秋田市を中心に、親子で楽しめるアート教室を開く女性がいる。偶然が生み出す色や模様に魅せられ、作品作りを通して広がるのは、かけがえのない時間。元警察官という異色の経歴を持つ講師が大切にしているのは、「今この瞬間」を家族とともに味わうことだった。
偶然から生まれる世界にひとつの表現
昼下がりのカフェに広がる穏やかな創作の時間。テーブルの上では絵の具がゆっくりと流れ、色が混ざり合っていく。
水が入ったビニール袋を、垂らした絵の具に押し当てると、ふわりと花のような模様が浮かび上がった。「ポーリングアート」と呼ばれる技法だ。
狙い通りにはいかないからこそ面白い。偶然が織りなす変化が、そのまま作品になる。
警察官として歩んだ23年
教室を開いている福岡祐子さんは、秋田・仙北市角館町の樺細工職人の家に生まれ育った。幼い頃からものづくりに親しんできたが、進んだ道は警察官だった。
生活安全や交通分野に携わり、23年間にわたり地域を支えてきた。
「『ありがとう』という言葉を聞くと、『頑張ったな』『良かったな』と思ったが、それに満足することは正直なかった」と、福岡さんは当時を振り返る。
人の役に立つやりがいを感じながらも、どこか満たされない思いがあった。
転機と心の揺らぎ
2017年3月、家族との時間を大切にしたいと警察を退職。それまでとは一変した生活が始まった。
しかし、張り詰めた日々からの急激な変化に心と体が追いつかず、体調を崩してしまう。
「このままじゃ駄目だなと思い、色々な趣味を見つけて好奇心のままいろんなことにトライした」と話す福岡さん。

模索の中で見つけたのが「アルコールインクアート」だった。にじみや広がりが偶然生む模様に魅せられていく。
「同じものは二度と作れない」その一瞬の表現が、福岡さんの心を大きく動かした。
親子の時間が教室の原点に
2018年2月、アート教室「Luana(ルアナ)」を立ち上げた。
アルコールインクアートやポーリングアートなど、液体の偶然性を生かした技法を伝えている。
教室開設を後押ししたのは、当時小学2年生だった長男だった。
「レッスン中」「休憩中」と書かれた手作りの札を用意するなど、懸命に手伝う姿が支えになった。
この経験から、親子で過ごす時間の尊さを強く実感したという。
福岡さんは「子供と一緒に過ごす時間や作品を作る時間があまり取れない。今の時間を大切にしてほしい、という思いで教室を続けている」と語る。
現在は親子参加型のワークショップも多く開催している。
「否定しない」から生まれる自信
教室には口コミで参加者が増え、リピーターも多い。
その理由の一つが、福岡さんの声かけだ。
生徒は、「的確にアドバイスをくれる。絶対に否定しない。『すてき』とすべて肯定してくれるのがうれしい」「すごく明るくて楽しい。最初はやっているうちに『大丈夫かな』と不安に思うが、自分でも気に入るものができた」と話す。
正解のないアートだからこそ、すべての表現を受け止める。その姿勢が、安心して挑戦できる空気をつくっている。
「自分のための時間」を取り戻す
福岡さんが目指すのは、子供だけでなく親にとっても心がほどける場所だ。
「『楽しい』『難しいけれど没頭できた』など、自分のために使っている時間を楽しんでいる様子を見るのがうれしいし、楽しい」と話す福岡さん。
日常の忙しさの中で後回しになりがちな「自分の時間」。作品作りを通して、それを取り戻してほしいと願っている。
今この瞬間をかたちに
色が混ざり合い、二度と同じにはならない世界にひとつだけの作品。そこには、その瞬間の思いや時間が刻まれている。
福岡さんが紡いでいるのは、アートだけではない。親子で過ごすかけがえのない時間そのものだ。
きょうもまた、誰かの「今」がキャンバスの上にやさしく広がっていく。
(秋田テレビ)
