床に布団を敷いて雑魚寝…昭和5年の避難所写真が今と変わらない理由

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  • 昭和5年と今の避難所を見比べると、あまり変化が見られない
  • イタリアの避難所ではベッドに空調、水回りも充実
  • 日本の避難所が変われなかった理由は?

北海道胆振地方で起きた最大震度7の地震。
発生から10日余りが過ぎても被災地では未だ、1300人以上の人が避難所生活を送っている。

報道プライムサンデーが今回、避難所を取材すると、被災者からは「体があちこち痛くなってきた。我慢していかないかんね・・・」という声も聞こえてきた。健康状態に不安を感じる人たちも少なくないようだ。
さらに取材を進めると、驚きの事実が明らかになった。体育館の床に布団を敷き、雑然と雑魚寝をしているこの光景、実は88年前から何ら変わらない“避難所の光景”だったのだ。

88年前、昭和5年の避難所の様子は?

左:現在の避難所 右:昭和5年の避難所

これは昭和5年(1930年)に起きた北伊豆地震の時の避難所を撮影した写真だ。
床の上に布団が敷かれ、被災者の人たちが雑魚寝をしている。その光景は88年たった現在の避難所とほとんど変わらない。限られたスペースに詰め込まれ、床の上で寝泊まりし、仕切りもなく、プライバシーはない。

専門家はこうした避難所の状態からくる被災者への2次健康被害を懸念している。踏まれないようにするために安眠できないことや、ほこりを吸ってしまうこと、さらに雑魚寝で足に血栓もできてしまうからだ。大規模災害は年々増加している。その一方で、避難所事情はこの88年で何も変わっていない。

イタリアではベッドに空調、水回りも充実…

そこに一石を投じる人物が大阪にいた。

大阪・八尾市で段ボールの製造工場を経営する水谷嘉浩さん。今から7年前、2012年にイタリア北部地震を視察した水谷さんはそこで驚きの光景を目にする。大地震による被害で開設された避難所は日本とは全く違っていたのだ。

イタリアの避難所

避難者全員にパイプ製の簡易ベッドが与えられ、プライバシーが守られるよう、中で立つことのできる大型テントが2世帯ごとに配布される。テントにはエアコンがついていた。さらにトイレとシャワーも設置されていた。

日本のトイレは和式が中心でしゃがむスペースしかないがイタリアはスペースが広く、洗面所もあり暖房もある。しかもすべての避難所で震災当日にこれが来たというのだ。

大型のキッチン・トラックの内部

さらに大型のキッチン・トラックも駆けつけ、プロのシェフが料理を振る舞う。被災者のストレス軽減のためと、ワインもついていた。

イタリア北部地震ではこうしたテント、ベッド、トイレ、食事が避難所開設から48時間後には全て揃う体制が出来ていた。

段ボール・ベッドで避難所を快適に!

イタリアの状況に感銘をうけた水谷さんはこの体験をきっかけに雑魚寝が当たり前の日本の避難所を変えたい、と決意した。そして東日本大震災後、段ボール・ベッドを開発したのだった。

この簡易ベッドは高さ35センチほどの段ボール箱(中は補強してあるもの)を複数並べて上に段ボール板を載せ、仕切りをつけることもできる。しかし当時はなかなか受け入れられなかったという。各自治体の避難所で「前例がないことに対して受け入れることができない」と言われたのだった。

水谷さんはそれでも諦めずに自治体を回り、段ボール・ベッドをアピールした。しかも被災地には定価の半額以下で提供した。その結果、今では多くの自治体が理解を示し、今回、北海道の避難所でも多くの段ボール・ベッドが使用されることになった。

安平町の避難所

安平町の避難所には、かつての避難所とは全く違う光景が広がっていた。避難している人たちからも「床だと寒いと思うんです」「楽でいいよ。ベタッと寝ているより楽だよ」と好評だ。

こうした取り組みもあってか避難所支援のすそ野が広がっている。地震発生直後から避難所に届いたのはコンテナ型の仮設トイレだ。中には洋式の水洗トイレが5つ。男性の小便器が2つ。さらに多目的スペースがついた水洗トイレや、洗面台も完備している。

また、札幌市内の避難所では世界的建築家の坂茂氏が避難者のプライバシー確保に取り組んでいた。紙製の管と布を使った間仕切りを無償で設置していた。これには避難生活をしている女性も「ここで着替えができますね」と笑顔になった。

我慢は美徳?なぜ日本の避難所は変わってこなかったのか

しかし、その一方で長い間、日本の避難所が変わらなかった原因の一つを伺うことができた。避難している人の多くが口にした言葉がある。

「贅沢は言えないよ」
「贅沢は言えないでしょ みなさん苦労しているのに」
「こんなにしてもらっているのにあまり贅沢は言えないな」

さらに車中で寝泊まりしている町内会長だという男性は「誰か予備の人が来たら困るので車で寝ています。ほかの人の不幸を見ているわけにいかないので。致し方ないことなんじゃないですか」と語っていた。「遠慮」「我慢」を美徳とする日本人の価値観が、避難所が長年変わってこなかった原因の一つでもあるようだ。

一方、行政にも避難所を昔のままにしてきた理由が存在すると元鳥取県知事の片山善博氏は語る。

「避難所をあまり快適にしてはいけないという空気があったんですよ、行政側には。手とり足とり三食付きで快適になっちゃって、家に帰りたくないとか、自立を妨げることになってはいけないので、あえて避難所は居づらいほうがよいと」


段ボール・ベッドを避難所に広める取り組みをしている水谷さんは指摘する。
スフィア基準(避難所の国際最低基準)では、避難所の居住空間は1人3.5平方メートル(たたみ約2畳分)超、トイレは20人に対して1つ以上などと定められているが、今もなお、それ以下の避難所があるというのだ。

中部大学教授・細川昌彦氏

細川昌彦:
行政が日本人の美徳に甘えているというのもかつてありましたけど、今ちょっとずつ変わってきていて、国もガイドラインを作り、改善していこうと予算をつけているんですね。
ですからこれから徐々に変わっていくとは思いますけど、もっと潤沢に予算をつけてほしい。避難所は多くが学校の体育館なので体育館の整備も含めて考えていってほしい。

メンタルトレーニング上級指導士・田中ウルヴェ京氏

田中ウルヴェ京:
日本人は感情を出してはいけないと思う方が多くいますね。
人間には4種類の感情があると言われています。よくない感情としては焦る、落ち込む、イラつくなどがありますが、こうしたよくない感情でどの種類の感情を自分が感じているかを知るだけでも大切で、カウンセラーに伝えることでじゃあ運動をすれば解消できる、とか解決策が見出せる。



今年6月の大阪北部地震以来、台風7号、西日本豪雨、台風12号、台風21号、北海道胆振東部地震と大災害が相次ぎ、たった3か月の間に、のべ8万2773人が避難生活を余儀なくされた。

今や自然災害が頻発する時代となった。誰もが避難所生活を強いられる可能性がある。今回の報道プライムサンデーの取材では、避難所の改善に努める民間人の活動が際立つ一方で、行政側がなかなか柔軟に動けていないところも見受けられた。

今後、首都直下地震や南海トラフ地震の発生も予想される中、災害大国・日本の避難所事情はもっと改善されても良いのではないだろうか?

(「報道プライムサンデー」9月16日放送分)

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