「押してきた自転車をスイスイと乗って帰っていく。それがいい」宮崎市の街角に、創業から間もなく一世紀を迎えようとする老舗がある。92歳の店主・阿萬木久夫さんが営む「あまん自転車店」だ。職人歴78年のレジェンドが店の前の椅子に腰掛ければ、近所の住民が次々と声をかける。地域の止まり木のような阿萬さんの日常を追った。

 自転車屋さんは天職

宮崎市清水にある「あまん自転車店」は、昭和4年に開業し、創業97年を迎える。

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店を営んでいる阿萬木久夫さんは、中学生の時に家業の自転車店を手伝い始め、それ以来78年に渡って自転車の修理や販売を行っている。

阿萬木久夫さん:
元気なうちはね、ずっとしようとは思っている。天職、他には考えられない。

手際よく修理をする阿萬さん。「磨いてノリをつけて貼りつけて…今までに1万台、2万台とパンクの修理をしている」と話す。

今も現役で店に立ち続ける阿萬さんは、仕事を長く続けるため、毎朝、体の調子を整えている。

中村ハリ灸整骨院 中村文則院長:
自転車屋さんはまだやるんでしょ?
阿萬木久夫さん:
力があんまり入らない。なんとかならないかなと思って。ねじったり力を入れるから、やっぱり体には無理がくるだろうね。

あまん自転車店は全盛期には3店舗を構え、年間700台ほどの自転車を販売していた。しかし、外国製の安価な自転車や大型店の進出で規模が縮小。同業者の多くは廃業に追い込まれた。

そんな中でも、阿萬さんは地元のお客さんのためにと店を続けてきた。

阿萬さんは「お客さんの満足のため、いい加減なことはできない。押してきた自転車をスイスイと乗って帰っていく。それがいい」と話す。

また、阿萬さんは、作業時に決して軍手を使用しない。手袋をすると、触ったときの感覚がわからないという。

長年、自転車を固定し、力を込め続けてきた阿萬さんの親指は、普通の人よりも一回り大きく発達している。この指こそが、職人として歩んできた歳月の証しだ。

地域住民の交流が原動力に

自転車の修理に情熱を注ぐ阿萬さんの楽しみは、店の前にある椅子に座って外を眺めることだ。

近所に住む男性:
見かけたら「おい」って言う。いろんな修理もするし、すごいよ。いまは自転車店が少ないから、近くにないと困る。

近所に住む女性:
みんなここらへんの人はよく来る。おじちゃんがいるから欠かせないと思う。

阿萬木久夫さん:
自転車の修理に来る人もいるけど、ただしゃべりにくる人もいる。この人はただしゃべるだけの相手。

近所の人との会話で励みをもらい、それが仕事を続ける原動力となっている。

阿萬さんは「“あんたがおらにゃ寂しい”とか言われると、これはやめるわけにいかんな、と思う。開業から100年はシャッターを上げて営業したいと思っている」と話す。

 創業100年という大きな節目まで、あと3年。今日も宮崎の街角で、阿萬さんは温かな交流を力に変え、愛着ある自転車に新たな命を吹き込み続けている。

(テレビ宮崎) 

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