「こんなところに影響があるなんて、びっくりだね」――。利用客の口から漏れた率直な驚きが、この問題の本質を突いている。遠い中東の地で続く緊迫した情勢が、石川県金沢市の温浴施設「和おんの湯」の露天風呂を閉鎖に追い込んだ。重油の供給不足と価格急騰という「二重の苦しみ」に直面した施設は、1日も長く営業を続けるための苦渋の決断を迫られている。
「残念としか言いようがない」――自慢の岩風呂が静まり返る

金沢市神宮寺二丁目の温浴施設「和おんの湯」は、ジェットバスや炭酸泉など種類豊富なお湯が売りの施設だ。地域の住民が日常の疲れを癒やす憩いの場として親しまれてきた。
しかし今、その施設の一角に閉鎖を示す表示が貼られた露天風呂がある。寝湯、壺湯、そして施設が「自慢」と語る岩風呂露天風呂――。かつては湯煙が漂い、訪れた人々がゆったりと浸かっていたそのスペースは、今は静まり返ったままだ。

総支配人の塩村美樹さんは、閉鎖に至った経緯をこう説明した。
「まずは省エネ運転でやっていこうと。省エネ運転でできるだけ1日も長く営業を続けるために、このような決断をいたしました。残念としか言いようがない。お客さんに申し訳ない」
その言葉には、悔しさと、それでも前を向こうとする覚悟がにじんでいた。

「発注通りに来るのかが不安定」――ボイラー室に漂う緊張感
施設の心臓部とも言えるボイラー室。配管や計器が並ぶその空間では、日々深刻な状況が続いている。「和おんの湯」では通常、1日に600リットルほどの重油を使用してお湯を沸かしているが、現在は発注量の6割程度しか届かない状態が続いているという。

塩村さんはボイラー室の前で、厳しい現状を数字で明かした。
「10キロ発注して、6キロ入っていない状態が続いています。4割減の状態が続いています。発注通りに来るのかが不安定ということです。」
さらに重油の備蓄タンクの状況を見せてもらうと、その深刻さが一層際立った。
「今、7キロちょっとありますね。いつもなら12とか13キロ入っていてもいいのですが、半分くらいになっているのが現状です。」
タンクの残量は通常の半分以下。「いつ底をつくか」という不安が、施設全体に重くのしかかっている。

塩村さんは、自身の胸の内を静かに語った。
「いろんな不安が入り乱れますね。もちろんお客さんに対して営業できないという不安もありますし、従業員の不安もあると思うんで。」
イラン攻撃前は90円台、今や120円台へ――価格急騰が経営を直撃

供給不足に加え、施設の経営をさらに圧迫しているのが重油価格の急騰だ。

不安定な中東情勢、特にイランへの攻撃が行われる前、重油の価格は1リットル当たり90円台で推移していた。しかしそれが先月中旬には120円台まで跳ね上がった。約30円という値上がり幅は、1日600リットルを使用する施設にとって、看過できない負担である。供給量が4割も減っているにもかかわらず、手に入る分の単価は大きく上昇している。「少ししか入ってこない上に、高くなった」という、まさに踏んだり蹴ったりの状況だ。

塩村さんはこの苦境について、地域の施設としての使命感を口にしながらも、焦りを隠せない様子でこう語った。
「お客様に安定した営業ができないということがまず大変。地域の癒やしの場として残っていく以上、いろんな方法を考えている毎日でございます。」
「そのために来ているようなもん」――常連客が訴える露天風呂の価値

閉鎖を知らされた利用客にとっても、この事態は寝耳に水だった。受付カウンター近くで話を聞いた客は、驚きをあらわにしながらこう言った。
「昨日から実は露天風呂が閉鎖になってまして……こんなところに影響がある、すごいびっくりだね。」
別の常連客も、露天風呂への思いを切々と語った。
「特に晴れた日なんか気持ちいいし、家の風呂や、内風呂と違う魅力があるんで、その魅力のために来ているようなもんなんで。早く再開してほしいと思います。」
内風呂とは異なる開放感、外気に触れながら浸かる解放感――。それこそが露天風呂を目当てに足を運んでいた理由だと、客は率直に打ち明けた。その場所が突然閉まった事実は、単なる「サービスの一部停止」ではなく、楽しみにしていた時間が奪われたことを意味する。
時短営業も視野に――地域の「癒やしの場」が存続の瀬戸際に

施設では、今後も燃料確保の見通しが立たなければ、さらに踏み込んだ対応として営業時間の短縮も検討するとしている。もし営業時間の短縮が現実になれば、パートやアルバイトなど従業員が施設を離れてしまうのではないかという不安も塩村さんは抱えているという。燃料問題が、雇用問題へと波及するリスクが、すでに視野に入り始めているのだ。
「地域の癒やしの場として残っていく以上、いろんな方法を考えている毎日でございます」
塩村さんのこの言葉には、責任感と使命感、そして出口の見えない状況への焦燥感が複雑に混じり合っている。

中東という遠い地で起きている出来事が、金沢市内の温浴施設のボイラー室を直撃し、岩風呂の湯を奪い、常連客の楽しみを消し去った。エネルギー問題は決して「大企業の話」や「国際政治の話」ではない。地域に根ざした小さな施設、そこに集う人々の日常に、静かに、しかし確実に打撃を与えている。

「和おんの湯」の露天風呂に再び湯が張られる日は、燃料供給の安定と価格の落ち着きにかかっている。それがいつになるのか、現時点では見通しが立たない状況だ。
(石川テレビ)
