東日本大震災から15年、中学時代に被災し父と祖父を亡くした岩手県大槌町出身の女性。避難所で「青空理髪店」を開いた母の背中を追い、理容師となった女性は新たな夢を抱いています。
岩手県盛岡市の理髪店で客の髪を整えていく女性は、この業界県内最大手「ヒラトヤ」のスタイリスト・中澤瑞未さん(29)です。入社してまもなく9年になります。
中澤瑞未さん
「あの震災があったというのは、何かつらいことがあった時に『でもあれを乗り越えたよね』って自分を強くさせるじゃないけど、そういった出来事だったと思う」
瑞未さんは大槌町安渡地区の出身で、15年前まで両親と祖父は3人で理髪店を営んでいました。
2011年3月11日、津波はその暮らしを一瞬で奪い去りました。
消防団員だった父・豊明さん(当時46歳)は、寝たきりの人を助けに向かい犠牲となりました。
中澤瑞未さん
「お父さんはにぎやかな人だったので、家でも楽しかった思い出しかない」
祖父・鐵男さん(当時76歳)は、いまも行方が分からないままです。
中学3年生だった瑞未さんは、家族を失った悲しみを抱えながら避難所で生活していました。
その避難所のグラウンドで、母・純子さんは知人や同業者から道具を集め青空理髪店を開き、被災した人たちの髪を一人一人丁寧に整えていました。
中澤瑞未さん(当時中学3年生)
「(母は)最初は、お父さんとおじいちゃんがいないってなって、悲しんでいたけど、今はこれからのために頑張ってくれて、強いと思う」
母・純子さん(当時43歳)
「とにかく、子どもたちを立派に育てることしかない。それを託されたのかな」
“災害に遭った人の心を少しでも軽くしたい”
瑞未さんは母の背中を見つめながら、自分も理容師を目指すことを決めました。
中澤瑞未さん(2017年)
「何日もお風呂入れなかったりして、やっとで髪切ったりして、みんなすっきりした顔していてうれしそうだったので、震災があっても役立つ仕事だと知って、理容師になろうと思った」
高校卒業後は、ふるさとを離れ盛岡市のヘアメイク専門学校へ進み、理容の技術を懸命に学びました。
その努力は実を結び、学生が技術を競う全国大会で最高賞の金賞に輝きました。
震災から6年後の2017年、卒業式の日にはいつも支えてくれた母への感謝があふれました。
中澤瑞未さん(当時20歳)
「ずっと一人で支えてもらっていたので、大槌にはまだ帰らないけど、盛岡で一人でちゃんとした理容師になれるように頑張りたい。感謝の気持ちでいっぱい」
母・純子さん
「娘の頑張りもあっての卒業だけど、天国で見守ってくれた。色んな面で本当にありがとうっていう感謝の気持ち」
卒業後はヒラトヤグループに入社し、盛岡駅前の店舗で理容師としての一歩を踏み出します。
アシスタント時代は、営業後に毎日のように練習を重ね腕を磨いてきました。
入社3年目からカットを担当、いまでは多くの客から指名を受ける人気のスタイリストに成長しました。
常連客
「その時の季節だったり状況だったり、微調整でカット変えてくれたりするので、すごくありがたい」
そして4年前、同じ理容師で現在は菜園店の店長を務める1歳年上の中澤祐真さん(30)と結婚しました。
中澤瑞未さん
「精神的にも安定するというところが結婚して変わったところ」
2人は盛岡市の専門学校の先輩と後輩、祐真さんも沿岸の岩泉町出身です。
2026年1月からは同じ店舗で働くことになり、互いの仕事ぶりを間近で感じられるようになりました。
中澤祐真さん
「接客している姿や施術している姿を見ていれば、お客さんと楽しくやっているのも分かるし、色んな面で本当頼りになるという印象」
2人は震災から15年を迎えるのにあわせて、3月9日に大槌町に出向きました。
普段は離れていても、瑞未さんにとってかけがえのないふるさとです。
この日は、母・純子さんと一緒に父と祖父の墓を訪れました。
中澤瑞未さん
「長かったようであっという間の15年間。仕事も頑張っているよと報告をした」
母・純子さん
「あの時お父さんが46歳だったのに自分だけ歳とって。でも今まですごく見守っていてもらったのは、自分で感じていた」
実家の店で今も理容師として働く純子さんとは、同業者として多くのことを分かち合えるようになりました。
中澤瑞未さん
「『こういうところ大変だよね』とか『こういう仕事だよね』とか、話をしていて共感できるポイントが多いので、そこは話しやすい」
母・純子さん
「大変なところとか、良いところも悪いところも理解できる」
震災から15年、様々な経験を積むなかでふるさとの良さにも改めて気づいたという瑞未さん。夫とともにある夢を描いています。
中澤瑞未さん
「自分の技術とかも、ちょっとずつ自信もついてきたし、この地元の大槌で店を2人で開きたい」
悲しみを抱えながらも前へ進み続けてきた瑞未さん。亡き父や祖父、そして人生の師となった母への思いを胸に、新たな夢へと歩み出しています。