“出雲弁”をシャンソンに乗せて SNSでじわりと広がる島根のご当地ソング
「今日も”たばこ”の時間がはじまる~”しゃんとこ”に座らんこに上がらっしゃいませ~」
軽やかなシャンソンのメロディーに乗せられているのは、れっきとした「出雲弁」だ。
しかも人生のベテラン同士が交わすような、若者にはなかなか聞き取れないレベルの深い“訛り”。
この一風変わった「出雲弁ソング」が、SNSを中心にじわりじわりと広がりを見せている。
投稿後3か月足らずで6万回再生 SNS時代に再評価される「方言文化」
タイトルは『あいけ。出雲シャンゼリゼ通り』。
1月下旬にYouTubeへ投稿されると、口コミで拡散し、再生回数はついに6万1000回を超えた。
制作したのは出雲市斐川町の高橋章さん(55)。
出雲市内の建設会社に勤める会社員で、シンガー・ユメノカタチAKIRAとしてライブ活動も行っている。
「売ろうとなどと全く何も考えず、YouTubeにアップしただけなのに、全国からコメントがきたりしてびっくりしています」と高橋さん。
本人が最も驚いている、というのが正直なところだろう。

AI作曲アプリとの出合いが転機に “出雲弁”歌詞が思いがけないヒット
この曲が生まれた背景には、2025年に高橋さんが出合ったAIを使った作曲アプリがある。
会社の後輩から教えてもらったそのアプリは、曲の雰囲気と歌詞を入力するだけで、AIが瞬時に作曲し、実際に歌ってくれるというものだ。
すっかりはまった高橋さんは、試しに出雲弁で歌詞を入力してみた。
すると、これまでにない魅力的な曲が出来上がった。
「出雲弁の歌ってないじゃないですか、出雲弁で曲を作って歌うと、みんな喜んでくれんだというところから始まった」と話す。
ライブで披露すると、お年寄りたちから大喝采。
気をよくした高橋さんは、気づけば約60曲を制作していた。

おばあちゃん2人の“たばこ”の時間を歌に 出雲の暮らしを切り取った一曲が注目
曲の内容は、おばあちゃん2人の「たばこ」=「仕事の合間の休憩中」の会話をリアルに再現したものだ。
ここでいう「たばこ」は喫煙の意味ではなく、出雲弁で「ひと休み」を指す言葉である。
歌詞の元になったのは、高橋さんが一緒に暮らしていた祖母とご近所さんのやりとりだ。
高橋さんは「見たままを書いただけ。近所のおばあさんが来て、(子どもだった)自分からしたら、また”きとらい”(来られてる)、昔ってそうだったんですよ」と語る。
思い出したフレーズをそのまま入力したという。
あの郷愁は、高橋さんの原体験から生まれたものだった。

「目からうろこ」出雲弁保存会も大絶賛
この曲を聴いた「出雲弁の権威」、出雲弁保存会の藤岡大拙会長も「目からうろこが落ちたような感じでした、歌を聞いて。その視点が足りなかった、私たちは」と、絶賛を惜しまない。
東北弁のような訛りから「ズーズー弁」とも呼ばれる出雲弁は、聞きようによってはフランス語にも聞こえなくもない…。
高橋さんはそこに着目し、出雲弁の会話を軽妙にシャンソンに乗せることに成功した。
何を言っているかわからなくても雰囲気は伝わり、理解できれば郷愁を感じる。
そんな不思議な魅力が、世代や地域を超えて人々を惹きつけている。

薄れゆく出雲弁文化を音楽で次世代へ 「出雲弁も悪くない」
出雲弁ソングのバズりをきっかけに、高橋さんは「我々の子どもの世代とか若い世代では、ほんとに出雲弁が薄れてきて、ネット社会でもあるし曲調が若い人向きにもなっているので、その人たちが興味を持って出雲弁も悪くないなと思ってくれれば、いろんな世代で出雲弁が残ってくれるんじゃないか」と思いを語り、お年寄りや保存会の会員とのつながりが生まれ、大切な出雲弁を未来に残したいという思いを強くしたという。
現在、地元だけでなく京都や大阪の県人会からもオファーが届いており、6月には初めての県外遠征も控えているという。
温かい訛りとノスタルジーを携えた高橋さんの出雲弁ソング。
その広がりは、まだまだ続きそうだ。

