年々加熱し続ける中学受験。

「合格」を目指して、勉学に数年間を費やす中で、親は「勉強しなさい」と口うるさく言ってしまうこともあるかもしれない。

非認知能力育成のパイオニア・ボーク重子さんは、昨今の中学受験事情は激化し、どんなに頑張っても希望の学校に行けない子がいることも現実だと話す。

著書『我が子を上手に導けるようになる3週間チャレンジ 子どもを壊さない中学受験』(KADOKAWA)では、受験期間に親が「子どもを壊さない」方法を教えている。

子どもを壊してしまう可能性は、合否が出たときにもあり得る。しかし「その時の対応次第で、たとえ不合格でも“合格な受験”とすることができる」とも言う。

受験まで頑張ってきた我が子へ、どのような声かけをしたらいいのか。ボークさんは「合否を評価するのではなく、その道のりを肯定することが大切」だとアドバイスする。

「合否」をゴールにしないこと

ボークさんは、受験に臨むにあたり、親のスタンスとして「合否をゴールにしないこと」が大切だと指摘する。

「合否をゴールにすることは塾の仕事。家庭の仕事は子どもを育てること。“プロセスの合格”を目指すのが家庭の仕事です」

“プロセスの合格”とは、受験の過程で子どもがどう成長し、受験を経た結果、どんな子になっていてほしいか、親が子どもと向き合いどのように導くか、ということだ。

「学力は生きる力(非認知能力)に支えられています。学力を高めるためにはやるべきことをやる“自制心”が必要で、小学生であっても受験を自分ごと化する主体性も大切です。つまり“自走”です。

主体性や、何があっても立ち上がれる回復力を発揮して、やり遂げるようになれるまで推し進めることが親の最終目標で、それが“プロセスの合格”です」

中学受験で親は“プロセスの合格”を目指す(画像:イメージ)
中学受験で親は“プロセスの合格”を目指す(画像:イメージ)
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この“プロセスの合格”を実感できない限り、結果的に合格だったとしても「将来、自走できない子どもになってしまうこともある。親がすべてお膳立てして、叱られながら勉強して合格したその先に何があるのでしょうか」と投げかける。

ボークさんがそう語る理由は、「中学受験は義務教育においては“絶対にやらなければならないこと”ではない」から。だからこそ「やると決めたからには、確実な合格を勝ち取ってほしい」という思いがある。

それでも「合否は自分で決められません。自分以上にできる人が集まったり、最近は問題に正解のない問いが多かったりすること、その時の出題など運も関わる」ことが受験の現実。

そんな中、子どもが確実に手に入れられるのが“プロセスの合格”。ボークさんの言う「確実な合格」はプロセスの合格を指し、「必ず勝ち取れる」と強調する。

なぜならプロセスだけは、100%自分のコントロール下にあるからだ。

他者に振り回されない自分たちの評価軸

プロセスの合格を目指すために、親は他者に振り回されない“自分の評価軸”を持つことが必要になる。

受験の期間は、テストの点などで評価されるために、その結果で子どもの自己肯定感が上がったり下がったりすることが増えてくる。

そういったとき、親は「点数に関係なく、あなたは大事な存在・価値がある」という姿勢でいることが子どもの自己肯定感を育むために重要になる。

その向き合い方が、子どもが「点数の善し悪しに関係なく、自分は大事な存在」だと思える環境を作っていく。

自己肯定感のみならず、自制心、自己効力感、主体性、好奇心、やり抜く力などの非認知能力を育む環境を親が家庭に作ることが、プロセスの合格に必須。

プロセスの合格とはつまり、受験期間を激変の人生100年時代を生き抜く子どもの、折れない強い心を作るための土台作りの期間とすることなのである。

選ばれるのではなく「選ぶ時代」の志望校選び

「非認知能力の高い親は、合否や偏差値に焦点を合わせる代わりに、自分たちの評価軸があります。

志望校も、その軸に沿って選択した理由があり、最終的にどの学校に通うことになっても子どもがワクワクするようなことを見つけています。

たとえ全部落ちたとしても希望を持って中学生活をスタートできるように、通うようになった学校にワクワクを見つけています」

志望校選びの軸とは偏差値や他者に振り回されることのない、「自分の評価軸」だ。

「自分の評価軸」を持ち志望校を選んでいくこと(画像:イメージ)
「自分の評価軸」を持ち志望校を選んでいくこと(画像:イメージ)

子どもの個性を把握し、伸びる学校、生かせる学校はどこだろう?我が子がワクワクできるところは?我が子のワクワクを育むところは?といった視点から志望校の情報を収集。

子どもと一緒に「ワクワク」を見つけて決めていくことで、偏差値や他者の声や評判に左右されない、親も子どもも納得した志望校選びができるのだという。

少子化や社会、そして大学受験の変化を受けて、学校教育が変わらざを得ない今、私立は変化に淘汰(とうた)されないために、いろいろな特徴を打ち出してきている。

これからは偏差値で子どもを学校に合わせるのではなく、我が子に合った学校を選ぶ時代になる。

不合格は想定内、でいること

ボークさんいわく「最近は受験生が多く、7割が第一志望に落ちる」ことが現実で、第一希望に受かる子、併願に受かる子、そしてすべて落ちる子も出てくる。

この現実を踏まえて、ボークさんは「不合格は想定内が前提」と言う。

「最初から不合格を目指す受験はありません。もちろん不合格よりは合格の方がいいでしょう。それもあって、多くの親は落ちることを想定していません。加えて中学受験は進学先が公になりやすく、周囲の人に進学先を知られてしまう。

親も希望や夢を持ち、欲や見栄も出ます。そうしてだんだん子どもの受験=自分の子育ての成績表みたいになっていく。その思いを知らず知らずのうちに子どもに背負わせてしまっている。

だからこそ、親は『落ちることもある』というスタンスでいて、合格不合格以外の中学受験のゴールや、偏差値以外の志望校の評価軸を持つことが最も重要になるのです」

では、もし受験に落ちてしまったら…。そんな我が子に、どんな言葉をかけたら良いのだろうか。

ボークさんは「責める言葉は絶対に言ってはいけない」と強調する。

悲しみに向き合う時間を設ける

「中学受験は1度きりで、やり直せません。合否にフォーカスしていればいるほど、思うような結果が出なかった時に後ろ向きになります。

そうすると出てくるのが『なんで落ちたの?』『もっと勉強しなかったから』『ゲームばっかりやっていたから』といった声かけです。

でもこれには全く意味がありません。過去を変えることはできないからです。厳しい叱責や批判は子どもを傷つけるだけで、そこから生まれるのは、低い自己肯定感や自己効力感。そうすると前進よりもさらに後退していきます」

ボークさんは「それよりも、その結果を踏まえて、子どもが前に進めるような声かけをすることが重要です」と続ける。

「効果的なのはプロセスを肯定すること。合格しても、落ちたとしても“頑張った”というプロセスは同じで、親はそれを褒めて肯定してあげてください。

親から見たらそうではなかったかもしれないけれど、子どもは子どもなりに、自分にできる精一杯をやって受験に挑んだのです。

だからこそ『ここまで頑張ってきたもんね。ママもパパもちゃんと見てきたよ』と声をかけてあげましょう。日頃から子どものポジティブな行動を観察しておくと、こんな時とっさにそんな声かけができるようになります。

また親のそんな声かけをしやすくするためにも、失敗=悪という考えをせず、不合格=悪と決めつけないことも重要です」

親は子どものレジリエンスを信じる(画像:イメージ)
親は子どものレジリエンスを信じる(画像:イメージ)

もう一つ不合格時には、親の失望や悲しみをぶつけず、子どもの「レジリエンス(回復力)」を育む機会にしてほしいとも言う。

「誰だって思うような結果が欲しい。だからこそ、そうでない時には失望するのですが、子どもに自分の気持ちを慰めてもらおうと思わないようにすることが大切です。

子どもは親が悲しい表情をすると気丈に振る舞います。『受かった学校もいいと思っていたよ』って。しかし、必要なのは子どもが悲しんだり失望したりする時間です。

変に励ましたりすることなく、悲しむ時間を与える。悲しい気持ちに向き合って自分の中で折り合いをつけ、自分を立て直す機会を設ける。

そのときに親は子どもを救済する代わりに見守れるよう、“今は我が子を信じてどっしりと構えているのが親の仕事”と自らの自制心を保ってください」

子どもが悲しみの中から自分を立て直すまで親は待って、見守る。その姿を見つめているのは親として一番苦しいことかもしれない。

しかし、子どもの人生は長く、辛いことも多々あるだろう。その時に自分で自分を回復させる、折れない強い心を育むためにも、その機会を親が奪うことはあってはらならない。

そういう意味でも中学受験は、親子にとって学びと成長にあふれた機会にすることができるのだ。

『我が子を上手に導けるようになる3週間チャレンジ 子どもを壊さない中学受験』(KADOKAWA)
ボーク重子
ボーク重子

合同会社BYBSコーチング代表、Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ。アートコンサルタント。
福島県生まれ。30歳目前に単独渡英し、美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学、現代美術史の修士号を取得する。1998年に渡米、結婚し娘を出産する。非認知能力育児に出会い、研究・調査・実践を重ね、自身の育児に活用。娘・スカイが18歳のときに「全米最優秀女子高生」に選ばれる。子育てと同時に自身のライフワークであるアート業界のキャリアも構築、2004年にはアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年、アートを通じての社会貢献を評価され「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。
現在は、「非認知能力育成のパイオニア」として知られ、140名のBYBS非認知能力育児コーチを抱えるコーチング会社の代表を務め、全米・日本各地で子育てや自分育てに関するコーチングを展開中。大人向けの非認知能力の講座が予約待ち6ヶ月となるなど、好評を博している。著書は『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など多数。