桜島の麓、錦江湾に整然と並ぶ養殖いけす。年間約135万匹を養殖する世界最大級のカンパチの養殖場を擁する鹿児島県の垂水市漁協が、2025年12月、輸出に関する取り組みで農林水産大臣賞を受賞した。しかし、この栄誉の背景には、漁師たちが味わった絶望と、そこから立ち上がった不屈の精神があった。

台風が変えた運命

垂水市漁協で魚の養殖が始まったのは昭和40年代のこと。当初はブリを養殖していたが、1989年に漁師たちの運命を変える出来事が起きる。台風が直撃し、ブリが全滅してしまったのだ。

「もう養殖はできないなと思った。魚が1匹もいない」

当時を知る関裕次郎さんは、翌朝目にした光景を振り返る。桜島の溶岩に打ち上がった、壊れたいけす。それは絶望的な状況だった。

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しかし、失意の中で漁師たちは新たな道を模索する。ブリより単価が高く、新たな設備投資を必要としないカンパチの養殖への転換だった。この決断が、後に「日本一」の歴史の始まりとなる。

右肩上がりの輸出実績

垂水市漁協が輸出に力を入れ始めたのは2012年のこと。人口減少で国内需要が頭打ちとなる中、新しい販路拡大を目指した戦略的な取り組みだった。

スタート時は約2.8トンだった輸出量は、コロナの影響で一時的に減少したものの、基調は右肩上がりを続けている。そして2025年、ついに初めて100トンの大台を突破した。輸出先の約9割をアメリカが占めている。

持続可能な完全養殖への挑戦

垂水のカンパチには、おいしさ以外にも評価される秘密がある。現在、全体の出荷量の約3割を占める完全養殖だ。水産資源に限りがある中、天然の稚魚を育てるのではなく、全てを人工で完結させる養殖は持続可能な漁業として高く評価されている。

垂水市漁協では、この完全養殖に15年ほど前から取り組んでおり、環境に配慮した漁業の先駆者としての地位を確立している。

大臣との約束と未来への展望

1月、篠原重人組合長がスーツ姿で待っていたのは鈴木憲和農林水産相だった。東京での授賞式で大臣が「台風のことをスピーチで話したが、その海をぜひ見たい。その漁船に乗せて下さい」と要請していたのだ。

漁船に乗り込んだ鈴木農水相は、篠原組合長と今後の輸出について意見を交わした。

「台風の時に大変な被害があってゼロから出直してこの輸出できるところまで来ているので、皆さんの気持ちが前に向かって熱いものがあると感じた」

視察する鈴木農水相
視察する鈴木農水相

5年で10倍の野心的目標

垂水市漁協は今後、輸出量を5年後に現在の10倍にする目標を掲げている。しかし、課題も多い。アメリカで主流のトラウトサーモンに対抗するためのカンパチのサイズアップや、EU向け輸出のためのEUハサップ(EU食品衛生基準)への対応が急務だ。

「EUハサップで頑張っていきたい。加工場もEU化しないといけない。漁場もEUのものをとらないといけないので至難の業だがトライしていこうかと思う」と篠原組合長は意欲を示す。

垂水のカンパチは冷凍ではなく生の状態で輸出され、水揚げから最短3日でアメリカの店頭に並ぶ。賞味期限を長くするため、今後はどれだけ魚を冷やして運ぶかも重要な課題となっている。

(動画で見る▶垂水の漁師たちが"世界に挑む"理由 カンパチ養殖で農水大臣賞、輸出量100トン突破の舞台裏)

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