天皇皇后両陛下が滞在されているオランダ。各国の王室と親善を重ねる中でも、両陛下にとってオランダの国王夫妻は特に親しい間柄といえる。
皇室とオランダ王室、陛下とウィレムアレクサンダー国王、皇后さまとマキシマ王妃、愛子さまと王女たち。その絆と今回の訪問の意味することとは。
「家族」のような間柄
陛下と国王の交流は、イギリスのオックスフォード大学留学中にオランダを旅行された1984年から始まった。
陛下の方が7歳上だが、同世代でもあり、お互いに学生で独身だった頃からのお付き合いで、初対面の際の印象を陛下は「ずいぶん大きな方だなと思ったことをよく覚えています」と振り返られている。
元側近はお二人を「家族のような間柄」「お互い国では”至高”の存在だが年も近く対等に接することができる貴重な存在」と話している。
それぞれの国では、天皇、国王として見上げられる存在だが、似た立場同士、対等に接することができる貴重な関係性。訪問前の記者会見で、陛下は「いろいろお話を通して、それぞれの国のことについてもそれぞれの王室のことについてもいろんなことを伺うことができて、私自身も非常にいろいろ参考にさせていただいております」と明かされていた。
自由に行き来ができないお立場ゆえ、40年余の交流の中で直接会える機会は限られているにもかかわらず、「家族」のような関係性が築かれたのにはいくつか理由がある。
共に見つめる「戦争の傷跡」
オランダは日本にとって、もっとも付き合いの長いヨーロッパの国であり、江戸時代の鎖国期にも交流が続き、オランダは日本にとって世界を知る貴重な窓口だった。
ところが、太平洋戦争の開戦直前、旧日本軍が石油を求めてオランダ領だったインドネシアに侵攻し、13万人もの兵士や民間人が捕らえられ、多くの人が犠牲になった。
以来、オランダの人たちの中には根強い反日感情が残り、1971年、昭和天皇が非公式に訪問した際には日の丸が焼かれるなど激しいデモが起き、1991年に当時の海部総理が戦没者慰霊碑に供えた花輪はその日のうちに投げ捨てられた。
そして、日蘭交流400周年の節目を迎えた26年前の2000年に、上皇ご夫妻が天皇皇后として公式訪問されることになった。いまだに根強い反日感情が残る中、現地メディアには訪問への否定的な見出しが並んでいだ。
上皇さまは訪問前の記者会見で「この戦争によって多くの犠牲者が生じ、今なお傷みを抱えている人々がいることは本当に心の痛むことです。このような両国民の間の交流の歴史を全体として認識し、その上に立って、一層の友好関係を進めていきたいと願っていることを伝えたいと思います」戦争の傷を心にとどめながら旅に臨む覚悟を示された。
現地入りし、まず向かわれたのは、先の大戦の犠牲者を追悼する戦没者記念碑。その様子は国営放送で生中継される異例の事態となり、抑留された被害者や元捕虜などが広場に集まる中、上皇ご夫妻は当時のベアトリクス女王と共に記念碑に進み、深々と頭を下げ、犠牲者に黙祷を捧げられた。
およそ1分間にわたる静かな祈り。この訪問が、戦争の傷を見つめ、両国関係を未来へ進める機会になるよう、以前から親交のあった上皇さまは女王と率直に相談されていた、と当時の側近は話していた。この黙祷以降、ご夫妻が各地で交流される様子が現地で報道され、そのトーンは訪問前とは大きく変わっていったという。
過去の戦争の傷を忘れること無く、手を取りともに歩んでいく。両国のこうした関係性は、ご両親同士が真摯に向き合い築かれたものだということを、陛下も国王もしっかりと心に留めながら、友情を育んでこられた。今回の訪問中も、同じ戦没者記念碑に両陛下は祈りを捧げられるが、国王夫妻は立ち会わない予定だ。戦争との向き合いが、ご両親の世代から一歩進んだと言えるのかも知れない。
水問題という共通点
海抜の低いオランダは幾度も水害に見舞われてきた。その歴史は多くの河川を持つ日本と似ていて、国王と陛下には「水問題」に積極的に取り組むという共通点がある。
国連の「水と衛生に関する諮問委員会」で、国王は議長として、陛下は名誉総裁としてタッグを組んだ。天皇は制度に関わる活動ができない、という立場を国王は理解した上で、陛下は人道的に安全な水へのアクセスを支援され、国王は衛生的なトイレの普及に力を注いだ。日本とオランダを象徴するお二人が、役割分担をしながらイニシアティブを取ったことは、諮問委員会の大きな成果につながったという。
今回の滞在中、陛下の水関係の研究施設への視察には国王が同行することになっている。
静養への招待
国王の母である当時のベアトリクス女王は、上皇さまと長年信頼関係があり、適応障害で療養が続く雅子さまの体調を案じ、2006年の夏、ご一家をオランダのお城での静養に招いた。「何も気にせず、プライベートな時間をゆっくり過ごせるように」との配慮があったという。
当時の皇后さまは公的な活動から遠ざかり、海外への渡航にも不安を抱えていたが、現地でゆっくりとした時間を過ごし、今の国王ご一家とも動物園に出かけるなど家族ぐるみで交流。
また、次の訪問国のベルギーの国王一家もお城に合流し、当時4歳だった愛子さまは年の近い両国の王女たちと一緒に遊んだことを今も鮮明に覚えていらっしゃるという。
陛下は会見で、愛子さまにも初めての外国旅行で貴重な経験ができたことを「大変ありがたい」と振り返られていた。ここで芽生えた両王室との家族ぐるみの友情が後々皇后さまにとって大きな支えとなる。
「転機」となった即位式
2013年、女王の退位に伴い、国王の即位式が行われることになった。
国王夫妻は、皇后さまの体調への不安を理解した上で「ハレの場にぜひ立ち会ってほしい」と両陛下を招待した。体調が整わず、大事な儀式にもし出席できなかったらご迷惑をかけてしまう、と案じる皇后さまに親身に寄り添い、国王と陛下は直前に、ちょうどニューヨークで行われた「水と災害に関する特別会合」で同席していたため、お二人で直接相談し、不安点を一つずつクリアしていった。
即位式にご出席(2013年)マキシマ王妃も皇后さまに直接電話をかけ、「何も心配なさらずに即位式にご出席ください」と背中に手を添える言葉をかけたという。側近を通さず、直接やりとりを重ねられる親密な関係性があってこそ、皇后さまは出席することを決断でき、ご訪問が実現した。

不安を乗り越え、即位式への出席が叶った皇后さまは、国王夫妻やオランダとの親善に長年努めてこられた上皇ご夫妻に心から感謝し「この友好関係を大切にし、更に深めていく決意を新たにしております」と感想を寄せられた。
愛子さまの深いお辞儀が意味するもの
帰国した両陛下を当時小学校6年生、11歳だった愛子さまが深いお辞儀で出迎えられた。愛子さまにとって、一人で取材のカメラの前に立たれたのはこれが初めてのこと。物心ついて以降、ご両親が6日間、外国訪問で留守にされたのは初めてだった。
それまでは単身で外国訪問し、帰国された陛下を皇后さまと共にお住まいの玄関で出迎えられる立場だった愛子さまが、まず90度の深いお辞儀で敬意を示されたお姿は、現場にいた筆者の心に深く残った。愛子さまの皇族としての所作を初めて拝見した瞬間でもあった。
そして、車を降りて愛子さまに歩み寄られた皇后さまの笑顔からは、安堵感や達成感、晴れやかさも感じられた。
11年ぶりの海外での公務により国際親善の場に復帰したことは、皇后さまが一歩ずつ回復に向かわれる大事な節目となると共に、愛子さまの成長を物語る瞬間ともなった。そうした愛子さまの成長を頼もしく感じることが、皇后さまにとって少しずつ活動の幅を広げていく大きな励みになっている、と当時側近は話していた。
翌年には国賓として
即位式の翌年2014年秋、オランダ国王夫妻は国賓として訪日。ヨーロッパ以外の国への訪問は即位後初めてだった。
国賓の行事は緊張を伴うことから、当時の皇后さまにとって負担が大きかったが、オランダのシンボルカラーであるオレンジ色の装いで5年ぶりに歓迎行事に参列し、宮中晩さん会にも11年ぶりに出席された。
国王、王妃として初めて訪日した夫妻に対し感謝の気持ちを込めておもてなしをし、目上の存在へのカーテシーと呼ばれる所作で敬意を示された皇后さま。
この日をきっかけに国賓行事への出席が増え、国王夫妻の来日もまた、皇后さまの回復へのひとつの契機となった。
つらい時期にも寄り添ってきたオランダ王室
適応障害と診断され、本来の活力を失い、一時は公的な務めから遠ざかっていた皇后さま。その様子に誰よりも陛下が心を痛められていたと拝察するが、そんな両陛下にとってつらい時期にそっと手を差し伸べたのがオランダ王室だった。
体調に波を抱えながら一歩一歩、回復に向かわれた20年余りの歩みを振り返ると、節目節目にオランダ王室、とりわけ国王夫妻の存在と揺るぎない友情があったことが分かる。
陛下は常々記者会見などで「国と国との関係は人と人とのつながりというところが大きい」と話されている。留学時代に一人の青年としてオランダに赴き、以来皇太子、天皇と立場を変え、家庭を築いてからは皇后さまや愛子さまも交え、人と人として、王室と40年余の交流を紡がれている。
国王の国賓としての訪日から12年。
外交儀礼上も、国賓としての訪問には国賓としての訪問で答礼するのが一般的とされている。両陛下を招待する数多くの国の中でも、特に親交の深いオランダとベルギーからはたびたび招待が寄せられていた。
隣り合うオランダとベルギーを訪れるなら2カ国セットでの訪問となる。国賓としての外国訪問を4度重ね、皇后さまが2カ国歴訪が実現できるタイミングだと陛下も判断されたと聞いている。招待に応え、天皇皇后という立場で、国賓として訪問される時がようやく訪れた。
今回の訪問では、愛子さまが幼い頃に遊んだ同世代の王女たちが、皇太子の立場になり、両陛下と再会される機会もある。陛下にとって、祖父母や両親から受け継いだ交流のバトンをしっかりと握り、心を込めて次の世代につなげていく旅となる。
(フジテレビ宮内庁担当 宮﨑千歳)
