燃料費の高騰や後継者不足など、苦境が続く銭湯業界。そんな中、年中無休でのれんを掲げ続ける銭湯が滋賀県大津市にある。
「この子がいるから頑張れる」と話すのは、女将の米谷さん。
経営の危機を乗り越え、銭湯を守り続けてきた女将。その歩みをそばで支えたのは、一匹の保護猫だった。
老舗銭湯の番台猫「福ちゃん」
創業67年、古くから地域の憩いの場として愛されてきた「大津湯」。この銭湯で番台猫を務めているのは、三毛猫の福ちゃん(6歳)だ。
午後6時~7時の間、番台横にあるケージで、癒やしを求めやってくるお客さんを温かく迎えている。
「この子が福を呼んでくれた」そう語る米谷さんは、福ちゃんとの運命的な出会いについて振り返る。
2019年3月、当時銭湯を経営していた夫が突然、脳出血で倒れた。さらに同じ時期、母に大腸がんが見つかり、義父が交通事故に遭った。
3人を介助しながら、銭湯の経営もこなす過酷な日々。ついには米谷さん自身も体調を崩してしまい、大津湯は休業を余儀なくされた。
運命的な出会い
福ちゃんと出会ったのは、そんな休業中のことだった。偶然、地元の情報サイトで見かけた一匹の子猫。
「お尻に肉球みたいな模様があって、それがすごくかわいくて」
以前から猫を迎えたいと考えていた米谷さんは、早速申し込もうと思ったものの、まだ生後3カ月の愛らしい子猫ならきっと他に飼い主が現れるだろうと諦めることに。
そして、ある老夫婦が飼っている成猫に出会い、助けたい一心で引き取りを希望し、譲渡してもらうことが決定。ところが、直後に夫婦の孫が引き取ることが決まったため取り消しになってしまった。
本当はあの時の子猫をお迎えしたいと思っていた米谷さんは、半ばダメもとで再度地元の情報サイトをチェックしたところ、まだ募集が継続していた。
「この子は絶対、私を待っている!」そう直感した米谷さんは、すぐに申し込み、晴れて福ちゃんを新しい家族として迎え入れることに。
その2週間後の2020年11月26日「いいふろの日」に大津湯は再オープン。福ちゃんも番台猫としてデビューすることとなった。
福ちゃんがもたらした変化
米谷さんは当初、福ちゃんを番台に立たせることに不安を感じていたという。
「銭湯は清潔感が大事なので、受け入れてもらえるか心配でした」
だがその心配は杞憂に終わる。お客さんから苦情が来ることは一切なく、むしろ客足は増えたそう。実際に10年前と比べ、現在では来客数は平日は約2倍、土日にいたっては約3倍ほどに増加しているという。
米谷さんは福ちゃんが番台に立つようになってから、銭湯の空気に変化があったと話す。
「お客さんの表情がとても柔らかくなりました。まるで孫を見ているような」
福ちゃんを通してお客さんとの会話も増え、自然と笑顔があふれる…、文字通り、銭湯に“福”を招いてくれた福ちゃん。20カ月という長い休業期間を経て、「大津湯」は再び地域の憩いの場として復活を果たした。
しかし平穏な日々は長くは続かなかった。再オープンから半年が過ぎた頃、米谷さんを病魔が襲った。病名は末期の肝不全だった。
