既婚者である男性上司と性的関係を持った女性が、職場のハラスメント相談窓口に駆け込み、男性上司に無視されたなどと相談した。ところが、相談をした女性が戒告という懲戒処分を受けることとなった。

女性の職場は自衛隊。

自衛隊を舞台にした“不倫”を巡る訴訟
自衛隊を舞台にした“不倫”を巡る訴訟
この記事の画像(5枚)

懲戒の理由は、既婚者と性的な関係を持ったことが、自衛隊法に明記された「隊員たるにふさわしくない行為のあった場合」に当たるというものだった。

女性は懲戒処分の取り消しを求めて、防衛省=国を提訴したが、裁判所は、既婚上司との性的関係は懲戒の対象であり、懲戒処分は適法と判断した。

判決は、防衛省を長年支えたベテラン男女の関係を、丹念に検証していた。

既婚上司と性的関係

防衛事務官の竹下由香里さん(仮名)は、2021年当時、陸上自衛隊の後方に当たる部門に勤務していた。防衛庁(当時)に事務官として奉職してから20年近くが経っていた。

由香里さんが所属していた「隊」の上司には、2018年に定年退職後に再任用された北山慎司さん(仮名)がいた。2人には約10歳の年の差があった。

2人は2021年の夏から秋にかけて、北山さんの官舎で複数回にわたって性的関係を持った。

北山さんは既婚者であり、由香里さんは既婚者である事を知っていたが、性的関係を持ったという。

“不倫”が明るみに

2023年になると、由香里さんは防衛省のハラスメント相談窓口に、北山さんとの関係について相談を寄せた。

相談内容は、既婚者である北山さんと性的な関係を持った事、北山さんに「迷惑です」と伝えたところ、北山さんに無視されるようになった、というものだった。

由香里さんはハラスメント相談窓口に… イメージ映像
由香里さんはハラスメント相談窓口に… イメージ映像

相談を受けた弁護士は、防衛省の人事担当部署に情報を共有。2人の“不倫関係”を防衛省が知ることになった。

防衛省が派遣した調査担当の聞き取りに対して、由香里さんは「数回性的関係を持った記憶があること」と認めた。

その上で、「北山さんからは、妻との関係は破綻している等と言われたこと」「性的関係を断れば良かったが、恩義のある相手の要求を無碍に断り切れずに仕方なく応じた」などと答えた。

こうした聞き取り結果は文書になり、由香里さんは北山さんへの懲戒処分の資料とすることに同意していた。

由香里さんが懲戒の対象に

防衛省は北山さんへの懲戒処分を進めると共に、由香里さんに対する懲戒処分に向けた調査も開始した。

そして2025年2月、既婚者と性的な関係を持ったことが、自衛隊法に明記された「隊員たるにふさわしくない行為のあった場合」に当たるとして、陸上幕僚長は由香里さんに対して戒告処分を出した。

由香里さんは処分に対して審査を請求し、「北山さんの夫婦関係は破綻していた」「破綻している場合、民法の不貞行為にはならないとの判例もある」「仮に不貞行為だと主張されるにしても犯罪行為でもない」などと主張した。

さらに、国を相手取り、戒告処分の取り消しを求めて提訴したのだ。

由香里さん「交際の意志はなかった」

由香里さんは、北山さんとの性的関係について、業務外で行われる限り、批判は道徳的なものに過ぎず、自衛隊の信用や社会的評価を毀損するものではないと主張。

由香里さんは自衛隊の信用を毀損するものではないと主張 イメージ映像
由香里さんは自衛隊の信用を毀損するものではないと主張 イメージ映像

そもそも、北山さんからの交際申し入れを承諾しておらず、交際を望む意志もなかったと説明した。そして、北山さんが優越的な立場にあったため性的関係を持ったと主張した。

さらに、北山さんと妻との夫婦関係は破綻しており、性的関係を持っても不貞行為には当たらないから、「隊員たるにふさわしくない行為のあった場合」には当たらないと説明したのだ。

国「品位を傷付けた」

一方国側は、自衛隊員が行う「宣誓」を引き合いに出した。

その内容は、「我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもって専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえることを誓います」というもの。

「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえる」 イメージ画像
「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえる」 イメージ画像

由香里さんが既婚者である北山さんと性的な関係をもった事は「自衛隊員が保つべき品位を著しく傷付けるとともに、防衛省・自衛隊に対する国民からの信用を失墜させ、組織の規律維持に多大な影響を及ぼす規律違反」と厳しく指摘。懲戒処分の対象となるのは明らかだと強調した。

由香里さんが好意伝えるメッセージ

裁判所は、由香里さんが性的行為について「業務外で行われる限り批判は道徳的なものに過ぎない」と主張している事について、「同じ職場の自衛隊同士が不貞行為に及ぶことは、現在の健全な社会常識に照らせば、自衛隊が保つべき品位を著しく傷付けるとともに、防衛省・自衛隊に対する国民からの信用を失墜させる行為であることは明らか」と断じた。

その上で、由香里さんが北山さんに送ったメッセージの中で、由香里さんが繰り返し北山さんの家に行くと提案していたり、北山さんへの好意を伝えていたと指摘。

由香里さんは北山さんと性的関係を持つことについて「同意していたことは明らかである」と認定した。

また婚姻関係が破綻していたとの由香里さんの主張についても、たとえ破綻していても自衛隊員としての品位と自衛隊の威信に対する悪影響が直ちに軽減されるものではないと判断した。

これらの理由から、裁判所は由香里さんに対する懲戒処分は違法ではないので、処分の取り消し請求は棄却された。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

記者として社会部10年、経済部2年、ソウル支局4年半の経験を持つ編集長を筆頭に、社会部デスク、社会部記者、経済部記者、モスクワ支局長、国際取材部記者、報道番組ディレクター・プロデューサー、バラエティー制作者、元日経新聞記者、元Yahoo!ニュース編集者、元スポーツ紙記者など様々な専門性を持つデスク11人が所属。事件や事故、政治に経済、芸能やスポーツまで、あらゆるニュースを取り扱うプロ集団です。