81年前、多くの若者が特攻作戦へと飛び立っていった鹿児島県南九州市・知覧の地で、その実話を題材にした舞台が初めて上演された。客席には劇中に登場した特攻隊員の娘が埼玉から駆けつけ、「父に会えたのかな」と涙をぬぐった。

少女のタイムスリップが描く、口にできない恐怖と葛藤

3月29日、知覧文化会館で上演されたのは「未来へつむぐ」。祖父のすすめで桶川飛行学校平和祈念館を訪れた少女が、81年前の知覧特攻基地へタイムスリップしてしまうという物語だ。なでしこ隊として特攻隊員の世話をする中で、生きる意味や戦時中には口にできない恐怖心に葛藤する日々が丁寧に描かれる。

「みんな本当はとってもつらいんです」「私は戦い、みなさんやみなさんを愛する方々を守りたい」

舞台上で紡がれた言葉は、観客の胸に深く刺さった。

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本作は12年前から全国各地で、その土地にあわせたストーリーで上演されてきた作品。しかし知覧での公演は今回が初めてのことだった。演出を担当した野田憲晴さんは、この地での上演に込めた思いをこう語る。「(知覧から)出撃されたみなさんにとっての慰霊公演」。

遺書の朗読に、会場は涙に包まれた

舞台のクライマックスで読み上げられたのは、特攻隊員たちが出発前に実際に家族や愛する人へ遺した遺書だ。フィクションではなく、かつて実在した若者たちの肉声ともいえる言葉が会場に響き渡ると、観客の目からも思わず涙がこぼれた。

そして、作中の特攻隊員が最期に遺した言葉として印象的なのが、この一節だ。

「特攻を風化させてはならない、美化してもならない」

娘が埼玉から知覧へ——「感情がそのまま涙、涙、涙で」

この日、会場に特別な思いで足を運んだ観客がいた。劇中に登場した伍井芳夫大尉の娘・臼田智子さん(82)だ。父が戦地へ飛び立った知覧の地での上演と聞き、埼玉からはるばる訪れた。

「知覧で上演されることは私自身も感慨深い。自分の感情がそのまま涙、涙、涙で表れた」と臼田さんは話す。「(父の)最期の場面は私ももちろん知らなかった。(作品を通して)父に会えたのかな」。そして、静かにこう続けた。「(戦争や特攻隊を)忘れてほしくない思いがある」。

伍井芳夫大尉を演じた玉永賢吾さんもまた、遺族の前に立つという重みを感じ取っていた。「実在した人を演じさせてもらって、すごい大役をいただいた。(この作品を通して)今の日本がどうやったら良くなるのかを考えるきっかけになれば」と語った。

「日本のことを知ることは愛だと実感した」

舞台を鑑賞した観客からも、感動の声が相次いだ。「いま私たちがこうやっていられるのも先人のおかげだと忘れてはいけない」「めちゃくちゃ良かった。日本のことを知ることは愛だと実感した」——それぞれの言葉に、舞台が与えた影響の大きさがにじむ。

二度と戦争で悲しい思いをする人が出ないように、という願いを込めて作られた「未来へつむぐ」。その舞台は、81年前に多くの若者が特攻作戦の前に過ごした知覧の地で、確かに多くの人の心を震わせた。

(動画で見る▶知覧で上演「未来へつむぐ」 特攻隊員の遺族も観劇、遺書朗読に会場が静まる)

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鹿児島テレビ
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