会社の同僚と仕事終わりに飲みに行った際、もし、酔った先輩社員が女性社員に「彼氏と同棲しているのか。毎日セックスし放題だな」などとセクハラ発言をし始めたら――
セクハラ発言の当事者ではないが、発言を止めなかったとして、大手損害保険会社に勤務する男性が、会社から懲戒処分を受けた。
男性は処分の無効などを求めて会社を提訴。裁判所は処分の取り消しを命じた。
判決の決め手は、会社が作成した事案の「報告書」の正確性だった。
「セックスし放題だな」
大手損保会社に勤務する山口修さん(仮名)は2023年の年末、仕事終わりに同僚3人と一緒に職場近くの居酒屋で行われた飲み会に参加した。
会社によると、会食の際に、山口さんより8歳年上で元上司の男性が突然、同席した女性社員に対して、
「彼氏と同棲しているのか。それは毎日セックスし放題だな」
「どうやったら彼氏になれる?」
「ブラジャーのひもが見えている。エロい」
とのセクハラ発言をしたという。
会社が山口さんを「譴責」処分に
女性社員は年明けに、会社に「セクハラ発言を受けた」と通報。
会社は聞き取調査を行った上で、山口さんに対して、「譴責」の懲戒処分を下した。
その理由は、「ハラスメントに対する世間の目が厳しい状況であるにもかかわらず、同席者が会話の内容から脈絡もなく、露骨な性的表現を繰り返し用いた不適切な発言をしていた状況において、それを止めることをしなかった」
「同僚社員が不快な思いをするであろうことは容易に想像でき、発言者のハラスメントを現認しながら注意せず、ハラスメントを間接的に幇助した」というものだった。
処分を不服として、山口さんは異議申立を行ったが却下された。
そこで山口さんは、処分の無効と慰謝料など33万円を求めて会社を提訴した。
セクハラ発言は聞いていない
会社側は、山口さんはセクハラ発言を制止し、女性社員を退避させるなどの対応が容易に出来たはずなのに、それをしなかった。これは不作為によるハラスメント、ないしは間接的な幇助に値するので、懲戒責任を免れる事はないと主張した。
一方山口さんは、そもそもセクハラ発言については、「ブラジャーのひもが見えている」という発言は聞いたが、その他の発言については知らないと主張。
その上で、会社からはセクハラを制止しない事が懲戒対象に当たるとの説明を受けたことがない点や、セクハラ発言をしたという男性社員は8歳も年上の元上司であり、セクハラを抑止するのは容易ではなかった点も主張した。
会社の報告書に疑義
裁判所はまず、セクハラ発言があったのかどうかという事実関係について検討した。
会社は、会社が作成した報告書にセクハラ発言があったと記載されていて、それを認定すべきだと主張した。しかし、セクハラ発言を受けたという女性社員の証言尋問の申請や、陳述書の提出は行っていなかった。
この点について裁判所は、報告書は内部監査部門の担当者が通報者や会合の参加者から聞き取った内容をまとめたものであり、「聴取内容のまとめが正確に記録されているかについて疑義がある」と、報告書の正確性について、明確に疑問を示した。
さらに、セクハラ発言がなされた状況についても、「詳細かつ具体的に記載されたものとはいえず」聴取内容についての記載を採用する事は出来ないと判断。
セクハラ発言があった事を事実と認める証拠がないため、原告山口さんが言う「ブラジャーのひもが見えている」との発言以外があったとは認められないとした。
懲戒処分は無効
そして、唯一認定された「ブラジャーのひもが見えている」との発言については、「直ちにセクハラに当たるとは言いがたい」と判断。
セクハラ発言が認められないため、「セクハラ発言を止めなかった」事を理由とした懲戒処分についても「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、権利の濫用」と断じ、懲戒処分は無効との判決を下した。
慰謝料については、譴責処分が公表されていないことから、精神的な苦痛は懲戒処分の無効が確認されたことで慰謝されたと判断し、慰謝料の支払いは認めなかった。
