東日本大震災から3月11日で15年。原発事故の影響が残る福島県双葉町に、3年前、長野県千曲市のシャツメーカーが、工房をオープンさせた。そこで作ったのは、地元の中学・高校で着られていた制服をぬいぐるみサイズにリメークしたもの。大切な思い出が詰まった制服を、新たな形にして未来に残し、心の復興を願う取り組みだ。

今も残る震災の爪痕

福島県双葉町。15年前、東日本大震災で事故を起こした福島第一原発がある。町内には、震災の爪痕がそのまま残っている場所も。町のいたるところには放射線量を測る線量計が設置されている。

さらに―。

(記者リポート)
「双葉町では、震災からまもなく15年がたとうとしていますが、今も帰還困難区域、自由に立ち入ることのできないエリアが多く残っています」

町の約85%の地域は放射線量が高く「帰還困難区域」に指定されています。居住はもちろん、自由な立ち入りも制限される状況が今も続いている。

「帰還困難区域」
「帰還困難区域」
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千曲市の企業が双葉町へ

一方、避難指示が解除されたエリアに、3年前、千曲市のシャツメーカー「フレックスジャパン」が工房を立ち上げた。思い出の服をバッグや小物などにリメークする工房だ。 

ひなた工房・田中洋平さん:
「震災があった場所なので、リメークを通してここから先に進める、気持ち的に。そういうものの1つが作れればいいなと」

ひなた工房・田中洋平さん
ひなた工房・田中洋平さん

制服に詰まった15年前の記憶

かわいらしい制服を着たクマのぬいぐるみの数々。これらはすべて工房で作られたもので、ぬいぐるみが着ている制服は、双葉郡内の中学・高校で実際に着られていた制服をリメークしたもの。そこには「震災の記憶」が詰まったものもある。

(制服と一緒に寄せられたエピソード)
「私が通っていた高校は、震災の影響で閉校してしまいました。自分たちの代があの校舎での最後の卒業生となり、母校がもう存在しないことを思うと、とても寂しく、そして複雑な気持ちになります。それでも高校で過ごした日々や仲間との思い出は、今も自分の中で強く生き続けています」

思い出が詰まった制服―。

そこに残されていた15年前の「あの記憶」。

ひなた工房でリメークされたぬいぐるみ
ひなた工房でリメークされたぬいぐるみ

「再生の町」での新たな挑戦

2011年3月11日。巨大地震と津波によって起きた原発事故。双葉町は、町全域が避難指示の対象になり、「全町避難」へ。住民は全国に散らばり、町から人の姿が消えた。

発生から11年がたった2022年、町中心部の避難指示が解除され、住民が住めるようになった。原発事故で被災した市町村の中で最も遅い解除だった。

その翌年の2023年、双葉町の復興産業拠点にフレックスジャパンが「ひなた工房」をオープンさせた。

フレックスジャパンは千曲市に本社を置くシャツメーカーで、「軽井沢シャツ」などのブランドも手掛けている。その技術をいかし、震災からの「再生」に結びつけられないかと考え、始めたのが「服のリメーク」だ。

フレックスジャパン・矢島隆生社長(2023年):
「(衣服の)思い出だけを別の形にリメークして再生することができないかと。双葉町は東日本大震災、原発事故からの再生・復興の象徴と捉えられている町。再生の象徴の町から衣料品の再生の事業をやるということになれば、皆さんに知ってもらう機会が増えるかなと」

双葉町の復興産業拠点にオープンした「ひなた工房」
双葉町の復興産業拠点にオープンした「ひなた工房」

32着の制服に詰まった思い

この取材から3年後の2026年2月。

再び双葉町を訪ねると―。

変わらず震災の爪痕が多く残っている一方、双葉駅周辺では復興公営住宅などができ、町のいたるところで再開発が進んでいた。3年前、町内に住む人は60人程度だったが、2月末時点では200人以上となり、まだわずかではあるが、人が戻ってきている。

町の「再生」が進む中、フレックスジャパンが新たな「再生事業」として手掛けたのが、先ほどの「制服リメーク」だ。双葉郡内の6町2村、20校以上の中学、高校に呼びかけ、寄せられた制服は全部で32着。(2026年2月末現在)

ひとつひとつ思い出の詰まった制服。

丁寧に手作業でリメークした。

20校以上の中学、高校に呼びかけ寄せられた制服(提供:フレックスジャパン)
20校以上の中学、高校に呼びかけ寄せられた制服(提供:フレックスジャパン)

「心の復興」願うプロジェクト

フレックスジャパン・唐木沢修さん:
「(双葉郡内の)学校も休校になっているところがほとんど、一部も取り壊されて廃校になってしまったところもあって。建物とかハード面がどんどん復興する中、心のケアとしての復興、ソフトな部分を復興するお手伝いというところで、今回の『ふたばのがっこう』(制服リメーク)はお役に立てるのかなと」

出来上がった制服は2026年1月から双葉町の施設で展示されている。

制服にまつわるエピソードも寄せてもらい、ぬいぐるみと一緒に展示している。

フレックスジャパン・唐木沢修さん
フレックスジャパン・唐木沢修さん

制服に詰まる「あの日」の思い出

(制服にまつわるエピソード)
「勉強、部活、学校行事…当たりまえのように毎日着ていたのがこの制服です。中学2年生の終わりに起こった大きな地震。月曜日からはまた学校が始まると思っていた私は、この制服を部屋に置いたまま町の外に出ました。放射性物質がついている制服。持ち出す時に線量を測ってもらって、安全が確認できたので私の手元に戻ってきました。全く予想していなかった形でたくさんの思い出が詰まった制服が生まれ変わること、とてもうれしいです」

(制服にまつわるエピソード)
「双葉中学校の中で得た思い出は、自分の人生の中でとても大切なものです。この制服に触れると校舎の様子や、クラスメイトなどの同級生たち、後輩たち、先生たちの笑顔が思い出されます。これからもこの思い出たちとともに、笑顔あふれる人生を、精一杯生きていこうと思います」

訪れた人(東京から):
「クマが着ているのはかわいいですが、気持ち的には複雑な気がします。本当は(この制服を)着るはずだったのに、町外移転してしまったり、亡くなってしまったお子さんというのは少なからずいると思うので、そういった子どもたちの夢を乗せてかわいいクマが代弁してくれているような感じで、この取り組みはとてもいいと思う」

訪れた人(茨城から):
「思い出の品とかを直して、人形にできるのはとてもすばらしいことだと思うし、(双葉町に)来てみて現場の実際の状況とか出回っている情報との差を知ることができた。もともと興味がなかったけど、興味が高まりました」

リメークされたぬいぐるみ
リメークされたぬいぐるみ

着られなかった制服が宝物に

制服を見つめる1人の女性。浪江町出身の高木舞さん(28)。制服を寄せた一人だ。

高木舞さん:
「やっぱりかわいいなと思いますね。気に入っていたので、セーラー服、私も3年間着たかった。この制服の数だけ学校もあって、そこに通っていた学生の皆さんも私と同じように原発の災害で地元を離れることになってしまったと思うと複雑な気持ち」

高木さんは、中学1年生の時に震災を経験。仙台の親戚の家に避難し、そのまま浪江町に戻ることはなかった。

制服をリメークした・高木舞さん(浪江町出身):
「(母校は閉校し)学校もなくなってしまったので、自分の子どもがもし生まれたときに着せる機会もないので、こういう形でぬいぐるみの洋服として生まれ変わらせることができたのは、飾っておくことができるので良かった」

高木舞さん
高木舞さん

記憶を未来への糧につなげる

つらい記憶もあれば―。

楽しかった記憶も―。

それぞれの震災の記憶が詰まった制服のリメーク。

その記憶を忘れず、未来への糧につなげてもらいたい―。

「心の復興」への願いがそこには込められている。

フレックスジャパン・唐木沢修さん:
「ふるさと双葉に自分たちの思い出があって、つらい部分もあったけど幸せだったときもある。その幸せだった思い出を未来への糧としてというようなことを感じ取ってもらいたい。そういう『心の復興』にお役に立てればいいなと」

高木さんの制服をリメークしたぬいぐるみ
高木さんの制服をリメークしたぬいぐるみ
長野放送
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