婚外子の割合はわずか2%!なぜ日本では事実婚が少ない?

価値観が多様化した現代。

「結婚」への意識も少しずつだが変化している。

NHK放送文化研究所の世論調査「第9回日本人の意識調査」(2013年)によれば、「必ずしも結婚する必要はない」と考えている人は63%。1993年の同調査から12%上昇している。

また「結婚したら、子どもを持つのが当たり前だ」という回答についても1993年は54%だったのに対し、2013年は39%。

「結婚=子どもを持つこと」という意識も薄まっているようだ。

その一方で婚外子の割合は非常に少ない。

 
 
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「平成25年版厚生労働白書」によると、結婚していない男女の間に生まれた婚外子の割合は、スウェーデン54.7%、フランス52.6%、イギリス43.7%、アメリカ40.6%と半数近い数字を出しているのに対し、日本はわずか2%。つまり98%は結婚している夫婦の間に産まれた子どもということになる。

日本がこうした状況にあるのは、婚姻制度が他国より整っていることが挙げられる。

まず必要書類が少ない。日本では婚姻届を役所へ提出するだけで成立する。また結婚式も必ずしもする必要はない。しかし、これが事実婚が多いフランスだと出生証明書、独身証明書、慣習証明書の3枚を提出し、さらに役所で面談や結婚式が必要に。

また婚姻関係を解消する場合にも、日本だと協議だけで済むが、フランスでは必ず裁判にかけなければならないという。つまり、非常に面倒なわけだ。
 

実際に事実婚をした人が考えるメリット・デメリット

とはいえ、日本でも法律婚を選択しない夫婦は存在する。漫画家・イラストレーターの水谷さるころさんの夫婦がその一例だ。

水谷さんは30歳で結婚するも3年後に離婚。その後、映像ディレクターの男性と事実婚をすることに。現在は一児をもうけ、その生活の一部は『目指せ!夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』という漫画作品にもなっている。

 
 

しかも、水谷さん夫婦は一度婚姻届を提出したが、出産後あえて離婚届を出して事実婚を選択したという。

なぜ二人は法律婚ではなく、事実婚を選択したのだろうか?

「私自身、法律婚の価値観に合わなかったんですね。そもそも法律婚って稼ぎ手だけでなく、それをサポートする人にも財産を与えるための制度だと思うんです。でも、私たちのように夫婦ともに働いていて、生活の基盤があると不便なことが多くて。例えば、姓を変えるときには銀行やクレジットカード、免許証などの変更手続きが必要になります」

また、他人の見る目の変化も水谷さんを苦しめたという。

「社会的に『稼ぎ手は男性で、それをサポートするのが女性』という考えの人が多く、それによって夫婦間で主従関係のようなものが生まれるのが嫌でした。また『旦那さんがだらしないのは奥さんのせい』など、個人の問題が夫婦の問題になることも窮屈で。もっと対等な関係を望むようになったんです」

特に水谷さんの夫婦の場合、夫も「男は一家の大黒柱であるべき」などのような男性的な同調圧力に違和感を感じていたため、事実婚がお互いにベストだったという。また事実婚を選択したことで、そういった価値観を受け入れられない人とは距離ができ、価値観のすみ分けができるようになったとか。

ある意味で印籠の役割を果たしているわけだ。しかし、事実婚によってデメリットは発生しないのだろうか?

 
 

手術の同意書だってサインできる

「配偶者に相続権がないくらいかなと思います。でも、私たちのように生活の基盤がそれぞれに確立している場合にはそこまで大きな問題にはならないかなと思っています。

相手の死後処理にかかるお金に関しては、お互いが受取人になっている掛け捨ての保険をかけています。多少ですが死亡保険金が出ますから、それでお葬式の資金にしようという約束です。事実婚でも選べば保険の受取人になれますよ」

では、子どもを育てるうえで問題はないのだろうか? 

「私たちの場合は、出産前に婚姻届を提出し、出産後に離婚届を出して私だけが戸籍を抜けました。子どもの姓は夫のもの。私とは母子別姓ですが、私が親権者です。

このことを説明すれば、通常は理解してもらえます。特に問題が発生したことはないですね。姓が違う場合でも、住民票を同一にしたい場合は役所にお願いすれば記載を『同居人』から『妻(未届)』などのように変更可能で、行政サービスも同一家族として受けられますし」

 
 

ところで、姓が違うと家族の手術同意書にサインができないという話を聞いたことがあるが、そうした問題は発生していないのだろうか?

「手術に関しても、実質的に家族であることがわかれば、同意書にサインできますよ。私と夫は事実婚後に1回ずつ手術をしているのですが、何の問題もありませんでしたから」

そもそも医療行為の同意については原則的に本人しかできないもので、親であれ配偶者であれ、本来「同意」はできない。本人が未成年だったり、意識を失っていたりと同意が得られない場合のみ「家族なら本人の意志を知っているはず」という前提で同意を代行しているという。

つまり、緊急時でも生活を共にしていることがわかれば、同意書にサインできないといった事態にはならないそうだ。

ちなみに、子どもに「お父さんとお母さんは結婚してないの?」と聞かれたらどのように答えるのだろうか?

 「『結婚はしてるよ』と答えます。事実婚も婚姻のひとつのスタイルですから。子どもの年齢によっては法律婚と事実婚の説明もしますが、実態として結婚しているので、子どもも違和感はないのではないでしょうか。また『どうして名前が違うの?』と聞かれたとしても『そういう結婚もあるんだよ』と答えます。

というか、息子はすでに文字が読めるのですが、私の名前はペンネームの『さるころ』だと思ってますしね。ひとりの人間にいくつも名前があることはありますし、あまり違和感は感じないのではないかと思ってます」

 
 

「法律婚はパッケージ型・事実婚はカスタマイズ型」

「法律婚はパッケージ型、事実婚はカスタマイズ型だと考えています」と水谷さんは話す。

「法律婚は『結婚とはこういうもの』というスタイルがあって、それに準じていけばすごく楽に結婚できるけれど、実は権利も慣習もごっちゃになっている面がある。一方の事実婚は、いろいろ自分たちで調べないといけない面倒はあるけれど、パートナー間での責任の根拠などがハッキリして、それによって互いに自立した人間として接することができて、気持ちの面で楽なことも多いです」

 
 

こうして当事者の話を聞くと、事実婚のデメリットって意外と少ないのかもしれない。

とはいえ、法律婚と事実婚のどちらがいいかという話になると、価値観や生活スタイル(価値観がそうあっても、事実婚を認めない会社勤務だったりすることもあるので)の問題になってくるので一概にどちらがいいとは言えない。

いずれにせよメリット・デメリットがあることなので、これから結婚を考えている人たちは、事実婚という選択肢があることも心に留めておいて損はないはずだ。



『目指せ! 夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社/1080円)
水谷さるころ

『目指せ! 夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』水谷さるころ(新潮社/1080円)
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文・村上広大(EditReal)

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。