米中首脳会談が行われると「これからは米中のG2時代になるので日本やEUは取り残される」と言う人が必ずいる。
今回も日中協会会長の野田毅元自治相がTBSの取材に対し「(日本は)置いてけぼり食うようにやってるように見える。明らかに国力の差が歴然としてきた」と述べて日中関係の冷え込みに危機感を示した。
だがG2時代というのは本当にやって来た(来る)のだろうか。
中国はいずれ民主化される?
G2という言葉が現実の政治として最初に大きく取り上げられたのは2013年にバラク・オバマ米大統領が習近平・中国国家主席と米国カリフォルニアで会談した時だったと思うが、その時のメディアの論調は「これからはG7ではなくG2が世界を牛耳る」というものだった。
だがその後のオバマ政権は意外にも中国と距離を置いた。これは1971年のキッシンジャー極秘訪中以来の米国による「対中関与政策」が失敗だったという判断に傾いたからだと言われている。
「関与政策」とは「中国が米国とは価値観を異にする共産主義体制でも、米国が協力し中国をより経済発展させれば中国の政治もいずれ民主化されるだろう」という、今考えればとんでもなくのんきな政策である。これに日本も欧州も同調した。
だが習近平政権になって対外膨張、軍事増強、経済での不公正慣行、さらに国内での人権弾圧の強化など政治改革は進まずむしろ逆行している。つまり関与政策は失敗したのだ。
トランプ大統領「I MISS YOU」
2017年2月に安倍晋三首相が米国フロリダでドナルド・トランプ大統領と会談し日米の蜜月時代を築いたのだが、実はその2ヶ月後に習近平氏もフロリダに招待されている。
これは「安倍・トランプ」の仲が良すぎたので米政府の親中派がバランスを取るために習近平氏も呼んだ、あるいは中国が日本に対抗した、などと当時は言われたが、トランプ氏はどうも乗り気ではなかったらしい。
これは安倍氏の側近に聞いた話だが、習氏がフロリダを出発した直後にトランプ氏が電話をかけてきて「晋三、君がいなくて寂しかったよ(I MISSED YOU)」と言った。「I MISS YOU」は離れ離れになっている恋人同士が「あなたがいなくて寂しい」とささやき合う愛の言葉だ。
側近氏は「男同士で気持ち悪いけどトランプは安倍さんを頼りにしていた」と言っていた。この時はG2という言葉はあまり出なかったと思う。
G2で世界を牛耳るのは無理?
そして今回の北京会談である。中国はまず米ボーイング社の旅客機を500機買うはずが200機しか買わず、ボーイング株は暴落してしまった。
またイラン問題では「イランの核兵器保有への反対」と「ホルムズ海峡の開放」では一致したが、肝心の戦闘終結に向けた中国の影響力行使については触れられなかった。
これは中国が経済的にも軍事的にも強くなったから、もう米国の言うことを聞かなくなったのか。いや中国も国内経済では苦しんでいるしイラン危機にも困っている。可能なら米国と協力して色々と事を前に進めるという選択肢もあったはずだ。
だがこのグローバリズムの時代に2強とはいえ2つの国だけで世界を牛耳るのはやはり無理だということではないのか。
台湾問題では方針変わらず
日本にとっての最大の関心事である台湾有事について習氏は台湾問題で米側が対応を誤れば米中関係を「非常に危険な方向に追い込む」と警告した上で、トランプ氏に台湾を防衛するかどうかを聞いたが、トランプ氏は「それについては話さない」と答えたという。
これは中国が台湾を「国内問題」と捉え、米国は軍事介入についてはどうするか答えない「あいまい戦略」をとっているという、どちらもこれまでと変わらない方針だ。
もうひとつ。台湾への武器輸出についてトランプ氏が色々と言及しているのは結局、「中国が台湾を攻めるなら台湾に武器売るよ。攻めないなら売らないよ」というこれも原則的な話をしているのではないか。
「台湾有事」の蓋然性は高くない
米国のCSISというシンクタンクが2023年に行った台湾有事のシミュレーションでは、「米国の辛勝」という予測が出ている。ただし米中双方に甚大な被害が出てそれは戦後の世界の安全保障に大きな影響が出るということだった。
2023年から3年たち、中国の軍事力はさらに増強されているが、まだ米国を超えるところまでには至っていない。
中国政治に詳しい高原明生・東京女子大特別客員教授は15日付の朝日新聞の記事の中で「中国は米国と肩を並べて世界に奉仕する実力はまだないとの自覚があり、米中2極のG2は時期尚早との立場だ」と述べている。
これらのことを考えると、中国が台湾上陸を意図し米国がそれを阻止するという「台湾有事」の蓋然性があまり高いとは思えない。だがお互いがそれを表明することはないだろうし、「仲良し」になることもないと思う。
「戦略的互恵関係」とほぼ同じ
今回の北京会談の後、中国政府は両国について「建設的な戦略的安定関係」を打ち出した。「どこかで聞いたような言葉だな」と思っていたら、17日に米国が「公平さと互恵に基づく、戦略的安定の建設的な関係」と発表した。
なんだ、日中の「戦略的互恵関係」とほとんど同じじゃないか。

「戦略的互恵関係」は2006年に第1次安倍政権が打ち出したもので、「歴史認識や価値観の相違などの対立点を棚上げし、経済や安全保障などで協力と実利を重視する外交方針」だ。
当時の外務省高官は「本当は嫌いだけど、ケンカしてると周りに迷惑だから笑顔で握手はしようね、という関係」と言っていたが、米中も今後は同じような関係になっていくのかと思った。
【執筆:フジテレビ客員解説委員 平井文夫】
