いつからだろうか。人が発する言葉に、その個性の魅力以外に残酷さという恐怖を感じるようになった。

もちろん自分が傷つくだけではない。自分の口から溢れた言葉で誰かを傷つけてしまうこと、突き放してしまうことの恐ろしさもである。

一方で、言葉を生業にする者として、どこかで言葉の力を信じたい自分もいる。

これは言葉の持つ力にかけてみたいと願う私なりの草の根運動です。同じく心に言葉の力を信じている方に、今日から実践できるヒントを伺いました。

時が経てば、環境が変われば、その人から発せられる言葉も変わることもある中で記録された瑞々しい言葉の数々。今回は言葉を題材にした脚本を書き上げた17歳がお相手です。

平野さんの通う高校の近所で。平野さん(右)と、筆者の新美アナウンサー(左)
平野さんの通う高校の近所で。平野さん(右)と、筆者の新美アナウンサー(左)
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平野水乙(ひらの みお)さん17歳。フジテレビが行なっている全国の高校生を対象にした脚本コンクール「ドラマ甲子園」の第7回大賞を史上最年少の16歳で受賞した高校2年生です。大賞に輝いた脚本は実際にドラマ化され、日頃ドラマ制作をしているスタッフや俳優たちと共に、高校生自ら監督となって演出します。

学校では映像制作もする放送部所属ではあるものの、普段はアナウンス部門に所属しているためか、受賞にあたって「脚本が書けるなら早く言ってよ!」と同じ部員に驚かれたという平野さん。受賞したドラマ『言の葉』は彼女が初めて書きあげた脚本だというから更に驚かされる。

「母の反応が薄かったから」

ーー新型コロナウイルス感染拡大による自粛期間中、学校はお休みだったのですか?

平野さん:
私の高校では最初に3〜4ヶ月学校が休みで、そこからインターネットを使った授業も受けられるようになって、8月ごろから登校できるようになりました。

ーーどうして脚本を書いてみようと思ったのですか。

平野さん:
前から、思いついた物語を母に話していたんですが、「ふーん」って反応が薄くて。私の力はどのくらいなのかなあと、(審査されることで)自分の物語に対しての意見が欲しいと思ったんです。(誰かに勧められたからではなく)ドラマ甲子園は自分で見つけて応募しました。

ーー大賞を獲ったとなると、お母さんも驚きますよね。その後お母さんの反応も変わりましたか?

平野さん:
「こんな話を思いついた」と話すと、今ではしっかり聞いてくれます(笑)。 

ーー『言の葉』は、いつ頃思いついた話なのですか。

平野さん:
去年…高校1年生の12月から今年の1月頃。ちょうど音楽を聴いていたところで思い浮かんで、30分で構成だけ書きました。クラシックが好きなので、ピアノを主役とした音楽を聴いていました。

ーードラマでもゆったりとした雰囲気の音楽が流れていましたね。

平野さん:
今回のメインテーマであるヨルシカさんもよく聴いていました。主にバラードをよく聴きます。今回も主にピアノを使ったメロディーでドラマが作られているので、ゆったりしたドラマに仕上がったなと思います。脚本を出してみたいなという最初の考えから、今まで書いてきた物語の構成の中からどれを出そうかなと考えているうちに、これにしよう、ちゃんと書いてみようと書き始めたんです。小学4年生の頃から物語を書き始めていて、思い出して数えられるだけで…20本くらいあります。常に考えているので、もしかしたらもっと多いかもしれないです。

放課後、インタビューまでの時間に自習をしてきたという平野さん
放課後、インタビューまでの時間に自習をしてきたという平野さん

ドラマ『言の葉』は、言葉を伝える大切さがテーマ。主人公・香里は人付き合いが苦手で、「ありがとう」と素直にいえずにクラスで孤立してしまう。言葉が話せない女の子との公園での出会いが、彼女に変化をもたらしていく友情物語。

ーー『言の葉』は元々、どんな出来事を元に思いついた話なんですか。

平野さん:
言葉っていうワードが元から好きで、漢字もきれいだし、言葉って大切だし、いいなあと思っていたのです。それで、ふと電車の中とか、外の周りの人たちを見てみたら、絶対、スマホ。SNSで会話していたり、見えないけれど言葉を伝えている動作、仕草をしているのが見えてきて…。

それまでの会話から、ここで明らかに彼女の中で何かスイッチが入った気がした。質問を挟むのを躊躇うほど、次々溢れてくる彼女の、言葉に対する強い危機感。

ストレスがもたらす悪影響

平野さん:
今、SNSでの誹謗中傷が問題になっていたり、言葉のいじめで被害にあっちゃう人を考えてみて、人間って、口があるのにSNSの影響でちゃんと口に出さずに文字に起こしちゃっているなと思ったんです。確かに文字で言葉を伝えるのも大切なんだろうけど、やっぱり口で言った方が一番伝わるんじゃないかなと思って。もしかしたら私たちみたいな高校生や若い人たちは伝える勇気がどんどんなくなっているんじゃないかなと思い始めて、じゃあ言葉を伝える大切さを伝えるドラマを作ってみたい、脚本を描いてみたいなと「言葉」をテーマにして作りました。

ーー口に出して何かを伝えることが減っているなと感じていましたか。

平野さん:
コロナ関係で学校がなかった時、より人と関わらなくなって人と話す機会がなくなってしまったんですよね。ストレスで「バッ!」て思って出ちゃう言葉が悪口だったり、人が傷つきやすい言葉ばかりでいい言葉が全然ないなっていうことを感じました。ただ、コロナ禍だからだけでなくて昔から、SNSができた時代からそうなんじゃないか、言葉を伝える勇気がないんだなって感じていたんです。

ーー口からつい悪口が出てしまうというのは自分のことですか?それとも周りを見て?

平野さん:
自分のことでも、知らぬ間にストレスで親に反抗的な態度をとっちゃいましたし、家族とか友達を見ていても、文字でも悪口というのか、愚痴を言うことが増えてきたのを感じて。「あ、このままじゃダメだな」って思い始めました。

ーー例えばどんな愚痴が増えましたか?

平野さん:
テストが近いと「勉強がやりにくい」、「家にずっといるの嫌だ」とか。あとは、人について「誰々がこう」とかもありましたし。小さなことでも、こういう期間だったのでストレスが溜まっていたんじゃないかなと。

ドラマ『言の葉』では監督として演出も担う平野さん(左上)
ドラマ『言の葉』では監督として演出も担う平野さん(左上)

筆者自身、すれ違う人の歩くスピードの速さや聞こえてくる舌打ちやため息に、心がすり減るような空気のよどみをいつからか感じていた。自身も完璧な人間でないけれど、小さなことでも何かできることがないだろうか。

言葉を変えれば、環境も変わる

ーー世の中を見ていても愚痴が多いな、ストレスが溜まっているなと感じることは多いですか?

平野さん:
そう感じます!(私自身)InstagramもTwitterも見ない方なのに、ニュースとか周りの言動をみていて「ああ、今は悪い雰囲気なんだろうな」「こういうことを言っているんだろうな」と感じます。子供だけの問題じゃないんだなと思うんです。大人子供全て合わせて、言葉というのは大切に伝えなきゃいけないんだなと思いました。

ーー世の中の雰囲気は、何を通して感じますか?

平野さん:
やっぱり家族ですね。この自粛期間は家族としか会っていなかったので、家族のちょっとした会話を聞いていて、例えば職場の問題。友達と話していても、親がこうだとか。友達と話しているその場所でも、ちょっと揉め事をしているのを見たり。1人でいる大人を見ていると言葉で変えられないのかなと感じるんです。うまく言えないけれど…。

平野さんと話していると、頭の中に湧き上がる、言葉になるようでならない混沌とした強い想いをどうにか伝えたいのだという渦を感じる。伝えたい気持ちはたくさんあるのに、どう言葉にしたら伝わるんだろうともがく様子がかえってこちらの胸に届く。

大人も、変わりたいなと思っている人がいる。今のこの世の中のことを好きじゃないなって思っていて、変わりたいと。そんな人でも、つい口から愚痴が出てしまうことも多い。

ーー愚痴が出る癖を変えるには、環境を変えるのではなくて、言葉で変えた方がいいと思いますか。

平野さん:
環境はすぐには変えられないなと思っています。早く変えるには、やっぱり最初は言葉なんじゃないかなと。言葉を変えて、環境を変えれば、良い生活ができるんじゃないかなというのは思っています。

ーー言葉を変えるというのは?

平野さん:
言葉をもっと勇気を出して伝えることが大切なんじゃないかなと思っています。例えば私たち高校生だと、ちょっとだけ挨拶が苦手だったり、当たり前にしている号令や「バイバイ!」といった軽い、いつも使っている言葉さえ言わずにお辞儀だけだったり、口に出して言わない…。そういうことからちゃんとやっていかないと、言葉は変わっていかないんじゃないかなと思います。まずは挨拶。小さなことから、当たり前の言葉をちゃんといってみることが大切だと思います。

撮影現場での平野監督(中央) 香里役・蒔田彩珠さん(左)、じぃじ役・泉谷しげるさん(右)と共に
撮影現場での平野監督(中央) 香里役・蒔田彩珠さん(左)、じぃじ役・泉谷しげるさん(右)と共に

学校での教えの意味を後になって気づくことも多いが、彼女は既にどこか納得しているような口振りだった。口から出る言葉を変えることで環境を変えられるというが、なぜそれほどまでに彼女は言葉の持つ力を信じていられるのだろうか。

SNS時代とも呼ばれる昨今で、平野さんは文字での言葉でなくて口から出る言葉に重きをおいているなと感じる。

ーー平野さんが「口から出る言葉」を大切にしているのは、誰かの影響ですか?

平野さん:
なんだろう…。今のクラスの子なんですけど、いつも必ず挨拶してくれる子がいるんです。私は挨拶しない人間なので、ペコってするくらいで無視してしまうこともあるんですけど、その子はいつも名前まで言ってくれて「○○ちゃん、おはよう」「○○くんおはよう」ってちゃんと目を見て挨拶するんです。その子を見て、「こういう子が言葉をきちんと伝えるんだろうな。言葉を伝える大切さをわかっているんだろうな。」って感じました。その子だけじゃなくて挨拶する子とか、ありがとうを言う子、ごめんなさいを言う子をたくさん見てきたので、そういう人たちを見ていると、自分もやんなきゃなってすごく思うんです。

ーーその子と出会ってからの自分には、何か変化を感じますか?

平野さん:
私、こう見えて人と全然喋れないんです。大人とは特に喋れなくて。こういう機会をいただいて、大人に対してでも自分の思いを喋れるようになりました。あとは「ありがとう」って言われると、こっちもありがとうって返したくなったり、おはようって言われてもそうで、ちゃんと言われた時は自分も返そう、まずは友達に挨拶してみようと、絶対に挨拶するようになりました。多分、相手の中での好感度も変わるし、自分も気持ち良くなると思います。

テスト期間も終わり、ホッとした様子の平野さん
テスト期間も終わり、ホッとした様子の平野さん

負の感情との付き合い方=丸めて捨てる

ーー一方で、誰かの言葉で傷ついたことや傷つけてしまったことなど、言葉の悪い方向への影響力を何か感じたことはありますか。

平野さん:
例えばクラスのリーダーみたいな子が「こいつをいじめようぜ」って言ったら、その一声で皆は参加したりその子を無視しちゃったり、そういう影響が出てしまいますよね。言葉を伝えるのは大切なことなんですけど、悪い方向で伝えちゃうと…うーん。言葉は伝えるからこそ、もっと大きなものが生まれると思っているので、いいことで(言葉を)伝えたら周りが寄ってきて良いものになるけれど、逆に悪いものも同じく大きくなっていく。だからSNSもそうで、悪いことを言うと、だんだんそこからみんなが「違うだろう!」「そうだそうだ」って炎上が起きてしまう。やっぱり「悪いこと」と「いいこと」ちゃんとわきまえて言葉を伝えなきゃいけないと思います。ちゃんと一旦考えてから伝えるのが大事です。

ーーただ、残念なことに負の感情の方が共感性を呼ぶこともあると思うんです。「あの先生の話、長くない?」といったように、「わかる!」って皆がつい共感するような話題。そうしたマイナスな気持ちは、どこに吐き出したらいいんでしょうか。

平野さん:
私は紙に書いているんです。親に怒られて自分も反抗したいんだけど反抗できない時とかに、紙に投げやり(殴り書き?何も考えずに?)で書くんですよ。それですごくスッキリしていることがあるんです。そうやって悪いものを紙に文字にして書くからこそ、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てられるので、そうして私は抑えているところがあります。

ーーところが最近では、紙に書くのではなくて、つい手元にあるスマホなどでSNSに投稿してしまうんでしょうね。

平野さん:
改善すべきなのは、悪いことをSNSに書かないってこと。ただ吐き出す場所がないからSNSに書いちゃうと思うのですが、SNSは人が見るので!思っていることを人から見られて恥ずかしいって思ったら書かないこと。私は、親に怒られて投げやりに書いたものは人に見られるのはすごく恥ずかしいので。ただ、一人で抱え込むのもよくないので、信じられる友達に吐き出した方がいいと思います。

ーー信じられる友達が周りにいるって言えるのもいいですね。

平野さん:
私は今まで辛いできごとがあっても友達に話して、友達も、悪いことがあっても私に話してって共感があるからこそ成り立っている。だから、悪いことがあっても次頑張ろうって思えるんです。

ドラマ『言の葉』では、いわゆる恋愛模様が一切描かれていない。今までのドラマ甲子園を全て観て研究していた平野さんが、恋愛要素の多かった今までの傾向とあえて一線を画し、「友情」一本でも面白いものが作れるんだと勝負したところからも、彼女にとっての友達の存在の大きさが伝わってくる。

ーー平野さんが大事にしている言葉の大切さという話を、友達とはしないですか?

平野さん:
あんまりしないですね。自分で思うところもあるし、教えるんじゃなくて自分で気付かないと意味がないと思うので。もし(日々の暮らしの中で)気付かないなら、大切なものに気付くようなドラマや映画を見たりして自分で得るほうがいいんじゃないのかなと思って、あえてそういう話はしません。(友達以外にも)このドラマはいろんな人々に見てほしいです。言葉って大切なんだよっていうのは友達でも家族でも周りの人でも、私の知らない人でも知ってほしいなって作ったドラマです。

劇中の女の子・咲の、自分がいない環境でも問題を解決できるよう香里を手助けする姿にも、平野さんが友達のことを心から想う様子が垣間見えるのもまた、面白い。

咲役・桜田ひよりさん(右)に演出する平野監督(左)
咲役・桜田ひよりさん(右)に演出する平野監督(左)

「心から言葉を叫べ!」

ーー最後に。言葉で世界を変えるとしたら、どんな言葉でどんな世界に変えたいですか。

平野さん:
言葉をうまく伝えられない人に向かって言うとしたら、「叫べっ!」て言いたいですね。今の人々はストレスとか嫌なこととか、自分の問題を抱えすぎちゃっていると思います。だからSNSで発言しちゃったり、相手を傷つけちゃったりしているわけで。友達がいるなら友達がいるところで叫んでみたり、誰もいない大自然で「わー!」って叫んでみたり、私のように文字に書いてそのまま丸めて捨てたりとか。とにかく心から言葉を叫べって言うのを伝えていきたいです。そうしたらいい言葉も生まれると思うんです。悪い言葉が生まれたからこそ、いい言葉もまた出てくると思っているので。

ーー心から言葉を叫べというのは、どんな言葉でもいいんですか。

平野さん:
なんでもいいです!思ったことを、子供みたいにとにかく口に出すのがいいと思うんです。でも、場をわきまえて悪い言葉はちょっと控えたり、違う方向を向いて叫ぶんです。どんどんそういう切り替えをやっていくのがいいのではないかな。多分言葉って一番ストレスが溜まるんですよね。言われることも言うことも。だから叫んで、自分から出しちゃうのがいいです。私がそうなので。(笑)

ーー書き殴って丸めて捨てるのは、アナログだけど効きそうですね。

平野さん:
本当に、私はいっつもやっています!だんだん書いていると、「自分、何をやっているのだろう」と思い始めてくるんですよ。それで、ペンを置いた後グッシャグシャにしてゴミ箱に捨てるんです。

ーー怒っている時間って、わーっと怒る勢いがあるから、「書くこと」は我に返る時間なのかもしれないですね。

どういう社会に生きたいか

家、学校、社会と見る世界を広げていく中で「こういう人がいたなあ」「こういう人を助けられたらいいなあ」と目に映る人物に興味を持ち、自分の領域に手繰り寄せて彼女なりの方法で物事を見ているのだと思わされる。

ーー今後、どういう大人になって、どういう社会に生きていきたいと思いますか。

平野さん:
大人はみんな子供みたいなんだと思っています。私達高校生は早く大人になりたいと思っているんですけど、もしかして大人って、あの頃に戻りたいとか過去の方を見ているんじゃないかなって思っていて、高校生と大人ってそこが矛盾しているなと。その矛盾の影響で、物事への感じ方とか言葉の使い方が変わってくるんだろうなあって思い始めると、そこは一つの心にしないといけないんだろうなあって。

ーー私もふと高校生の自分に戻りたいなって、大人になってから思います。高校生とか新人の頃ってもっと早く大人になりたいと思っていたはずなのに、いつの間にか逆転していて。

平野さん:
子供に戻りたいって考えがあるから関係が悪くなったり、早く大人になりたいからこそ、せっかちすぎてミスしてしまったりとかうまくいかないことが多いのかなって思います。大人は大人の考え方があると思うんですけど、高校生は早く大人になりたいって考えすぎてしまう。でも、ちょっと一回立ち止まって「今自分が何をすべきか、今自分はどの立場に立っているのか」を考えたり、大人は大人で「いつまでも子供の考え方はしてはいけない。前を向いて歩こう」って思ったり、一旦立ち止まって、そこから人といっぱい関わって、環境を作り上げていくのがいいのではないかなって、そういう社会で助け合っていきたいなと思っています。

大人は高校生の考え方を聞きたい、高校生は大人の考え方を聞きたい。上下構わずに差別とかなく、人という平等な生き物として関わり合っていくのがいい世界なんじゃないかなって。私はそういう社会に変えていきたいと思いますし、そういう社会に生きていきたいです。

インタビューを終えて

彼女とは、私が担当している『週刊フジテレビ批評』の取材で出会った。演者2人に挟まれ緊張しながらも自分の言葉でドラマ制作について話す彼女の姿を見ているうちに、もっと彼女のことを聞いてみたいと思ったのがこのインタビューのきっかけである。

新型コロナウイルスの発現により、多くの当たり前が変わった。中でも、知人との交流を渇望しながらもエレベーターといった狭い空間で声を発するのをやめよう、人のものを代わりに拾うのはやめようと、少し過剰に他人と距離を置くようになった自分に気づいた。人との会話や挨拶も会釈に代わり、お互いに優しくないなと感じながらもどこか気が楽だと自己の半径1メートルほどの世界に閉じこもるようになったように感じる。

彼女との会話は、そんな一方で私が心の中にうっすら感じていた「自分への小さな危機感」にきちんと警鐘を鳴らされた気がした。大切なのは当たり前のこと。挨拶。言葉を口に出しての会話。この記事を読んでくれたあなたにも、小さな会話が生まれることを切に願う。

漠然とした自分の考えを言語化して伝えようと、悩みながら話す彼女の姿を思い出してみた。すると彼女のそうした血の通った言葉に触れているうちに、こうして誰かの体温を感じる言葉を、アナウンサーとしてこれからも拾い続けていきたいと思う時間になったと感じる。

匿名やハンドルネームだからこそ言えることの多い時代に、平野水乙さんとして素直に語ってくれた彼女に深く感謝したい。

【執筆:フジテレビ アナウンサー 新美有加】

第7回「ドラマ甲子園」大賞受賞作品『言の葉』はFODにて配信中。

10月31日(土)よる8時〜CS放送フジテレビTWOにて放送開始。

10月31日(土)あさ5時30分~週刊フジテレビ批評でドラマのメイキング放送予定。

新美有加
新美有加

フジテレビ・アナウンサー