宇宙空間で発酵させた日本酒の“もろみ”が地球に帰ってきた。山口・岩国市の酒造会社「獺祭」が国際宇宙ステーション(ISS)で醸造し、3月13日、本社に到着。将来の“月面での酒造り”を見据えた挑戦は、大きな一歩を刻んだ。
宇宙で醸造したもろみ、本社へ
「獺祭」本社に、1台のトラックが到着した。
ゆっくりと開いた荷台から運び出されたのは、ISSの日本実験棟「きぼう」で醸造された清酒のもろみだ。桜井一宏社長らが見守る中、段ボール箱は慎重に社内へと運び込まれた。
この「獺祭MOONプロジェクト」は、将来、月面でも酒を楽しめるようにという構想から始まった。
2025年10月、醸造装置と清酒の原料となる米、麹(こうじ)、酵母、水を鹿児島県の種子島宇宙センターからH3ロケットで打ち上げ、補給機でISSへ輸送。日本実験棟「きぼう」で宇宙飛行士の油井亀美也さんが水を加えて原材料を混ぜ合わせ、2週間かけて発酵させた。
完成したもろみは約260g。冷凍された状態で地球へ帰還し、アメリカ西海岸沖に着水して回収された後、3月13日に岩国市の本社へ届けられた。
凍った容器を手に「おかえり」
桜井社長は箱の中から、小さな容器を取り出した。この中に冷凍されたもろみが閉じ込められている。凍っていても容器の内部は白く濁っていて、宇宙で発酵した時間を想像させる。
容器を両手で持ち上げた桜井社長は、その重みを確かめるように語った。
「重たい。ずっしりしています。本当に『おかえり』という感じ」
限定1本、1億1000万円の買い手は?
もろみは3月24日に解凍され、清酒として仕上げると約100ミリリットル、“1本限定の酒”になる予定だ。その味が気になるところだが、技術責任者・植月聡也さんは率直に語る。
「宇宙空間で日本酒ができるかどうかに重きを置いた試験なので、正直申し上げると味は二の次、三の次というか、そんなにおいしいお酒は期待していません」
それでも、この酒の買い手はすでに決まっている。海外在住の日本人が1億1000万円で購入する予定だという。
桜井社長は、宇宙での発酵に手応えを感じている。
「発酵が本当に宇宙空間で行われるのか。まだ分析結果は出ていないが、おそらくクリアできただろうということで、大きな一歩を踏み出せたと思っています」
完成した清酒の売上金は、すべて国内の宇宙開発事業に寄付される予定だ。
宇宙を旅した一杯は、いつか月面で日本酒を楽しめる未来へつながるかもしれない。
(テレビ新広島)
