青信号になると一斉に押し寄せる人の波。商業ビルが立ち並んでいるかと思うと、一本路地に入ると老舗店や住宅街が広がる。たくさんの表情を持つ街・渋谷。そんな魅惑の都市で「100年に一度」と言われる再開発が進んでいる。

FNN.jpプライムオンラインの清水俊宏が「『令和の渋谷』はどう変わるのか」を探るシリーズ企画。

初回は、新しい街づくりを主導している東急不動産の大隈郁仁社長にインタビュー取材を行なった。その中では、意外な「渋谷の思い出エピソード」と「未来になっても変わらないもの」を通して、『令和の渋谷』の全体像について聞くことができた。

 
 
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「渋谷って、飲みに行くとか本を買いに行くとか、そういうイメージだったんですね」

――大隈さんは広島出身と伺っていますが、初めて渋谷に来たのはいつ頃ですか?
高校を卒業して予備校時代、渋谷の東急プラザに大きな本屋があって参考書を買いに来たのが最初ですね。

就職活動でいまの東急不動産を受けようと思った時に、パッと見たら東急プラザの上に本社があったんです。「あ、同じビルだ」と思って以来ですかね、渋谷とは。

渋谷に事業として関わったのは、リーマンショック以降ですね。都市事業の担当になって、そこからは渋谷の責任者になったと。

開業当時の東急プラザ(提供:東急不動産)
開業当時の東急プラザ(提供:東急不動産)

――渋谷での学生時代の思い出はありますか?
大学は横浜だったので、渋谷って、飲みに行くとか本を買いに行くとか、そういうイメージなんですね。

渋谷での失敗は、飲んでいて終電を乗り過ごして、喫茶店で朝まで過ごしたというのは何度かありましたね(笑)終電に乗り遅れて、駅の近くに喫茶店があって、そこで朝の5時くらいまでコーヒーを飲んでいました。

――昔も今も、それは変わらない光景ですね(笑)
そうですね。そういう人が喫茶店に満席になるくらいいるというのも渋谷のすごいところだなと学生時代は感心しましたけど(笑)

大隈郁仁・東急不動産 代表取締役社長
大隈郁仁・東急不動産 代表取締役社長

――渋谷は変わり続けているというイメージはありますか?
最初のイメージは「ごちゃごちゃしたところだな」と思いましたけど、多様な人が多様な目的で集まるというところは、若い時、最初に見た時からあまり変わっていない気がしますね。

自分にとっての渋谷は、学生時代は買い物したり食事したりする場所でしたし、会社に入ったら働く場所になりましたし、自分の友達では渋谷周辺に住んでいる人間もいたり、観光客もいたり、いろんな目的の人間がいて、それは渋谷の魅力だなと思いますよね。

老若男女、国内外の人の目的がみんなバラバラで、その人たちを全部受け入れる雰囲気が渋谷にはあって、ほかの街にはあまりないなという感じがします。

 
 

「全部きれいにしても、あんまり面白みのない街になります」

――再開発はこれからどのようにしていきたいですか?
オフィスをたくさん作っているので、昼間人口がどんどん増えます。さらに、住宅が周辺ににじみ出てどんどん開発されると思います。

ですので、10年、20年して渋谷を振り返ると、いま以上に多様な人が行き交い、交流できる場所になって、もっともっと独自の文化や情報発信地としての渋谷のプレゼンスを高めているような気がします。

ただ、再開発は小さな区画をきれいにまとめるので、新しいビルもできるし、街の雰囲気を変えるんですけど、その裏側にある、飲み屋さんもあれば、商店もあればという、渋谷の猥雑さはなるべく残したいと思っています。そういう多様性を許容した街をそのまま将来に継続していきたいんです。
 

「猥雑さ」も渋谷の魅力
「猥雑さ」も渋谷の魅力

――渋谷の猥雑さは、ずっと過去から未来までつながっていくんですね。
全部きれいにしてもあんまり面白みのない街になりますし、多様な人が多様な目的で集まるのをどんどん壊すことになりかねないので。

それから、渋谷は多様性のある街づくりをしているんですけど、渋谷って駅前だけで見ると、すり鉢状の谷なので、スケール感はそれほど大きな街じゃないんです。渋谷のいいところは、その周辺に表参道だったり青山だったり恵比寿だったり、渋谷の中心地を補完するようないろんな文化をはぐくむ街が存在していること。

青山には独自の顔があって、表参道や神宮前には独自の顔があって、恵比寿にも顔があって、渋谷の多様性をそれぞれが違うテイストで補完をしている。

だから『広域渋谷圏』で、一体的に街づくりをしていく必要があるんだろうなと思います。

 
 

――東急不動産はどういう企業を目指していきたいと思いますか?
不動産という、硬いハコとかモノというのにあまりこだわらないほうがいいなと思っています。やっぱり街づくりというのは、オフィスを作る、住宅を作るだけじゃなくて、土地を持っている人、そこに働きに来ている人、そこに遊びに来ている人、多様な人たちのネットワークづくりをちゃんとやる。

渋谷と言えば地権者が非常に多いんですね。この人たちとのリレーションが開発のキーになるんです。

我々は人と人をうまくつないで、想いをひとつに束ねて、ひとつの街づくりをするプロデューサーを目指していくべきだし、我々がそれを率先してやるべきだと思っています。

――おしゃれなビルを作るだけだったら意味はない?
それは他にお任せをすればいいわけで、我々は地権者さんたちをまとめて想いをひとつの形にする。でも、形にしただけで事業は終わりじゃなくて、そのあと、きちっとエリアの価値を上げるマネジメントをしていく。それが我々の仕事だと思っています。

――渋谷にまだ足りないなと思うものはありますか?
一番大きいのは、大人が、ゆったりと夜を過ごせるという施設が意外とないんですよ。

2019年、東急プラザ渋谷が、新しくオープンするんですけど、その中は「大人向け」をキーワードにしているので、そこはぜひ見ていただきたいです。その中にシンガポールのマリーナベイ・サンズにあるセラヴィという大人向けレストランを開設するので、ぜひ期待していただければなと思います。
 

セラヴィIMAGE(提供:東急不動産)
セラヴィIMAGE(提供:東急不動産)

――渋谷の変化も楽しみですね。
渋谷は2020年で開発が終わるわけじゃなくて、2027年までかかるんですね。日々、たまに渋谷に来ると駅からの上がり方が変わったとか、こんな施設ができたとか、どんどん新しい発見ができるような環境が2027年まで続きますので、そういうのを楽しんでもらえるといいかなと思います。

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