重い障がいがある人などが目の動きでパソコンを操作する「視線入力」。その訓練用アプリを開発し、障害者に寄り添ってきた人がいます。岩手県立大学の伊藤史人さんです。
4月、その功績が認められ吉川英治文化賞を受賞しました。伊藤さんの活動と思いを伝えます。
4月10日、東京で行われた授賞式。
社会の発展に地道に貢献してきた人をたたえる吉川英治文化賞を受賞したのは、岩手県立大学の伊藤史人(50)さんです。
伊藤さんは、視線入力という技術で障がいがある人たちの希望を紡いでいきたことが高く評価されました。
岩手県立大学 伊藤史人さん
「今私がやっていることというのは、重度障がい児を対象にして『分かっていなそうな子ども』、分かっていないだろうなと思われる子どもでも、いや分かっているんだよというのを明らかにする研究と活動です。ただそういった活動というのはなかなか日が当たりません。研究にもなりにくいし産業にもなりにくい。この世界の片隅で私が活動しているわけですけれども、そんな中から、この賞に関わってくださった皆さま、これまで私の活動を伴走してくれた皆さま、見つけてくれてありがとうという気持ちです。この度はありがとうございました」
2018年の映像。目の動きをパソコンのマウスのように使う視線入力。
見ることで風船を割るゲーム。身体的な障がいをテクノロジーの力が解消します。
視線入力を体験した障がいのある人の親は「この人が何を見て何を考えているのかが、知れたらもっと豊かに暮らせると思う」と話します。
これまで意思表示が困難だった女の子は、50音表を目でたどりひらがなの学習ができるようになりました。
伊藤さんは常に目の前にいる人たちの可能性を信じ続けてきました。
岩手県立大学 伊藤史人さん
「相当重度な子どもや大人であっても、実は持っている能力って結構ある。まだまだ知られていない面があるので。今天井を見上げて人生絶望している人でも、少しでも社会に出て生きがいもって生きられるように、それをテクノロジーの利用を持って実現していきたいと思う」
東京都出身の伊藤さんは、大学時代を岩手で過ごし研究者となりました。
2014年からは家族の元を離れ、島根で単身赴任生活を送っていました。妻と2人の娘は岩手で暮らしていました。
岩手県立大学 伊藤史人さん
「好きなことばかりやってすみません。娘がちゃんとよく理解できるようになった時には、そういう困ってる人を自分の得意なことを使って助けている、それをやってることがお父さんも楽しいと(伝えたい)」
月に1度のペースで岩手に戻る生活。伊藤さんの活動を陰で支えていたのは家族でした。
伊藤さんの地道な活動は徐々に広がっていきました。企業や仲間と手を携えeスポーツ大会も開催しました。
2023年に横浜で行われた大会には、全国から50人以上の重度障がい児たちが参加し、真剣勝負の場を生み出しました。
数年前からは「ウルトラ・ユニバーサル野球」のサポート役としても活躍。
たとえ障がいが重くとも、視線入力でバットを振り野球を楽しめる環境を整えました。
長年の活動が確かな評価につながりました。授賞式では関係者と共に喜びを分かち合いました。
30年来の友人(視覚障がい者)
「伊藤君こそ誰一人取り残さない社会の実現に向けて人生をかけて研究してくれている。(受賞を)本当にうれしく思っている」
重度障がい児の母
「本当にうれしい。(重度障がいで亡くなった息子)カイもよろこんでいると思う。こういう機会に色んな方が伊藤先生を知ってくださったらうれしい」
岩手県立大学 伊藤史人さん
「今回の賞のテーマは、なかなか社会で認められない人たちが対象になってるということなので、ずばり、私はそれにあたると思った。(Q:いっぱいの人の顔が浮かびましたよね?)そうですね、あんまり思いうかべると泣いちゃうかもしれない」
2025年から岩手県立大学で働く伊藤さんは、月に1度サロンを開き当事者と向き合っています。
希望の種をまき続ける伊藤さんの活動は続きます。