最初に書いておくが筆者は「食料品消費税ゼロ」に反対ではない。日本が10%と欧州より税率が低いのに「痛税感」が強いのは食料品がゼロでないからだろう。

ただし75歳以上の原則医療費3割負担、高額療養費や薬の保険適用の縮小などの財源措置は必須だ。

中道の「食料品消費税ゼロ」公約

さて中道改革連合の階猛幹事長が、衆院選で掲げた「恒久的な食料品消費税ゼロ」について「難しい」との認識を示したのに対し、小川淳也代表は24日の会見で「今後も公約として消費減税を掲げる」と述べて階氏の発言を打ち消した。

階氏は「恒久的な食料品消費税ゼロ」について「難しい」との認識
階氏は「恒久的な食料品消費税ゼロ」について「難しい」との認識
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立憲民主党は前身の民主党政権時代の2012年、消費税を5%から10%に引き上げることで自民党、公明党との3党合意に至ったがその後、増税の前提である少子化対策が自公政権で不十分だとして反対の立場に転じた。

だが22年に枝野幸男元代表が「消費減税の訴えは間違いだった」と「ザンゲ」した。

「消費減税の訴えは間違いだった」
「消費減税の訴えは間違いだった」

これはなかなか衝撃的だったが、階氏は党内でこの「消費減税路線の見直し」を主導してきた人なので、筆者は階氏の「消費税ゼロ難しい」発言には期待しただけに、小川氏の「打ち消し」は残念だった。

「恒久財源を見つけるのは正直言って自信がない」

2月の衆院選での中道の公約は「恒久的な食料品消費税ゼロ」だったが、実は昨年の参院選での立憲の公約は「最大2年間の食料品消費税ゼロ」だった。

2月の衆院選では「恒久的な食料品消費税ゼロ」を公約に掲げて惨敗
2月の衆院選では「恒久的な食料品消費税ゼロ」を公約に掲げて惨敗

衆院選で中道は財源として政府系ファンドによる運用益を挙げたのだが、これには「(財源である)5兆円の運用益が得られなかった年は消費税を上げるのか」などのツッコミが殺到していただけに、「恒久財源を見つけるのは正直言って自信がない」という階氏の発言はまさに「正直な」ものだと思った。

ちなみに日本の年間医療費は50兆円ほどなので、医療費削減だけで財源を作るとしたらこのうち5兆円、すなわち1割を削るということになる。これはなかなかしんどい作業だ。

財源無き政策で有権者の信頼得られず

民主党政権が失敗した最大の理由はマニフェストに書かれていた「子ども手当」などの魅力的な政策について「財源はいくらでもある」と選挙前に言っていたにもかかわらず、政権を取ったら財源が見つからず政策が実現しなかった、ということがある。

この間違いを繰り返しているうちは有権者の信頼は得られないし、政権も取れないだろう。

だから立憲が「消費減税路線の見直し」の末に参院選で「最大2年間の食料品消費税ゼロ」と期限を切って公約にした時に筆者は「これで立憲も政権が取れる」と密かに喜んだのだが、また元に戻ってしまったのであれば残念だ。

国民民主も“消費税5%”見直し検討

階発言について同じ民主党出身の榛葉賀津也・国民民主党幹事長は24日、「選挙直後に(基本政策を)幹事長が覆すのは問題だ」と批判したが、これもいただけない。

榛葉幹事長は階幹事長の発言に「幹事長が仰ったの?素直だね」と苦笑いした
榛葉幹事長は階幹事長の発言に「幹事長が仰ったの?素直だね」と苦笑いした

というのは玉木雄一郎代表が7日の会見で衆院選の公約だった「消費税を5%に減税」について賃金上昇率が安定したことを理由に「見直し」を検討すると明らかにしたのだ。

玉木氏は「公約の変更ではない。もともと減税は賃上げが安定するまでと条件をつけていた」と反論するだろうが、素人から見れば階氏も玉木氏も選挙では景気のいいバラマキ公約を並べていたのに、終わったら「シブチン」になったという意味では同じに見えるのではないか。

ただ消費税という基本政策であっても野党が公約を変更することはそれほど悪いことではないと思う。むしろどちらも財源や経済情勢を考えた現実的な判断だ。

だが与党がコロコロ変えるのは困る。

「2年間の食料品消費税ゼロ」の前提

ということで高市早苗総理大臣が公約に掲げた「2年間の食料品消費税ゼロ」である。

これは衆院選の直前に唐突に出てきて、選挙中に高市氏がさらにアクセルを踏む形になった。

「2年間の食料品消費税ゼロ」を公約に掲げ…
「2年間の食料品消費税ゼロ」を公約に掲げ…

高市氏は「悲願」とまで言っているので、もしできないとかなり厳しいことになる。

ただ筆者がずっと気になっているのは高市氏が「2年間ゼロ」の前提として「給付付き税額控除」をスタートするまでの経過措置と繰り返し述べていることだ。

高市総理は2月の“国民会議”初会合で「思い切ってやりましょう」
高市総理は2月の“国民会議”初会合で「思い切ってやりましょう」

これをそのまま受け取るなら「給付付き税額控除」の制度設計が一応出来上がって開始時期が決まらないと「2年間ゼロ」はできないということになる。

国民の預金額を国が把握しないと…

だが「給付付き税額控除」を実施している国では個人の銀行預金口座を国が把握している。英国やカナダの制度を見ると収入がなくても大体300万円以上の預金があると給付は行われないようだ。

だが日本では政府が銀行口座を把握していないので、たとえ収入がないのに1億円の預金がある人にも給付されることになる。かと言って日本国民は自分の銀行口座が国に把握されることを認めるのか。それはイヤだろう。

政府があなたの銀行口座を把握すると言い出したら… イメージ
政府があなたの銀行口座を把握すると言い出したら… イメージ

つまり日本では「給付付き税額控除」の実現は難しいので、従ってそれを前提とした2年間の食料品消費税ゼロも実現しないのではないかというのが筆者の予想だ。

ちなみに「給付付き税額控除」抜きで「2年間ゼロ」だけやりますというのは危険だからよした方がいい。10兆円の財源は税外収入などでなんとかなると思うが、2年後に元に戻すのは政治的に相当難しいからだ。これは間違いなく政局になる。

一方でイラン危機によるエネルギー関連の高騰の方が今や食料品よりも「切実」ではないかとの意見も政府与党内には出始めている。

衆院選は「2年間ゼロ」を言わなくても勝てた、というのはもちろん結果論なのだが、この問題は高市政権が抱える政策課題の中で最も判断が難しいもの だと思う。

【執筆:フジテレビ客員解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ客員解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て報道局上席解説委員に。2024年8月に退社。