奈良公園からおよそ30キロ離れた大阪市内の集合住宅の敷地に、1頭のシカが悠然と居座っています。
神の使いとして知られる奈良公園のシカが、なぜか大阪の都心に姿をあらわしました。
■「まさか地元にシカがいてるなんて」
3月に入り、奈良公園のシカが公園外で頻繁に目撃されるようになりました。
17日には奈良県から大阪府に入り、東大阪市で発見。その後も足取りを西へ西へと延ばし、この週末には大阪市内での目撃情報が相次いだのです。
「すき家の店舗前に現れた」という投稿や、「大阪市内のJRの駅に、すごい人慣れした鹿さんが居たんだけど、これが噂の奈良脱走鹿?」というSNS投稿も飛び交いました。
取材班が行方を追うと、大阪屈指の繁華街・梅田からわずか2キロの公園で発見。
シカは周囲の驚きの視線などまったく意に介さず、草を食べていました。
駆けつけた近隣住民は「遠足で奈良公園に行ったときしか見たことないので、まさか地元に鹿がいてるなんて」と目を丸くしました。
■一夜明けても姿が消えたと思いきや…
鹿がやってきてから、およそ8時間が経過した夜、雨が降り出したタイミングで警察らは「事故の危険性はなさそう」と判断し、この日の見守りを終えました。
そして一夜明けた23日朝、公園からシカの姿が消えていました。
取材班は周辺で聞き込みを開始。35人以上に話を聞いたものの有力情報は得られず、捜索開始から約4時間が経過。
諦めかけたそのとき…午後1時過ぎ、集合住宅の敷地内で再び姿を確認したのです。
午前7時50分ごろに同じ場所で目撃した住民がいたことから、少なくとも5〜6時間はそこに滞在していたとみられます。
前日の公園からも徒歩5分ほどの距離であり、同一個体だとすれば、都島区に24時間以上とどまっていたことになります。
■「過密になってきて、はじかれるシカが増えている」
奈良の鹿愛護会・中西康博副会長が「旬感LIVE とれたてっ!」に出演し、今回の“大移動”の背景を解説しました。
中西さんによると今回、大阪で見つかったシカは、1歳ぐらいの若い雄鹿で、「たまにこのような“はぐれ鹿”、はぐれたような行動をする若い雄はいる。何年かに1回ロングランするのが出る」と言います。
シカの保護・管理を行う同会によると、今回の個体は「角切りをしたシカ」で、奈良公園にいた個体である可能性が高いといいます。
そして、その理由としてこのように指摘しました。
【中西さん】「(頭数が増えて)過密になってきて、はじかれるシカが増えているのでは」
現在、奈良公園の鹿の生息数は1465頭で過去最多。公園外にも200頭以上が出ているとみられ、大学の敷地やマンションの敷地内、川の河川敷などに住みついているケースも珍しくないと話します。
【中西さん】「奈良公園の周辺ではマンションの敷地内に普通にシカが住んでますから。大阪は普段シカを見ないんで、奈良では(シカを見ても)誰も反応しませんから」
奈良市民にとっては日常風景でも、大阪市民には“事件”に映るわけです。
■「道路を通って基本は出ていく」
気になるのは、どうやって山を越えてきたかです。
奈良公園と大阪府の間には生駒山がそびえ、山頂には遊園地があるほどの高さを誇ります。しかし中西副会長は「基本は道路を通っている」と明かしました。
【中西さん】「阪奈道路をずっと歩いてきたのでは。1本道で寄り道しなかったら梅田まで行ってしまう」
1日に歩く距離は10キロほどで、どこかで休憩しながら食事をとりつつ移動してきたとみられます。
【中西さん】「生駒・東大阪に入って、今、大阪市内入って、多分こっち側(奈良)へ向く雰囲気がない。怖いから逃げてるんやと思うんですけど、このまま西へ行き続けるとどこ行くんかな」
■一番危険なのは“頭突き”
現場にはギャラリーが60〜70人ほど集まり、大阪府警の警察官3人と大阪市職員も対応に当たっています。
近くには小学校もあり、副校長が子どもたちに「あまり近寄りすぎないように」と注意する姿もあったそうです。
住民からは「蹴るの?」「噛むの?」という不安の声が上がりました。
これについて中西副会長は「一番は頭突き」と警告しました。
【中西さん】「子どもの胸に刺さったりする事故も起きてますから。ちょうどあれぐらいの棒(若い1歳の角)が突き刺す事故が多いので」
奈良公園でもシカが子どもに対して攻撃することが多く、体の小さな子どもはシカの攻撃対象になる可能性があるため、子どもとシカを1対1にしてはいけないということです。
■「穏やかに見えてますけど、もうピリピリやと思いますね」
さらに、「見た目の落ち着きにだまされてはいけない」とも強調しました。
【中西さん】「映像を見ている限り、ストレスが溜まっていると思う。かなり精神的に興奮してる。穏やかに見えてますけど、今の映像を見たら、もうピリピリやと思いますね」
奈良公園でも年間70〜80件の事故(突き刺さり、太ももを7針縫うなど)が起き、救急車で運ばれるケースも毎年約20件あるといいます。
「優しいから攻撃しないと思ってる人がいて」とシカの危険性を甘く見ている人が多いと語ります。
■捕獲はできない、でも放置もできない
大阪市は「現時点で捕獲する予定はない」と説明しています。「野生動物は法律で保護されているため、実際に危害が確認されなければ捕獲できない」ということです。
加えて中西さんは、捕獲そのもののリスクも指摘しました。
【中西さん】「捕まえられるのは、ものすごいストレスになるし、下手すると捕獲のときに死んでしまう可能性もある」
では誰かが奈良公園まで誘導することはできないのでしょうか。
【中西さん】「人間好きなシカなんていませんから、人がそばへ寄れば寄るほどテンションも高くなるし、本来の行動を失う。野生ジカが野生の活動で動いてる以上は、ほっておくのが一番良い」
シカは夜行性で、近くに淀川があることから、「シカは水辺好き。河川敷を見つけたら降りると思います」とも語りました。
■ほかのシカからしたら『ええとこ見つけたな』かも?
奈良公園に自力で戻ることはあるのでしょうか。今後の見通しについて、中西さんはこのように語ります。
【中西さん】「本来は生駒あたりやと(奈良公園へ)戻る。秋に戻るいう習性持っているので。ただ、このシカは怖がって逃げながら、どんどん西へ行ってる。ひょっとしたら帰る道も混乱して、分からなくなっているかもしれない」
シカの帰巣本能については「ある程度分かっているはず。ただ若いシカの帰巣本能はちょっと頼りない」と見立てています。
それでも、1頭だけで生きていくことは十分に可能だといいます。
シカは草も花も木の皮も食べ、草むらの中で寝るため、「ほかの奈良公園のシカが見てたら『ええとこ見つけたな』と思ってるかもわからない。ライバルいないから」と苦笑交じりに話しました。
【中西さん】「自分なりに最終的には奈良公園への帰り道を思い出して、帰ってきてくれたらいいよねっていうぐらいしか言いようがない」
警察と市職員の見守りが続く中、シカは茂みの中でひっそりと身を潜め、夜になるのを待っているのかもしれません。
(関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」2026年3月23日放送)