特集、シリーズ「岐路に立つ書店」です。
いま、地方都市を中心に全国的に「町の本屋さん」の減少が続いています。
番組では尾道市因島の商店街を長期間取材しています。
本の温もりが残るこの場所には、店主たちの絶え間ぬ奮闘がありました。

「毎度、ご乗船ありがとうございます。間もなく土生港に到着しますので忘れものございませんよう、ご支度願います」

戦後、「造船の島」として栄えてきた因島。
その島の南側にある土生地区にはどこか懐かしい風情が漂う商店街が…。
ここには今も「町の本屋さん」が3軒営業しています。

1軒1軒に密着すると「町の本屋さん」の変わらない温もりと、店主の懸命な努力で経営が成り立っている現状が見えてました。

Q:本屋さんが因島にあるのはどうですか?
A:ありがたいです。最近全部潰れているじゃないですか。

「探しに来とるよね」
「え!?」
「本を探しに来とるよね」
「探すというより買いに来たんよ」

きょうは3軒のうち、因島から積極的に外に出て店を守る1軒の本屋さんが主人公です。

【興文館書店・楠見敏樹さん】
「店員さんがいるので店売りだけでは給料が払えないので、自分が思っているのは僕の仕事は仕事をとってくる」

土生商店街にある本屋さんで最も古い興文館書店。
3代目の楠見敏樹さんは、15年前、勤めていた横浜の会社を辞め、島にUターンしてきました。

【興文館書店・楠見敏樹さん】
「本屋さんをやっているんですけど、活字が苦手というのがあるので、お客さんと話をしながらそういうことに興味を持っているというのを色々話を聴きながら、本の仕入れをしています」

本の知識には自信がない。
だからこそ、人一倍お客さんの声に謙虚に向き合ってきました。
開店準備を終えると毎日、店の外へ配達に出かけます。

【興文館書店・楠見敏樹さん】
Q:ちなみにどちらまで?
A:きょうは尾道の本土まで尾道まで行くんです。

この日は、店がある因島から尾道市中心部に向かいます。

【興文館書店・楠見敏樹さん】
Q:きょうだけで行くと採算はどうですか?
A:難しいかもしれないです。長い目で見て行くことによって、確実にプラスになっているので。

車で片道およそ40分。
わずか数冊の注文でもガソリン代や高速代を節約しながら週に2日、通っています。

到着したのは尾道市立大学です。
楠見さんの配達先には一般の人や店もありますが、特に、学校に力を入れています。

【尾道市立大学 附属図書館 岡田匠亮さん】
「大変助かっていますね。地元の書店さんも数が少ないので。伝票をこうしてくださいというのも直接言ったりすることもできるので、スムーズにネットで注文するよりも直に会って話したほうがやりやすいかな」

【興文館書店・楠見敏樹さん】
「本屋さんが来たではなくて楠見くんが来てくれたという関係を作りたいなと」

少しずつですが、尾道市街地の人にも因島に「本屋さん」があると覚えてもらえるようになりました。

時代の変化ともに書店の数は減少傾向が続いています。
2003年度、全国に2万軒あった店舗数は今では、半分程度になっています。
そんな困難な時代でも、因島にある興文館書店が尾道市街地に進出できたのは理由があります。
この日、楠見さんが運んでいたのは本ではなく、ミカンの箱…。
定期的に挨拶に行く人がいます。

【旧花本書店・岡田治さん】
「書店の数が減るのは寂しいけどさ、誰かが地域を守らないといけない」

【興文館書店・楠見敏樹さん】
「岡田社長から預かったものなので絶やすわけにはいかない」

尾道の商店街で惜しまれつつ閉店した老舗書店の販路と店主の想いを、楠見さんが受け継いでいます。

【興文館書店・楠見敏樹さん】
「元気な姿が見られてよかったです」

【旧花本書店・岡田治さん】
「こんな親父で…」

フェリーで瀬戸田へ…。

「こんにちは興文館です」
「お世話になります」
「ありがとうございます」

配達先は…、またもや学校です。
学校に新しい本を届けることは、地域の教育と文化を支えるインフラのような役目を担っています。
「本屋さん」にとっても定期的に買ってくれる「常連さん」のような大切な存在です。

【瀬戸田高校 高校生】
「私は知らなくて、図書室って古い本しか置いていない。あまり行くイメージがなかったけど、新しい本が瀬戸田高校は入ってくることが多くてとても居心地がいいです」

楠見さんは配達料などをもらいません。
本を手にした人の笑顔が「本屋」としての使命感を支えていると言います。

【配達先の客】
「本を読むのは唯一の楽しみ」
「そう言ってもらえると…。頑張りますんで」

島の中でも外でも一人一人に1冊1冊、丁寧に届けることで、一時の利益より次につながる「信頼」を勝ち取ってきました。
売り上げは実店舗の来店客よりも配達先が上回ります。

大晦日、楠見さんの姿は店にありました。

【興文館書店・楠見敏樹さん】
「このエビとそば、これを食べてやっと大晦日という実感がわきました」

1年の売り上げの「総決算」です。

【興文館書店・楠見敏樹さん】
「きゃー、数字が見える。レジを通ったお客さんの数で言うと5000人ちょっと。これを見る限りは6000人くらいを目指していく必要がある感じがします。僕が外に出て仕事をとってくるのが一番数字につながりやすい。待っているだけではなかなか難しいですよね」

配達に力を注いだ分、店全体としては黒字でしたが、楠見さんの表情は曇っていまました。
人口およそ2万人の因島で年間5000人が店に訪れても、決められた定価でしか販売できない本は十分な利益を出すことは難しいのです。
ただ、店舗という本との「出会いの場」は島で暮らす人たちにとって大切な時間であり続けています。

【常連客・村上美津子さん】
「ここら辺は全部読んだし…。どうしてですかね…。私にもわかりません。本がないとなんか寂しい」

近くに住む村上美津子さんは興文館書店の「常連さん」の一人です。

【常連客・村上美津子さん】
「本にだけお金を使ってきました」
「興文館書店としてはありがたい」
「私こそ近くにあってよかった」

家を訪ねると、立派な棚に小説などおよそ500冊が収められていました。

【常連客・村上美津子さん】
「新しく読む本があれば一番幸せ。こんなちっぽけな幸せですけど私にとっては一番です」

幅広い世代に今よりももっと足を運んでもらうため今、興文館書店が力を入れていることがあります。

【興文館書店・楠見敏樹さん】
「本離れが進んでいるので、短いショートストーリー本を読むきっかけになったりするので。分かりますと書くんじゃなくて分かるようにしたりとか」

季節ごとにオリジナルの推薦図書を一覧にしてまとめ、島のこども園や小学校に配っています。
毎日人と出会う中で流行りを読み取り、子どもたちが欲しいと思う本があれば、来店しなくても注文してもらえる仕組みです。

【購入した小学生】
「楽しい感じかな。読んで楽しい」

外に出向くことが実店舗を知ってもらう何よりの手段です。

【興文館書店・楠見敏樹さん】
「値段は一緒なんですよね。どこで買うんでも、何が違うかといったら対応が早いとか色んなことがスムーズにいくとかそこくらいしか違わない。意識しながらやっていけば絶対に今よりもよくなるので毎年、今よりもよくしていこうと思っているので」

島の外に積極的に出向く町の本屋さん「興文館書店」。
自分にしかできないアイデアと役割は何か?
「町の本屋さん」の価値を模索する日々はきょうも続いています。

テレビ新広島
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