「こんなはずじゃなかった」

ピューリサーチセンターの統計(2013年)によると結婚する理由の第一位は「愛」で、9割近くの人がそう答えています。だけど同センターの2015年の調査によると、どちらか一方またはお互いにバツイチという夫婦が、結婚したカップル全体の4割を占めているのです。「愛は永遠」じゃない!

結婚カップルのどちらかまたは両方がバツイチは4割(出典:PEW RESEARCH CENTER)
結婚カップルのどちらかまたは両方がバツイチは4割(出典:PEW RESEARCH CENTER)
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しかも50歳以上の夫婦の離婚率は1990年から2倍に上昇し、65歳以上の離婚はなんと3倍になっているというのです。

高齢者の離婚率が増加(出典:PEW RESEARCH CENTER)
高齢者の離婚率が増加(出典:PEW RESEARCH CENTER)

結婚して生活を共にするうちに「こんなはずじゃなかった」という思いが芽生えそれがどんどん大きくなっていくからでしょう。皆さんの周りにも「こんなはずじゃなかった」と言っている人はいませんか?

アメリカの夫婦のあり方はインターレーシャルマリッジ(違う人種間での結婚)が1967年の3%に比べて2015年には17%に増え、同性婚が多くの州で認められ、結婚より同棲という形を選んだりと多種多様な様相を呈しています。たとえどんな夫婦の形を選ぼうとも、「こんなはずじゃなかった」を回避できる方法があります。

そしてそれがこれから結婚しようとするミレニアル世代では常識となりつつあるのです。アメリカでライフコーチをしている経験から言うと、それは離婚したミレニアル世代以前の人が「やっておけばよかった」と後悔していることでもあるのです。

プリナップ(婚前契約書)という考え方

それはPrenuptial Agreement(婚前契約書)、通称Prenapsプリナップと呼ばれるものです。

基本的には離婚の際に財産をどのように分けるかを記載したものですが、ミレニアル世代はこれを離婚を前提とした結婚契約書というよりは、共同生活をしながらも経済的自立を保つための契約書と捉えているようです。実際American Academy of Matrimonial Lawyersの調査によると離婚専門の弁護士の62%がプリナップ契約を結ぶカップルが増えていて、その離婚専門の弁護士の51%が特にミレニアル世代で増えていると言っています。

以前はプリナップは「男性が結婚前に作った、自分の財産を離婚時に守るために結婚前に女性にサインさせるもの」と思われていてイメージは最悪でした。これから結婚しようとする二人の間でその言葉を口にするのは、まるで離婚を前提としているようでタブー視されてもいたのです。

晩婚化と自立

それがどうして今ミレニアル世代の間でプリナップ契約を結ぶ人が増えているのでしょうか?それには晩婚化と親の離婚があります。

2018年の世論調査によると初めて男性の初婚年齢の平均が30歳を超え女性は28歳と、ミレニアル世代で晩婚化が進んでいるという結果が出ています。晩婚化の理由としてあげられるのが男女とも結婚前に経済的安定やキャリアを確立しておきたいということ。女性の生き方が多様化した今、女性もキャリアを築くことが可能になりました。結婚しても自分の人生の主導権を握っておきたいという思いや、親の離婚を経験しているからこそ経済的自立を図っておきたいという気持ちもあるでしょう。また男性も女性も離婚を避けるために相手をよく知りたいということがあるようです。

経済的安定、相手をよく知る。もっともですが、ここに共通点があります。それは「お金」。お金は「公平感」「生活習慣」「価値観」など2つの個性が一緒に生活する場合に調整したり理解したりしないと一触即発の危機になりうる多くの要素を持っています。相手をよく知るってお金についての考え方を知ることでもあるのです。

結婚前には自分の持ち物と責任を明らかに

女性の生き方の多様化・晩婚化・離婚が増えている日本でもこれからはプリナップが有効なのではないでしょうか?

男性も女性も結婚するのが遅くなればなるほどいろんなものを抱えています。財産、借金、結婚後の収入増、失業、遺産相続、育児期に仕事を離れて収入ゼロ、親の介護。夫婦となった場合、このあたりはどうなるのでしょうか?

夫婦生活に突入する前に自分の持ち物と責任をはっきりさせたプリナップがあれば、男性も女性も自分がどんな結婚生活に突入するのかが可視化できます。結婚という共同体の中でもやりたいことなど自分のことは自分で決められる裁量を保つことができます。男性も女性も自分らしさを保ちつつ夫婦という形で人生100年時代を楽しむには、プリナップがこれからの夫婦のあり方に一役買うのではないでしょうか?ちなみに私は21歳の娘に「結婚するときはプリナップよ!」と言っています。

「こんなはずじゃなかった」か、プリナップか?あなたはどちらを選びますか?

【執筆:ICF会員 ライフコーチ ボーク重子】

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ボーク重子著
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ボーク重子
ボーク重子

Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ。アートコンサルタント。
福島県生まれ。30歳目前に単独渡英し、美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学、現代美術史の修士号を取得する。1998年に渡米、結婚し娘を出産する。非認知能力育児に出会い、研究・調査・実践を重ね、自身の育児に活用。娘・スカイが18歳のときに「全米最優秀女子高生」に選ばれる。子育てと同時に自身のライフワークであるアート業界のキャリアも構築、2004年にはアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年、アートを通じての社会貢献を評価され「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。
現在は、「非認知能力育成のパイオニア」として知られ、140名のBYBS非認知能力育児コーチを抱えるコーチング会社の代表を務め、全米・日本各地で子育てや自分育てに関するコーチングを展開中。大人向けの非認知能力の講座が予約待ち6ヶ月となるなど、好評を博している。著書は『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など多数。