マイページ
「聴覚障害者が通いやすい美容室をつくりたい」 先天性難聴を乗り越え美容師を目指す19歳の挑戦|FNNプライムオンライン
“私”を生きる ~live My life~

「聴覚障害者が通いやすい美容室をつくりたい」 先天性難聴を乗り越え美容師を目指す19歳の挑戦

Google ニュース プリファードソース

鹿児島市の専門学校に通う岩田桃佳さん(19歳)は、先天性難聴でありながら美容師を目指している。「はさみと友達になれたような気がする」——そう笑顔で語る彼女の手には、はさみで切った傷にばんそうこうが貼られていた。音のない世界に生まれた岩田さんが、夢に向かって一歩ずつ前進する姿を追った。

生後1カ月で発覚した難聴、2歳で受けた手術

岩田さんが先天性難聴と診断されたのは、生後1カ月のことだった。父・光昭さんは当時をこう振り返る。

この記事の画像(15枚)

「ドアをドンッと強く閉めて反応を見たり、くしゃみをして反応を見るが、全然反応がなかった。お父さんとお母さんの声を聞いてほしい、『パパ』『ママ』でもいいから呼びかけてほしい」

その言葉には、わが子の反応を懸命に引き出そうとした親の切実な思いが滲む。

難聴の岩田さんを支えているのは「人工内耳」だ。2歳の時、耳の奥に電極を埋め込む手術を受けた。

「ここにこれくらいの磁石の電極が入っている。それが脳につながって脳神経に言葉が響くみたいな」

手術後は病院での定期的な検査を続けながら、ろう学校での練習も重ねた。人工内耳で聞こえる音と、相手の口の動きを組み合わせることで、会話の内容をほとんど理解できるようになっていった。

小学校の卒業文集に書いた夢「美容師になっていますか?」

岩田さんが美容師を志したのは、小学生の頃のことだ。卒業文集には「美容師になっていますか?」という言葉を残していた。

「小学生の時から髪をアレンジすることが好きで、友達にヘアアレンジしてあげた時の笑顔がうれしかった。これがきっかけで、美容師になりたいって」

友達の笑顔が、夢の原点だった。2026年4月、岩田さんは鹿児島市内の県美容専門学校に入学し、夢への一歩を踏み出した。

入学時に不安はなかったのか、と尋ねると、「今は不安よりも楽しみが大きいです」と即答した。

授業中はスマホの音声認識アプリが頼り

入学から2週間、初めての実習が始まった。友達の髪の毛をまとめたり、くしでとかしたり、美容室で客を出迎えるための基本的な練習だ。授業ではスマートフォンの音声認識アプリを使いながら、先生の言葉を聞き取る。

しかし、実習中にはアプリが使えない場面も訪れた。シャンプーの練習でトリートメントが手についたタイミングで先生に呼ばれ、音だけで指導を受けることになったのだ。

「(音だけで)7割くらいは分かるが、先生の話より動きを見て、まねしようという感じ」

それでも岩田さんは、「めっちゃ楽しかった」と振り返る。困難の中にも楽しさを見つける姿勢が、彼女の言葉ににじみ出ている。

「あっという間に時間が過ぎる」 熱中したワインディング

実習から4日後、岩田さんが心待ちにしていたワインディングの授業が始まった。ワインディングとは、パーマをかける際に「ロッド」と呼ばれる筒状の道具を髪に巻きつける作業のこと。美容師の技術の中でも基礎とされる工程だ。

「(ロッドの)両端から髪がはみ出ないようにしっかり覆って巻くのが難しい。あっという間に時間が過ぎる」

夢中になって取り組む岩田さんの姿は、教える側の講師にも伝わっていた。

「目の色が違う。『本当に好きなんだな』と」

放課後の自主練、手にはばんそうこう

授業が終わり、多くの同級生が帰宅する中、岩田さんは黙々と準備を始めた。ワインディングのコンクールに向けた自主練である。手にはばんそうこうが貼られていた。

「はさみで切りました」

コンクールで問われるのは、40分間の制限時間内に手順通りきれいに髪を巻けるかどうか。岩田さんは約1時間半にわたって、一つ一つの手順を丁寧に確認し続けた。

コンクール本番、120人の中でピックアップ

そして迎えたコンクール当日。これまでの2カ月間の練習を思い出しながら、岩田さんは素早く、かつ丁寧にロッドを巻いていった。緊張からか手が震え、巻き直す場面もあった。

40分間の競技が終了すると、120人の学生の作品が一堂に並んだ。全体のバランスが良いと判断された約20作品がピックアップされ、その中に岩田さんの作品も選ばれた。残念ながら入賞には届かなかったが、岩田さんの表情には確かな充実感があった。

「やりきった。入賞できなくても時間内に全体を巻き終えたことがよかった」

「聴覚障害者が通いやすい美容室をつくりたい」

コンクールを終えた岩田さんには、美容師として将来成し遂げたいことがある。

「聴覚障害者が通いやすい美容室をつくりたいという思いを持っている。どんな客の期待にも応えられるような美容師になりたい」

自身が難聴である経験を、夢の中心に据えている。音のない世界に生まれ、人工内耳と口話で言葉を習得し、専門学校ではさみと向き合う——岩田さんの歩みは、同じように聴覚に障害を持つ人々にとっても意味を持つ。

小学校の卒業文集から10年近くを経て、夢はいま確かな形になりつつある。だが美容師への道のりは、まだ始まったばかりだ。岩田桃佳さんの挑戦は、これからも続く。

【動画で見る▶「はさみと友達になれた」難聴を乗り越え美容師を目指す19歳 人工内耳で音を感じながら夢を追う【鹿児島】】

鹿児島テレビ
鹿児島テレビ

鹿児島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。

  • 1
  • 2
関連記事
【よく一緒に読まれている記事】
【読まれています】神村学園が女子ソフトボール5連覇!鹿児島県高校総体2026 5対0完封でインターハイ切符獲得
【読まれています】神村学園が女子ソフトボール5連覇!鹿児島県高校総体2026 5対0完封でインターハイ切符獲得
“私”を生きる ~live My life~の他の記事
「誰も知らなくなるのが悲しい」 父の震災体験を受け継ぐ15歳の語り部 震災遺構を守る父の背中追う 岩手・陸前高田市
「誰も知らなくなるのが悲しい」 父の震災体験を受け継ぐ15歳の語り部 震災遺構を守る父の背中追う 岩手・陸前高田市
ライフ
フレンチや寿司も食べられる!進化する『嚥下食』 診療報酬改定で新メニューの開発進む 料理人の学習重要【福岡発】
フレンチや寿司も食べられる!進化する『嚥下食』 診療報酬改定で新メニューの開発進む 料理人の学習重要【福岡発】
ライフ
【医療的ケア児】2時間おきに起きる母親 医療的ケア児・瑛斗くん(10)の家族が担う
【医療的ケア児】2時間おきに起きる母親 医療的ケア児・瑛斗くん(10)の家族が担う"終わらない介護" 支援の現状と課題を考える 
ライフ
「JAPAN」の生活ルールは難しい? 日本で働く外国人が直面する課題とは バングラデシュから来日した若者3人が奮闘
「JAPAN」の生活ルールは難しい? 日本で働く外国人が直面する課題とは バングラデシュから来日した若者3人が奮闘
都道府県
一覧ページへ
×