「新型コロナで療養中の親族と数日間連絡が取れない」119番通報を受けた消防隊は、親族が住む横浜市内のマンションに駆けつけたが、ドアには鍵がかかっていた。
マンションの管理会社とは連絡が取れず、消防隊は通報者の了解を得てドアの鍵を破壊。室内に入ったが、居住者は不在だった。
要救助者はいなかった。しかし、破壊されたドアは残された。
このドアの補修費用は、誰が負担すべきなのか?横浜地裁は5月14日、横浜市に支払いを命じる判決を言い渡した。人を救うためにやむを得ずドアを壊した消防隊が、なぜ費用を負担することになったのか。
「コロナ療養中の親族と連絡が取れない」
判決によると、当該事案が起きたのは、2022年2月。まだ新型コロナウイルスがまん延している時期だった。この日、横浜市内のマンションに住む人の親族から、「新型コロナウイルス陽性で自宅療養中の居住者と数日間連絡が付かない」との119番通報が入った。
横浜市消防局の救急隊がマンションに駆けつけると、当該部屋の鍵は閉められており、室内に入る事が出来なかった。救急隊はマンションの管理会社に電話したが、連絡がつかなかったという。
ドアを破壊して部屋に入ったが…
すでに通報から1時間が経過していた事から、消防隊は通報者に連絡。「本人に請求させるので構いません」と、玄関扉を破壊することの承諾を得た。
承諾を受けて、消防隊はドアのかんぬき付近をバールでこじ開けてドアを開けて、室内に立ち入った。しかし、室内にはコロナで療養中だという居住者の姿はなかった。
バールで壊されたドアは交換せざるを得ず、その費用は22万9900円だった。支払ったのは、このマンションのオーナーだ。
オーナーは、壊れたドアの交換費用などの損害賠償を求めて、横浜市を提訴した。
疾病による人命救助での“破壊”は違法か
横浜市側は、消防法29条の条文、「消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために必要があるときは、火災が発生せんとし、又は発生した消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる」から、災害対象物とこれらのものがある土地を使用することなどについて、その違法性が阻却されると説明。
今回ドアを壊したことの違法性も阻却される、つまり、「違法性がない」と主張した。
オーナーが損害を甘受すべき立場ではない
しかし横浜地裁は判決で、この条文はあくまで火災発生時などを想定しており、新型コロナウイルスという疾病で人命救助が必要になった場合を対象にしたものではないと判断。
隊員がドアを壊した事自体は「やむを得ない行為」だったと理解を示したが、「だからといって、住人の生命に何らかの危険をもたらしたわけでもないマンションオーナーらが、その所有する財産を何の補償もなく破壊されることを甘受すべき立場にあったとはいえない」と判断。
原告であるマンションのオーナーの損害賠償請求権を認めて、ドアの交換費用など総額25万9600円を支払うよう横浜市に命じた。