荒れた休耕田に「希望の苗」島根と大阪結ぶ農業モデルに挑戦
島根・雲南市の農家と、大阪・八尾市の農業法人が手を組んだ。
荒れたままになっていた休耕田でコメを作る「二拠点農業」という取り組みだ。
担い手不足と耕作放棄地という、日本の農業が抱える二つの難題に、新しいアプローチで挑む試みが動き出した。
都市から担い手が集結 「二拠点農業」に希望
5月13日の朝、島根・雲南市木次町に大阪ナンバーのトラックが姿を現した。
荷台に積まれていたのは田植え機。
すでに苗がセットされており、そのまま田んぼへと向かった。
この光景が象徴するのが、大阪・八尾市の農業法人「ゆーかりファーム」による「二拠点農業」だ。
雲南市内の3つの地区にある合計5ヘクタールの休耕田を対象に、コメ作りを始めた。

市内の水田の4分の1が荒廃…地方農業を再生へ
なぜ雲南市でこうした取り組みが求められているのか。
背景には“深刻な数字”がある。
雲南市では、高齢化による担い手不足の影響で全体の約4分の1にあたる約1200ヘクタールの田んぼが荒廃し、作付けが行われていない状態だ。
田んぼは、手入れをしなければ雑草が繁茂し、やがて農地としての機能を失っていく。
雲南市の石飛市長は「農業の後継者が不足する中で休耕田がどんどん増えている。その休耕地を増やさないこと、外の方の力を借りながら環境を維持していくということをチャレンジしていきたい」と語る。

「作業分担」が生む新しいコメ作り 地域間の約1か月の時差活用
この二拠点農業の核心は、作業の「分担」にある。
大阪の農業法人「ゆーかりファーム」が農機と作業スタッフを提供し、雲南市の農家から委託された農地で田植えから収穫までの主要作業を担う。
作業を終えたスタッフは大阪に戻る。
その後の水の管理、除草、肥料散布といった日常的な「世話」は雲南市の農家が引き受け、業務委託費を受け取る仕組みだ。
雲南市の農家にとっては、体力的・時間的に最も負担の大きい田植えや稲刈りを任せられる。
農業法人にとっては、大阪と雲南市で田植えや稲刈りの時期に約1か月の時差があるため、機械と作業スタッフを二つの拠点で有効に回すことができる。
双方にとって合理的な構造だ。

経営拡大阻む大阪の農地問題…雲南に活路見出し実現へ
ゆーかりファームの橋本和則さんは、長年放置されてきた田んぼへの田植えに、「長いこと植えられなかった田んぼにコメを何年振りかに植えるっていうことは1つゴールができたんじゃないかな」と感慨を示した。
橋本さんがなぜ、雲南市に目を向けたかといえば、大阪側の事情もある。
大阪では農地の価格が高く、コメ作りに必要な広い農地の確保が難しい。
経営規模を拡大したくても土地がない。
そうした状況の中、知人を通じて雲南市を紹介され、“第2の拠点”として選んだという経緯だ。
地域の受け入れ側も歓迎ムードだ。
雲南市農業委員会の松原利広さんは「うれしいです。最高です。橋本さんと協力しながら進めていきたい」と率直な喜びを語った。

コメ作りから販売まで一体化 地元の雲南市も後押し
雲南市は、この取り組みをコメ作りだけにとどめるつもりはない。
収穫されたコメを大阪など都市部でも直接販売できるよう、市としてサポートしていく方針だ。
石飛市長は「雲南のコメを、コメ作りの現場からできたコメを知ってもらうことで認知が広がって、たくさんの方に食べていただけるきっかけになるんじゃないか」と期待を語る。
産地直結の販売は、生産者の収益向上にもつながる可能性がある。

「少しでも日本の農地の維持を」 二拠点農業にかかる期待
橋本さんは、この取り組みに込めた思いを「地元と協力してやっていこうという方が1人でも増えると、少しでも日本の農地を維持できるのではないか」と表現する。
担い手不足、休耕田の増加、耕作放棄地の拡大。
これらは雲南市だけの問題ではなく、日本全国の農村が直面する共通の課題だ。
大阪と雲南市をまたぐ「二拠点農業」は、その課題に対するひとつの現実的な答えとして、静かに動き始めた。

