宍道湖の恵みを全国へ…松江出身大学生が新たな土産品を開発
漁獲量11年連続全国トップを誇る宍道湖のシジミ。
その中でも水揚げ量の少ない「特大2Lサイズ」だけを厳選したレトルト土産品が、島根・松江市出身の大学生の手によって生まれた。
「シジミの身は食べるもの」…島根では当たり前のこの常識を、県外の人々にも広めたいという思いが、一人の若者を動かしている。
漁獲量11年連続の日本一 定番土産として不動の人気
宍道湖産のシジミは、2024年の漁獲量が4590トンにのぼり、11年連続で全国トップを記録する。
松江市内の土産物店では、販売スタッフが「島根の宍道湖のシジミは日本一でございます」と自信を持って勧め、シジミに関連した商品だけで40種類以上が並ぶ。
観光客からも「宍道湖でシジミのイメージありますね」「シジミ汁がおいしかったので買って帰ります」という声が上がるほど、シジミは「島根土産の定番」として揺るぎない地位を築いている。
そんな土産物の激戦区に、新たな商品が加わった。
「宍道湖産厳選特大しじみ」だ。

5年以上育った“特大シジミ”を厳選
この商品が一般的なMサイズのシジミと並ぶと、粒の大きさの違いは一目瞭然だ。
殻の高さ16ミリ以上、生育に5年以上かかるという特大「2L」サイズだけを厳選し、常温で販売できるレトルト商品に仕上げた。
企画したのは、東京・武蔵野大学の3年生、森山遥翔さん。
島根・松江市出身で、県外の大学に通う学生を中心に結成した学生団体「ShimaNext(シマネクスト)」の代表として、イベントなどを通じてふるさとを盛り上げる活動を続けている。
商品は4月中旬に販売を開始し、これまでに約300個が売れた。
「本当に置かれたんだなと思って、びっくりしています」と森山さんは語る。

「食べるものなの?」東京で受けたカルチャーショック
森山さんが特大サイズにこだわる背景には、上京して気づいたある驚きがある。
「少なくとも学生の僕の周りの友達がシジミの身を食べているのは見たことがない。『何で食べないの?』って聞いたら『食べるものなの?』という反応を見て」
島根県民にとって「シジミの身は食べるもの」はごく当たり前の常識だが、県外ではシジミはだしをとるためのものとして扱われることが多い。
「だしとして消費されるものが多く、食べるものはあまりなくて、1回出てみて気づくというのは多々ありました」と森山さんは振り返る。
特大サイズなら身に食べ応えがあり、シジミの魅力をもっと知ってもらえる…そう考えた森山さんは、3代続くシジミ漁師の父・忍さんに商品化を相談した。

二度の挫折から商品化へ シジミ漁師の父の協力で道を切り開く
父・忍さんは長年の経験と勘で、Lサイズと2Lサイズが混ざった状態から音で空洞を判別し、死んだシジミを選別する技術を持つ。
商品化への父の協力は得られたが、販売ルートの開拓は一筋縄ではいかなかった。
まず高級飲食店への営業から着手したが「バイヤーのところまでたどり着いても学生というのもあり、なかなか取り持ってもらえず」、100件ほど電話をかけても色よい返事は返ってこなかった。
次に冷凍の土産物への方向転換を試みたが、今度は土産物店から「冷凍の商品は扱いづらい」と断られ続けた。
二度の挫折を経て、最終的に地元の業者の協力を得て常温販売できる加工を実現し、商品化にこぎ着けた。
父・忍さんは「行き当たりばったりなところはあるが、常温販売できる商品は一漁師だけではできることではないと最初から諦めていた。本当にありがたいと思うし、頼もしいと思っている」と息子の奮闘を見守る。

特大シジミ1パック800円…売れ行きに苦戦も「本当に良いもの」を全国へ
店頭では、多くのシジミ商品がおおむね300円から600円で並ぶ中、森山さんの商品は1パック800円と値が張る。
観光客が手に取りながらも、ほかの商品を選んでいく場面も少なくない。
「ちょっと値段も高いし、手に取りやすいかというと、そうではないと思う。でも本当に良いものを使っているので、手に取ってもらえることはあるのでは」と森山さんは前向きに話す。
古民家を活用した宿泊事業の計画が「大学生版みらチャレ」で実現しなかった経験も持つ森山さんだが、そのたびに次の挑戦へと動き続けてきた。
「香川県の讃岐うどんや松阪牛とかブランディングされているものが多々ある中で、宍道湖のシジミもそれに外れていないのかなと思う。考える前に動く、考えてから最善を尽くすという自分のモットーがあるので、最善を尽くしながら、突撃していこうと思う」と前を向く。
選別作業の自動化についても、「音声識別AIでできたらな」と関係者に働きかけている。
父・忍さんからは「正直、需要はないと思います」とにべもない返答が返ってきたが、それでも森山さんはくじけない。
「大きく、食べ応えのある」特大シジミを手がかりに、島根の常識を全国へ届けようとする大学生の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

