77歳の社長、22年間経営した会社を譲る

広島県事業引き継ぎ支援センター・平野勝正統括責任者:
基本合意はこれでOK。あと31日に最終契約を結ぶので、きょうは基本合意を結んでいただいたあと、最終に向けての調整ということで行いたい

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10月、とある事業が引き継がれようとしている。
2020年77歳になる福川真佐子さんは、22年間経営してきた会社を譲る決心をした。

福川さんの会社は、県内では珍しいバルーンアート専門のイベント会社。
バルーンの販売、ステージやイベント、結婚式の披露宴の飾りつけや演出などを手掛けている。

高齢による引退を考えていた矢先に、コロナの感染拡大が追い打ちをかけた。
廃業に踏み切れなかった理由は、2人の従業員の存在だった。

バルーンアートポピンズ・福川真佐子社長:
私自身は辞めるとしても、この会社をつぶすというのは忍びないんですよね。社員さんに聞いたところ、続けたいということで

事業を引き継ぎたいと希望したのは、人材派遣会社を経営する津田さん。

ワークナビ・津田敏之社長:
現状の仕事で十分いいのだけれど、従業員のことを思った時に、新たな発展性を組み入れていかないと会社自体が凝り固まってしまうのではないかと最初思ったんですよ

仮契約の席で、津田さんはこんな申し出をした。

ワークナビ・津田敏之社長:
ちょっと気が早いんですけど、最終契約までに従業員さんと話をさせていただいて。やっぱり、従業員さんがいての会社存続になるので、気持ちとか、人柄とか、そういうものをお互いが知る機会が必要かなと思っていて

全国有数の実績 事業引継ぎをマッチング

今回、2つの会社の事業引継ぎをマッチングしたのは、6年前に開設した広島県事業引継ぎセンター統括責任者の平野勝正さん。

広島県のセンターは、全国でも有数の実績を誇っている。

事業を他社に譲るのは、M&Aなどで事業を売却するというイメージがあるが、売り上げ規模の小さな企業にとっては、売却も承継も簡単なことではない。

そんな企業を、広島県事業引継ぎ支援センターは無料でサポートしている。

「事業を受け継ぐ」 経営者としての責任の重さ

「新しい従業員に会いたい」と申し出た津田さん。
そこには、事業を受け継ぐ経営者としての責任感があった。

ワークナビ・津田敏之社長:
人様を雇用することは、すごく重いんですよ。これは簡単じゃないです。ですから、今の自社の社員も含めて、派遣社員も含めてですけど、(彼らを)守るというすごい重荷がある中で、また新しい事業の方の従業員を(雇用する)と言ったら、その責任は想像よりもっと上だと思いますので…

仮契約から数日後、津田さんが会社を訪ねた。
この日は、言いにくいこともはっきり話そうと決めていた。

ワークナビ・津田敏之社長:
今年の自粛要請などの影響は、前半は大きかったと思うんですよ。その分の挽回をするには、いったんは財務体質の見直しをしないといけないと思ったんですよね。まずは、皆さんの年収部分に影響するところは出てくると思うんですが、そこはぜひ協力してもらって、その代わり、私もその痛みを一緒にしたいから、今回は年収をゼロスタートでいきたいと決めましたので

バルーンアートポピンズ・福川真佐子社長:
そうですね、お任せします

ワークナビ・津田敏之社長:
じゃあそういう方向で、今後ともよろしくお願いいたします。頑張りますので

2人の社員も、新たな環境に不安と同時に期待感も感じている。

バルーンアートポピンズ・山本啓子さん:
これからどういう方向性に行くかわからないですけど、決まったら、それに向かって一緒に頑張っていこうかなと思っています

バルーンアートポピンズ・水口高代さん:
コロナの影響もあるんですけど、やっぱりもう一歩、何か新しいことをしないといけないというのは分かっていましたので、そういう意味では期待しているというか、楽しみです

ワークナビ・津田敏之社長:
そう思ってくれているんだなって、初めてきょう聞いたので。うれしいですね、正直。プレッシャーですけど、うれしいです

将来につなぐ「仕事のバトン」

正式契約の日。
部屋には津田さんが用意したバルーンアートの花輪が飾られた。

契約書に署名する。

事業を譲る側、承継する側。
一文字、一文字に思いと覚悟が込められている。

手続きが全て終わって、福川さんは…

バルーンアートポピンズ・福川真佐子社長:
一番は、本当にほっとして良かったというのが。私も何年間か考えていたものですから、こういう希望があったので、やっと成就したという感じです

最後に、津田さんが福川さんへ用意していたのは、山本さん水口さんから福川社長への花束贈呈のサプライズ。
この日、1つの事業が引き継がれた。

コロナ時代の事業承継とセンターの利用を、平野さんはこう考えている。

広島県事業引き継ぎ支援センター・平野勝正統括責任者:
(広島県の)経営者の平均年齢が60歳と言われているということは、平均が60歳なので、かなりご高齢の経営者がたくさんいらっしゃるということになるので。その方々が、今回のコロナをきっかけとして、事業承継について、いろいろ考えるタイミングになったのではないかなと思います。お気軽にまず来ていただきたいと思います。ここに来たら話を進めなければいけないというふうに思わずに、まず事業承継、事業の引継ぎをどう考えるかというところからスタートしていきたいと思いますので

事業を譲る、承継する、間を取り持つ。
さまざまな人が仕事のバトンを将来につないでいる。

(テレビ新広島)

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