の「北部」なのか。そして、その製造現場では今、何が起きているのか。

月産1万9000枚のウエハーを生む「イエロールーム」

湧水町にあるフェニテックセミコンダクター鹿児島工場では、「ウエハー」と呼ばれる製品を製造している。円盤の表面に細かいチップが並ぶウエハーは、自動車やスマートフォンに欠かせない半導体の元となる部材だ。

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紫外線に敏感な素材を扱うため、製造は照明が黄色い「イエロールーム」と呼ばれる特殊な環境の中で行われる。世界的な半導体不足を受け、同工場は2024年に約44億円を投じて製造ラインを増設。ウエハーの製造能力は2割増え、月に1万9000枚の生産体制が整った。

現在、需要はいったん落ち着きを見せているものの、同社は先を見据えた準備を着々と進めている。鹿児島製造部の小林勝也部長はこう語る。

「1回冷え込んだ時期もありました。今は底を抜けて、好況に向かっている。お客から受注を受けた時に応えられる体制を、今は作るべき」

コロナ禍によるデジタル化の加速を皮切りに需要が拡大し、今はAI需要がさらにそれをけん引する半導体。その波に備える姿勢が、現場の言葉からひしひしと伝わってくる。

なぜ「県北部」に集中するのか

フェニテックセミコンダクターをはじめ、直近5年間に設備投資が行われた県内の主な半導体関連工場は、出水市や伊佐市など、鹿児島県北部に集中している。なぜ南国・鹿児島の中でも、とりわけ北部なのか。

九州経済研究所の福留一郎経済調査部長は、その理由をこう分析する。

「大きな用地が確保できるのは大きい。もう一つは交通アクセス。工場から作った物を運び出すというのが必要。半導体においては水が大きなポイント。(水が豊富な)熊本がTSMCに選ばれた、大きな要素でもある」

製品の出荷に不可欠な高速道路や空港へのアクセス、そして製造工程で大量に必要とされる水を賄える豊富な水源。この二つの条件が揃っているのが、鹿児島県北部という地域なのだ。TSMCが熊本を選んだ要因と同様の地理的優位性が、ここにも存在している。

売上200億円へ リーマンショックから復活したマルマエの軌跡

県北部で急成長を遂げている企業として特に注目されるのが、出水市に本拠を置くマルマエだ。直近5年間の売上推移を見ると、2025年に初めて100億円を突破。さらに2026年8月の本決算では200億円を見込むという、目を見張る成長ぶりだ。

同社の主力商品は、丸いアルミの塊を精密加工した「真空パーツ」と呼ばれる部品。半導体を製造する機械に組み込まれる、いわば半導体製造装置の心臓部だ。取締役の安藤博音さんはその工程をこう説明する。

「製品の成形というような工程で、外形だったり端面というところを工具を使って削るというような。色々また工程もあるが、当社で言う半導体製造装置の心臓部と呼んでいる」

約150台の工作機械が稼働する広大な工場内で、マルマエは今や真空パーツのシェアで業界ナンバーワンを誇る。しかし、その歩みは決して平坦ではなかった。

オートバイのフレームから、半導体の心臓部へ

マルマエが創業したのは1992年。当時、工場で製造していたのは半導体とは無縁のレース用オートバイのフレームや部品だった。その後、液晶パネルや太陽電池の分野へと事業を拡大したが、2008年のリーマンショックで経営は傾き、金融機関の支援のもとでの経営再建を余儀なくされた。

そのどん底の状況の中で同社が活路を見いだしたのが、半導体の分野だった。

「半導体の方に舵を取って、需要が大きくなった。技術力をより磨き、再構築し、強みを半導体市場に向けたのが大きな起点」と安藤さんは振り返る。

長年にわたる金属加工の経験で培われた素材への深い知見。それを武器に、品質の高い製品を作り続けてきた技術者たちが、今日の同社を支えている。真空パーツは高温・高圧という過酷な条件下で使用されるため、製品の仕上げには極めて高い精密さが求められる。機械では対応しきれない細部は、人の手が丁寧に仕上げる。

現場の従業員はこう語る。「機械では見れない、隙間や穴の中を重点的に見ています。半導体に対しての製品なので、とても気を使う」

こうした地道な積み重ねの結果、現在ではグループ企業を含め約600人の社員が在籍し、県内でも数少ない東証プライム市場への株式上場を果たすまでに成長した。

「かつてないほどの強い引き合い」 240兆円市場が地域を変える

業界を取り巻く現状について、安藤さんはこう手応えを語る。

「今はかつてないほどの、強い引き合いを感じている。ここ数年間にかけて継続する見込みを感じている」

半導体関連産業の世界市場規模は、2026年に約240兆円に達すると予想されている。その巨大な市場の影響が、鹿児島県北部という地方にまで波及しているのだ。

福留経済調査部長も、この産業が地域にとって持つ意味をこう強調する。

「半導体産業自体がこれから将来的に伸びるところがあり、"産業のコメ"と言われる本当に不可欠な産業。製造する拠点を鹿児島にも多く持ってくることは、鹿児島の発展にとって不可欠といえる」

県も産官学が連携して取り組む協議会を設置するなど、半導体産業の振興に力を入れている。用地・水・交通という地理的優位性と、地元企業が長年磨いてきた技術力。その掛け合わせが、鹿児島県北部を半導体関連産業の集積地として育てつつある。AI時代の「産業のコメ」を巡る競争の中で、鹿児島の北部地域は着実に存在感を高めている。

鹿児島テレビ
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