伝統ある落語界で、師匠を相手に人権侵害訴訟を起こすという異例の決断を下した、宮崎市出身の落語家・吉原馬雀(よしわら・ばじゃく)。破門、活動休止という絶望の淵から、彼はどのようにして最高位「真打」へと上り詰めたのか。2026年1月、自身の晴れ舞台を飾るために帰郷した馬雀さんの不屈の歩みと、故郷・宮崎への深い感謝の物語を追った。
真打昇進・いよいよ責任が乗ってきた
宮崎出身の落語家、吉原馬雀。本名、井上雄策。専門は創作落語だ。

身近な生活シーンを切り抜き、そこで巻き起こるすれ違いをユーモラスに表現する。表情豊かに話す語り口と絶妙な間。自然と物語の世界に引き込まれていく。

落語家には4つの位(見習い・前座・二ツ目・真打)がある。吉原馬雀は2025年9月、最高位である真打に昇進した。
馬雀は「真打は世間から見ても一人前。いよいよ責任という部分が乗っかってきたと感じる」と話す。

2025年9月、東京の寄席で真打披露興行がスタートした。

真打として世に名乗りを上げる晴れ舞台であり、馬雀は真打落語家としての第一歩を踏み出した。
故郷宮崎への特別な思い
1982年、馬雀は井上家の長男として誕生した。

宮崎市で生まれ育った馬雀は、小学生時代、ソフトボールに打ち込む少年だった。落語に興味を持ったのは高校生の時。文化祭で見た落語家に衝撃を受け、その道を目指すようになったという。
2025年11月23日、真打昇進後、初めての宮崎巡業。馬雀は自身が生まれ育った地元の柿木原公民館を会場に選んだ。

吉原馬雀:
今まで自分を知る人たちが来場するので、プレッシャーありますよね。

公演ではゲストに柳家さん花を迎え、会場は笑い声であふれた。

観客からは「小さい頃から知っている。これからが本番。頑張ってほしい」「親しみのある温かい落語家になってほしい」といった声が聞かれた。

吉原馬雀:
地元の人々に支えられた感はめちゃくちゃある。それがなければ落語家として生活できていないくらいあると思う。
地元の人々の応援や支えを受け、一見すると順風満帆な落語家人生を送っているように見える馬雀。しかし、その裏には、落語家生命を揺るがすほどの出来事があった。
「破門」告げられ…許してもらう条件が“坊主”
馬雀は「過去に些細なことで“破門”を告げられ、弟子として謝り許しを請うしかなかった。許してもらう条件が坊主にするだとか、それがね、やっぱり辛かった。」と過去を振り返る。

師匠による行き過ぎた指導に悩む日々。我慢の限界に達した馬雀は師匠に反発し、2022年2月、事実上の破門。活動休止を余儀なくされた。

その後、馬雀は元師匠の行き過ぎた指導が人権侵害に当たるとし、東京地方裁判所に提訴。東京地裁は「元師匠の指導における一部の言動は人権侵害にあたる」と判決を言い渡した。
弁護士を立てて訴訟を起こすことについて、馬雀は「今まで応援してくれた親や宮崎の人々には相当お世話になっていたので、本当にそこが辛かった」と話す。

この問題の最中、馬雀の行動に感銘を受け、「落語を続けてもらいたい」と、手を差し伸べたのが、現在の師匠・吉原朝馬(よしわらちょうば)だった。
朝馬師匠は「弟子が師匠を訴えるのは落語界始まって以来のこと。その勇気に打たれた」と振り返った。
馬雀は「師匠がいなければ、私は真打になれていない。これは確実に言える」と感謝の言葉を述べた。
故郷・宮崎での真打披露興行
2026年1月、落語界に入門して以来、初めて年始を宮崎で過ごしたという馬雀。幼少期からゆかりのある国富町の赤池神社を訪れていた。

真打披露興行の最後は、お世話になった地元の人たちに自身の晴れ姿を見てもらおうと、宮崎で盛大に開催する。
吉原馬雀:
今度、興行が上手くいきますようにとお願いした。おみくじ勢いで買っちゃった。大吉!でも欲を離れて人のために尽くしなさいって書いてある。そうしましょう。あるがままを受け入れるのみ。大丈夫大丈夫!馬雀にとっての特別な一日が始まった。

吉原馬雀:
(Q.今日は眠れた?)眠れなかった。全然眠れなかった。いや不安しかない。

真打になっても会場の準備は自身で行う。
小学生時代のソフトボールチームのメンバーも手伝いに駆けつけた。

吉原朝馬師匠が会場に到着。馬雀が企画する宮崎での落語会に師匠が出演するのはこの日が初めてである。馬雀にとって、この上ない喜びだった。
吉原馬雀:
これはもう念願。ようやく呼べるという感じ。万感の思い。師匠は噺家としての命の恩人なので。
いよいよ開演。

延岡市出身の桂銀治、宮崎市出身の立川らく兵、吉原朝馬師匠などが演目を披露し、会場は笑いにつつまれた。

口上では、真打に昇進した落語家の人となりを紹介し、激励する。

宮崎市出身 桂南楽さん:
(馬雀さんは)すごく優しいところがたくさんあって、宮崎で落語会をするときに車を運転してくださるんですよ…。それくらい笑

三遊亭 はらしょう:
(馬雀さんは)朝馬師匠に、拾われなかったらね、最後の舞台が東京地裁の法廷だったんですよ。

吉原朝馬師匠:
自分の作った落語を披露したい、みんなに聞いてもらいたい、笑ってもらいたい、楽しんでもらいたい、喜んでもらいたいという落語魂に私は打たれました。

落語会も終盤。会場の熱気は高まっていく。いよいよ馬雀の出番だ。

吉原馬雀:
(観客の皆様)どうか最後まで歯を食いしばってですね、食らいついてきていただきたいなと、そう思っております。もう本当にありがとうございます。

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馬雀の創作落語に観客は大笑いだ。
盛況のうち、落語会は無事終了。会場は盛大な拍手に包まれた。

ロビーで観客に囲まれる馬雀。ソフトボールチームの子供たちからは花束も。

吉原馬雀:
涙腺崩壊している。なんて言えばいいかわからない。もうちょっと盛り上げたかったなという悔しい気持ちもあったり、いろんな人からいろんな言葉をかけてもらったり、忘れられない日です。嬉しさ、たくさん来ていただいてありがとうございます、という気持ちと、本来とはちょっと違うかなというのもあったので、私らしいんじゃないですかね。
自然とこみ上げた涙の奥には、悔しさや喜びだけではない、どこか自信を感じさせる輝きがあった。
宮崎公演を終え、東京に戻っていく馬雀。

吉原馬雀:
頑張ります。本当に頑張りますよ。
馬の歩みのように力強く、困難な道のりを乗り越えてきた。その佇まいはどこか温かく、人々に愛される姿はまるでスズメのよう。吉原馬雀。これからも落語の道を歩み続ける。
馬雀は3月27日から4日間、宮崎県内4会場で落語会を開催する。
吉原馬雀「春らくご2026」3月27日(金)天長寺(都城市)3月28日(土)MUSIC BAR(宮崎市)3月29日(日)赤池神社(国富町)3月30日(月)明榮寺(宮崎市)詳しくは吉原馬雀さんのホームページまで。
(テレビ宮崎)



