アメリカ大統領選挙の選挙日が迫ってきた。

中東イスラム諸国も選挙への関心は高い。各国メディアはこれまでも選挙戦について手厚く報道してきた。

中東諸国では当局がメディアの報道方針、内容をほぼ完全にコントロールしている。各国メディアの報道はその国の当局の政策を如実に反映していると言っていい。米大統領選については、各国の報道は共和党の現職トランプ大統領を支持するか、民主党のバイデン氏を支持するかで明白に分かれている。

イランやカタールはバイデン氏を支持

トランプ政権の「最大の圧力」政策で経済的・財政的に逼迫しているイランのメディアは、明らかにバイデン氏に好意的である。そればかりか10月21日には、ラトクリフ米国家情報長官とレイFBI長官が、イラン当局はロシアとともに米の有権者登録データを入手し、「プラウド・ボーイズ」などトランプ氏支持の極右団体名で、民主党支持者に偽の脅迫メールを送信することを通して大統領選挙に影響を与えようとしている、と告発した。

制裁解除のためには、トランプ氏が大統領ではなくなること以外に道はない。しかもバイデン氏は9月、トランプ氏の対イラン政策は失敗であると述べ、自分が大統領になった暁には、イランが5年前の核合意に従うことを条件にアメリカも核合意に復帰し、経済制裁を解除することも示唆している。

イランへの制裁解除を示唆した民主党 ジョー・バイデン候補
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日本でもよく知られているカタールのメディア「アルジャジーラ」もバイデン氏推しである。

これは、CAIR(米イスラム関係評議会)など米国内の有力なイスラム教団体が、カタールの庇護するイスラム主義組織「ムスリム同胞団」系であることと大きく関係している。在米イスラム教徒の人口は400万人程度とそう多くはない。しかし、スウィング・ステートと言われる激戦州にイスラム教徒が多いため、彼らの影響力は注目されている。

CAIRは、全米でイスラム教徒に対する反差別運動を展開する民主党の有力なロビー団体のひとつだ。当初はサンダース氏を支援していたが、今はバイデン氏を支援し、「トランプは反イスラムだ」と主張してイスラム教徒にバイデン氏支持を呼びかけている。

米イスラム関係評議会による活動紹介(CAIRのホームページより)

なぜ中東諸国は民主党を嫌うのか

他方、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、エジプトのメディアはトランプ氏を推している。カタールの庇護するムスリム同胞団系団体がバイデン氏を支援している以上、ある意味当然の成り行きである。

これら3カ国はムスリム同胞団をテロ組織指定しており、同胞団を庇護するカタールとは2017年以来断交している。イランやハマス、タリバンなどとも深い関係を持つカタールについて、これら諸国は「テロ支援国家であり、イランやトルコと並ぶ中東の不安定化要因」だと非難する。

そもそもこれら諸国が米民主党を忌避するのは、中東を混乱の渦に陥れた2011年のいわゆる「アラブの春」を扇動したのは、民主党のオバマ政権であると一般に信じられているためでもある。

「アラブの春」の混乱後にエジプトではムスリム同胞団が政権を握り、投獄されていたイスラム過激派が大量に釈放され、政府の要職を同胞団員が占め、従来の宿敵イランと関係を深めるという、異常とも言える状態がもたらされた。エジプトではその後、再度の「革命」によって同胞団政権が打倒され、同胞団はテロ組織指定され、軍出身のシシ氏が大統領となり現在に至る。

どちらが勝っても…苦境に立たされるトルコ

現在、カタールと並ぶ同胞団の庇護国となっているのがトルコである。しかし、米大統領選に関しては、トルコの立場は厳しいと言わざるを得ない。

トルコのエルドアン大統領とトランプ大統領

トランプ政権はトルコの人権問題やシリアへの軍事侵攻、ギリシアの領海侵犯などを非難し、経済制裁を科すなど厳しい態度で臨んできたが、バイデン氏はトランプ政権に対し、トルコにより強固な姿勢を示すべきだと提言している。

またバイデン氏は、トルコが世界遺産・アヤソフィアをモスク化したことも問題視している。どちらが当選しても、トルコに追い風をもたらす効果は期待できない。

米政権は中東の戦乱への直接的な介入からは距離を置きつつあり、シェール革命以降、エネルギーの面でも中東への依存度は減少した。しかし、中東諸国とアメリカとの関係はそれだけではない。

在米イスラム教徒人口は、2050年には在米ユダヤ教徒人口を抜き、宗教別人口で第2位になると米調査会社ピュー・リサーチ・センターは予測している。在米イスラム教徒の背後にイスラム諸国がおり、相互に様々な影響を及ぼし合っていることは、国際政治においても重要な意味を持っている。

【執筆:イスラム思想研究者 飯山陽】