2026年3月11日で東日本大震災から15年を迎える。多くの住民が津波による甚大な被害に見舞われた岩手県大船渡市では、2025年には大規模な山林火災が発生し再び地域を襲った。アワビの陸上養殖を手掛ける「元正榮北日本水産」は、震災からの復興途上にあった中、この火災で再び壊滅的な被害を受けた。度重なる災害でアワビが出荷できない状況が続く中、親子二人三脚で逆境を力に変える挑戦を続けている。
震災の記憶と20億円の被害
アワビの陸上養殖を手掛ける大船渡市三陸町綾里の元正榮北日本水産。
度重なる災害でアワビが出荷できないなか、少しでも収入につなげようと工場見学の受け入れを始めている。この日は三陸でのツアーを検討する旅行会社が訪れた。
施設を案内するのは、社長の長男で専務の古川翔太さん(30)。
「アワビは生まれてから出荷サイズの食用になるまで2年半から3年かかる」などと説明していた。
元正榮北日本水産 古川翔太専務:
震災と山林火災を2度経験している事業者について話を聞きたいと、見学に来ていただいた。
北日本水産がある綾里地区は、東日本大震災の津波で大きな被害を受けた。経営する古川さん一家の自宅もこの地区にあった。
専務の古川翔太さんは、東日本大震災当時を鮮明に覚えている。
「地震の後、家族と一緒に片づけをしていたら、一人が窓の外から白いものが迫ってくるのを目視し、2階に上がって1~2分経った後に1階部分が水でぶち抜かれて。なんとかギリギリ助かった」と当時の状況を語った。
津波は一家の自宅だけでなく、翔太さんの祖父が始めたアワビ養殖の施設も破壊した。会社の被害額は20億円に達した。
山林火災で再び絶望の淵に
さらに2025年2月には、会社の周辺で大規模な山林火災が発生し、従業員は避難を余儀なくされた。
翔太さんは「玄関先から見たら、山が火で覆われ、煙で空が覆われている状況であった」と振り返った。
会社に近づけないなか、火災による停電が12日間続いたことでアワビは酸欠状態となり、250万個が死滅。被害額は5億円に上った。
震災からの復興に奔走してきた社長の季宏さん(57)は、肩を落とした。
元正榮北日本水産 古川季宏社長:
また同じ状況に戻ったという感じで、私自身はかなり複雑な感じ。ただ、震災当時中学生だった息子も大きくなり、今営業部長としてやっているので、何とか会社復興に向けた動きをしていきたい。
奇跡の生存と復活への道筋
震災による借金が残るなかでの2度目の被災。親子は二人三脚で再起を目指す。
まずは養殖再開に向け、以前、取引先に稚貝として販売していたアワビを買い戻した。
このアワビを親貝とするためだ。
翔太さんはアワビが動いている様子を示し、「動いていますね。これほど元気でなければ良い卵は産まないので」と説明した。
絶望的な状況の中、一筋の光が差し込んだ。
生後5カ月の小さなアワビ約30万個が奇跡的に生き残っていたのだ。水槽内の密度が低かったため、酸欠を免れたという。
元正榮北日本水産 古川翔太専務:
これはめちゃくちゃ大きかった。正直、再出荷には3年完全にかかると思っていたけど、これが残っていてくれれば、半年とか1年復興が早まることになる。
山林火災から1年。
奇跡的に生き残ったアワビたちは順調に成長を続けていた。「かなり大きくなり、4~5cm台になった」と翔太さん。
生まれてから1年5カ月が経過し、まもなく他の養殖会社などに「稚貝」として販売できるようになる。
翔太さんは「このサイズで買ってもらうというのが、うちの売り上げの半分くらい。それが今年の春以降から復活してくる」と、明るい表情で語った。
さらに、火災の後買い戻したアワビから採った卵による養殖も再開され、水槽にはたくさんの小さなアワビが育っていた。
翔太さんは「去年の6月生まれなので、半年たったかなという感じ。ここが完全に大きくなってつながってくれれば、完全復活と言える」と手応えを語った。
資金繰りの壁に直面
ただ、食用として出荷できるようになるのは早くても2027年の後半。それまでいかに資金繰りを乗り切っていくかが、最大の課題だという。
元正榮北日本水産 古川翔太専務:
国、行政の支援はなかなか思うように受けることはできなかった。本来の売上の半分くらいしか作れない状況で全ての経費を当たり前に払わなければいけない。そこをうまく乗り切っていくためには相当努力が必要だと思う。
収入を少しでも確保しようと、北日本水産ではこの1年間奔走してきた。
2025年5月、翔太さんの姿は東京・銀座の岩手県のアンテナショップにあった。
翡翠色のアワビの貝殻を生かしたアクセサリーを製造し、約2,000個を販売してきた。
コンサルタント事業でリスクヘッジ
ほかにも新たに始めた事業があった。コンサルタント事業だ。
2月20日、古川季宏社長と専務の翔太さんの姿は北海道の福島町役場にあった。
福島町では町おこしの一環でアワビ養殖に取り組んでいるが、生産が安定せず、赤字に陥っていることから、北日本水産にコンサルティングを依頼していた。
福島町の小鹿一彦副町長は「毎年1,000万円以上の赤字が出ている状況。何か変化させないといけない」と訴えた。
この日は北日本水産のノウハウを取り入れた場合の効果などが説明された。
古川社長は北日本水産方式の“かけ流し水槽”のデータを示し、「一番の差は“幅”がない。成長にバラつきが少ないということ」と強調した。
町では今後も北日本水産と連携を強めていく方針で、産業課の尾崎司宙水産係長は「北日本水産が福島町で可能性があると考えてもらえるのであれば、ぜひ企業として来てもらって、福島町、北海道でやってもらえたらいい」と話した。
逆境を成長の場に変えて
山林火災を機に始めたコンサルタント事業は、今、北日本水産の可能性を広げようとしている。
元正榮北日本水産 古川季宏社長:
過去に2度の被災に遭い、壊滅的な被害を受けているので、これがもう1拠点増えればリスクヘッジ(備え)の一つになる。
専務の翔太さんも「そういった危機があるということは、通常時以上に色々なことを考えたり新しいことをしたり、強制的にそういう状況になるので、すごく成長する場にもなっている」と前向きに捉える。
震災と山林火災による二重被災。
その逆境を力に変えようと取り組んできた北日本水産の挑戦は続く。
元正榮北日本水産 古川翔太専務:
東日本大震災を乗り越えられたのであれば、今回も必ず乗り越えられるだろうと頑張っています。できたアワビを皆さんに楽しんでいただいて、復活してよかったね、と思えるような状況にしていきたい。
被災前以上の成長を目指し、親子は歩み続けている。
