障がいがある選手とともにパラリンピックを目指すパラ射撃のコーチが広島にいます。
長年にわたりピストル射撃という競技に全身全霊で向き合い続ける男性の姿を追いました。
日本パラ射撃連盟のコーチ・中重勝さん。
2年前から様々な障がいがある選手を指導しています。
【日本パラ射撃連盟 ナショナルチーム 中重勝コーチ】
「コーチと選手という上からの立場じゃなくて、選手と一緒にパラリンピックへ行ってメダルを取りたいなと思っているので」
自身がピストル射撃の選手である中重さん。
国体には38回出場しそのうち13回優勝。
日本代表としてオリンピックに3大会出場するなど数々の成績を打ち立ててきました。
そしていま…、射撃競技の第2ステージとして選んだのがパラ射撃のコーチです。
【日本パラ射撃連盟 ナショナルチーム 中重勝コーチ】
「選手です。神奈川から来ました55歳です」
この日、広島入りしたのは日本パラ射撃連盟、育成選手の齋藤康弘選手パラリンピック出場を目指し、練習にやってきました。
この射撃場にはエレベーターは設置されていません。
車いすを抱え選手と共に2階の練習場所へ移動します。
「ゆっくりゆっくり。ここでケガしたらなんにもならん」
エアピストルとは、10メートル先にあるわずか15センチほどしかない的を狙い打つ極めて高い集中力が求められる繊細なスポーツです。
健常者の選手である中重さんにとってパラ選手のコーチとして向き合うことに、はじめは戸惑いもありました。
【日本パラ射撃連盟 ナショナルチーム 中重勝コーチ】
「足が不自由な方は車いすに座って競技をする。座った状態でのバランスのとり方、車いすは動きますよね。動かないようにするためにはどうすればいいか。健常者のマニュアル通りではいかない。各個人に対してオリジナルの指導をしていかないといけないのが難しいところ。辛抱辛抱」
【日本パラ射撃連盟 齋藤康弘選手】
緊張したのかちょっといつもの練習している通りの引きが出来ず、前半焦りましたね」
【日本パラ射撃連盟 ナショナルチーム 中重勝コーチ】
「自分の中で自信をもって引いとる?自信も必要なんじゃけど。確信よね。確信をもってひけるようにせにゃいけん」
中重さんが度々口にする言葉。
それは…。
【日本パラ射撃連盟 ナショナルチーム 中重勝コーチ】
「良いイメージの同一性。だいたい悪いことを思い浮かべてしまうんですよ。例えば『銃を止めにゃいけん』『銃をぶらしてはいけない』『止めにゃいけん』と考えると余計動くんですよ。ネガティブなことばっかり考えているとどうしてもそっちに体が引っ張られるので、もっとポジティブに自分のやりたいよう方向にイメージを持ってやる」
中重さんは選手時代も含め競技の中で感じたことを言葉として書き留めてきました。
「自信を持って引く」
「同じ見え方同じ引き方」
「最後の最後まで集中しろ!」
自らに向けてきた言葉を後に続く選手にも伝えたい。
世界を舞台に戦ってきたからこそ語れる言葉があります。
【日本パラ射撃連盟 ナショナルチーム 中重勝コーチ】
「世界一になろうと思ったら世界一の練習しようや。世界一の一発を打とうやとは言うたんじゃけど上には上があるわけよ、まだ」
国内のパラ射撃は、ライフル競技では多くの選手が頭角を現し国際大会でもメダルを狙える選手が増える一方、ピストル競技ではパラリンピックの強化指定選手がいないのが課題となっています。
【日本パラ射撃連盟 田中辰美コーチ】
「技術が上手になるだけでは強くなれない。心底自分自身を信じることができないと勝てない。中重さんは自分自身が経験してきてよくわかっていらっしゃるので、選手に対しても中重さん自身の言葉で気持ち込めて熱意をもって伝えてくださる」
【日本パラ射撃連盟 ナショナルチーム 中重勝コーチ】
内面的なものは健常者だろうが障がいしゃだろうが同じなので、やればやるほど上手になると思います」
中重さんの抱く高い志…。
選手にも届いています。
【日本パラ射撃連盟 齋藤康弘選手】
「人生の転換期みたいないつだろうってみんなで話し合ったことがあるんですよ。中重コーチに変わった時っていうくらいすごい影響力がある」
選手の時から続けてきたのがランニングです。
【日本パラ射撃連盟 ナショナルチーム 中重勝コーチ】
「昔はやっぱり一歩が1点につながると思って走っていました。今はもうほんとに自分の健康を維持するために走っているだけなんでね」
今年で63歳。
体の衰えは、確かにある。
でも『自分に負けたくない』という思いが中重さんを突き動かします。
【日本パラ射撃連盟 ナショナルチーム 中重勝コーチ】
「なんで走るんかなと考えて走っていたんですけど、限界に挑戦することがやっぱり好きなのかなと思ったり、そういうチャレンジ精神は今でもあるようなきがしますね」
前を向き続ける中重さんには目標があります。
【日本パラ射撃連盟 ナショナルチーム 中重勝コーチ】
「選手にはぜひパラリンピックに出てメダル取ってほしいですよね。で、『中重コーチのおかげです』ってわしにそのメダルをかけてくれたら一番幸せなんじゃないんですかね」
この日、強化指定選手の選考に関わる大事な大会に向け広島を出発します。
パラリンピックのコーチとして中重さんは選手に障がいがあるかないか、に関わらず一人の人間として向き合ってきました。
【日本パラ射撃連盟 ナショナルチーム 中重勝コーチ】
「まだ障害がい者のピストル分野のレベルが低い。目に見えて上達してくるし、選手自身が私が話していることを理解してくれるのがすごくうれしくてやりがいを感じます。選手が一つでも上のランクにいってもらえればいいかなと思っています。今まで自分が射撃をやってきてすごく楽しかったし幸せだったしいろんな経験させてもらった(選手に)経験してもらいたい」
目指すのはロサンゼルスパラリンピックの舞台。
選手とともに輝く「その時」に向け中重さんの挑戦はきょうも続いています。
■■■ メモ ■■■
齋藤選手も参加した先週末の強化指定選手の選考ですが得点は、542点で基準にわずか3点たりず、残念ながら強化指定選手にはなれませんでした。
コーチの中重さんは「次に向けまた選手とともに再出発します」と話していました。
今回は残念でしたが引き続き、注目していきたいと思います。