1994年の開業以来、広島市のアストラムラインを支えてきた6000系。
7000系への更新が進むにつれ徐々に数が減り、ついに最後の1編成が5月18日に引退する。
引退の花道を盛り上げる特別企画に密着した。

6000系に乗って引退記念ツアーへ

アストラムラインが開業したのは、今から31年前の1994年8月。広島市中心部と安佐南区の全長18.4キロをゴムタイヤで走行する新交通システムが、人口増加で深刻化していた交通渋滞の緩和を目的に整備された。

6000系の引退を記念し、アストラムラインを運営する広島高速交通はかつての「急行運転」を1日限りで復活させるイベントを企画。その名も「アストラムライン急行リバイバルトレイン」。1999年~2004年の5年間だけ運行されていた急行運転を再現した特別ツアーだ。本通駅を出発し、終点・広域公園前駅まで途中の停車駅は5つしかない。料金1万8000円も、定員80人は即日完売した。

アストラムライン本通駅から6000系に乗る野川アナ
アストラムライン本通駅から6000系に乗る野川アナ
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2025年3月に行われたイベントを、テレビ新広島で最も鉄道愛にあふれる野川諭生アナウンサーが密着取材。ツアー当日、普段は見ることができない「急行 広域公園前行」の表示を見つめ、6000系に乗り込んだ。

引退記念の特別デザインにラッピングされた車内
引退記念の特別デザインにラッピングされた車内

車両はこの日のために引退記念の特別デザインにお召し変え。車内の広告スペースやつり革も6000系の写真と感謝のメッセージで統一されている。

そこへ、懐かしい案内放送が…
「この電車は急行、広域公園前行きです。途中止まります駅は、県庁前、大町、上安、長楽寺、大塚です。お乗り間違いのないようお気をつけください」
26年前、実際に流れていた音声案内である。野川アナもじっと耳を澄ます。
「最後の『お乗り間違いのないようお気をつけください』っていうのが、やっぱり急行だなって感じがします。いいですね」

絶景スポットで特別演出も

急行リバイバルトレインは定刻の午前11時33分に本通駅を出発した。
この日ばかりは車内アナウンスも鉄道ファン向け。
「本日は4象限チョッパ方式の6000系車両を楽しんでいただければと思います」
ナビゲートするのは、アストラムラインのレジェンド運転士の2人。開業時を知る運転士だからこそ話せるマニアックな案内をしながら、当時の急行運転ダイヤをなぞる旅がスタート。

通常ではあり得ないが、高架区間の駅を次々と通過し快調に走っていく。
列車が不動院前駅を通過したところで…
「一旦、停止します」

祇園新橋の上で停止する特別演出も
祇園新橋の上で停止する特別演出も

なんと祇園新橋の真上で止まった。これも特別ツアーならではの演出。
「ここで停止することはございません。橋の上からの眺望を楽しんでください」
祇園新橋は広島県を流れる一級河川・太田川にかかる橋。乗客たちは目の前に広がる雄大な川を眺め、その風景をカメラに収めた。いつもは通り過ぎてゆくはずの景色。時間まで止まっているかのようだ。

「よろしいですか。では、そろそろ発車します」
レジェンドの車内アナウンスで再び時間が動きだす。大町駅へと向かう車内で6000系のこんなエピソードも披露された。
「新交通システムが採用される際に風洞実験を行った時には、最大風速50メートルでも乗り心地は若干悪くなるけれども安全だという実験結果が出ております」
なるほど、アストラムラインが台風でも運行するというのも納得だ。

アストラムライン史上初の試み

そして列車は急行運転のキモとなる「引き上げ線」のある大町駅へ。

急行運転の仕組みはこう。大町止まりの先発列車を回送列車として引上げ線(3番線)に入れ、その間にあとから来た急行が大町駅で追い抜く。引上げ線の回送列車をホームに戻し、大町発の広域公園前行きとして急行運転を実現していた。

ツアーではこの設備を使って、大町駅をぐるっと一周。アストラムライン史上初!まずは乗客をのせたまま大町駅3番線へ入り、ダイヤの合間を見て逆方向の2番線へ。そこから渡り線を通って再び1番線ホームへと滑り込んだ。

カメラ二刀流の乗客
カメラ二刀流の乗客

二度とできないかもしれない体験とあって、撮影にも熱が入る。2台のカメラを左右の車窓に向け、同時に撮影する乗客も。カメラの二刀流とは、鉄道ファンの熱量は改めてすごい。

大町駅を発車すると上安、長楽寺、大塚駅に停車しながら、終点の広域公園前駅へ。ここでもスペシャルな体験が待っていた。
「広域公園前、構内入換体験。発車します」

アストラムライン終点駅の先にある入換線
アストラムライン終点駅の先にある入換線

乗車したまま、広域公園前駅のさらに先、入換線の区間へ入っていく。緊張感が漂う車内で、野川アナは小声で実況。
「通常は終点の広域公園前駅で降りないといけないのですが、このツアーでは特別にその先まで進み、方向転換をして折り返すための入換体験をさせていただいています。今、普段は絶対に入れない区間に入っています」
乗客をのせたままの方向転換も、もちろんアストラムライン史上初めてだ。

「6000系がなくなるのは正直つらい」

入換体験を終え、列車は乗客と共に長楽寺にある広島高速交通の車両基地へと帰ってきた。

引退する6000系車両と記念撮影。撮影会では、その雄姿を記録に残すべく鉄道ファンが思い思いにシャッターを切る。

横浜市から参加した男性は「横浜の新交通システム、シーサイドラインと同じ感じのモーターを積んでいて。アストラムライン自体は初めて乗りました」とモーター音がお目当て。実はこの男性、車内で6000系のモーター音をしっかり録音していた。いわゆる「音鉄」という鉄道の音を楽しむファンだった。

横浜市から参加した“音鉄”の男性(右)と野川アナ
横浜市から参加した“音鉄”の男性(右)と野川アナ

野川アナとの会話が弾む。
「皆さんがシーンと静かにしていましたから、モーター音がきれいに入っていると思います」
「本当にありがたかったですね。皆さん、静かにしていただいて」
「撮れた音をどうしましょう?」
「もう自分で楽しむだけに取っておきますね」

参加者の中には広島市に住む小学生の男の子も。
「小さいころから6000系が好きでアストラムが好きになったけえ、6000系がなくなるのは正直つらい」
話を聞くと、自宅にアストラムラインの運転台まである筋金入り。男の子が持つ大きなカバンの中身を見せてもらった。
「アストラムラインくん。6000系のつり革、つり革、つり革。アストラムラインのタオル。広電のつり革…」
アストラムラインのキャラクターグッズやつり革はわかるが、なぜ“広電のつり革”も?

車両部品抽選会で野川アナに奇跡!

ツアーを締めくくるのは、アストラムライン6000系の車両部品抽選会。速度計や現示ベルなど本物の車両部品が、抽選で参加者全員に当たる。

ツアーの最後は、ハズレなしの「車両部品 抽選会」
ツアーの最後は、ハズレなしの「車両部品 抽選会」

野川アナの番号は77番。ねらっている部品があるらしい。
「私が当たるといいなと思ってるのは『05編成銘板』。私も同じ平成5年生まれなんです。同い年の車両がつけていた銘板、当たるといいな」

抽選会がスタート!
当選者が次々と発表されていく。そして野川アナが欲しがっている銘板の抽選が始まった。
「おっ!入って…ない。ちょっと残念ですね」

野川アナの番号が表示されないまま抽選会は進み、ついに最後の部品になった。
「あら?これが最後の部品ですか?あ、あ、あ!サボ!急行運転用のサボですね」

サボとは車両の行き先や列車種別を示す「サインボード」の略称。まさにミラクル!今回の目玉とも言える部品が当たってしまった。

レジェンド運転士も並々ならぬ思い

参加者限定の記念グッズを手に入れ、急行リバイバルトレインツアーは終了。
無事、ツアーの急行運転を終えたレジェンド運転士の2人に話を聞いた。

6000系を運転した飯塚俊隆さんは「26年前の急行の出初め列車も、実は私が運転させてもらいまして、何か縁があるのかなと思いました。止まる駅を止まらないですとか、急行が運用開始されたときもすごく注意をしていたことなので。なんか、あの時の緊張感を思い出しました」と話す。

また、ツアーで車内アナウンスを担当した池田泰啓さんは「車内アナウンスで鉄道マニア向けの話をさせてもらいましたが、やっぱりちょっと普通では出てこないような質問がありました。それだけ6000系への熱量が違うのかなと感じながら、案内にも力がこもりました」と特別な1日を振り返った。

アストラムライン6000系のラストランは5月18日。運行時間はホームページの特設サイトで知ることができる。鉄道ファンもそうでない人も一緒にお別れを告げよう。
31年間、ありがとう。お疲れさまでした。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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