「新南部連合」結成の呼びかけ

新しい南北戦争の始まりだろうか。

米連邦最高裁判所が、テキサス州主導で大統領選激戦州の投票を無効にするよう求めた訴訟を退けたことを不満として、テキサス州共和党のアレン・ウエスト委員長が12日次のような声明を発表して「新南部連合」の結成を呼びかけた。

「最高裁は、テキサス州と17の州、さらに106人の下院議員による提訴をトス(硬貨投げ)で決めるように退けたことは、州が憲法に違反するような行為ができ自州の選挙法に違反できることを判断したことに他ならない。それは、違法行為をおこなった州が責任を問われない一方で法を遵守する他州に損害を与える結果を招いた。

この判決は州が連邦憲法に違反してもかまわないという判例を確立したことになる。この判決は、我々の立憲共和国の将来に大きな影響を及ぼすと考えざるを得ない。この際、法を遵守する州がまとまり憲法を遵守する連合国家を形成すべきなのかもしれない。テキサス州の共和党は、常に憲法と法の支配を擁護する」

テキサス州共和党の声明文 (テキサス州共和党HPより)
テキサス州共和党の声明文 (テキサス州共和党HPより)
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この訴訟は、ジョージア州、ペンシルベニア州、ミシガン州とウィスコンシン州の4州で大統領選挙が不正に行われた疑いがあるとして、投票ではなく州議会が大統領選挙人を選出すべきだとテキサス州が提訴したもので、他にフロリダ州やテネシー州など17州と106人の連邦下院議員が原告として名を連ねた。

これについて連邦最高裁は「テキサス州は提起する法的権利を証明できていない」と門前払いの形で提訴を棄却したのだが、テキサス州などからすれば「硬貨投げ」で決めたかのように軽く退けられたことも腹に据えかねたようだった。

テキサス州などからの提訴を退けた米連邦最高裁判所
テキサス州などからの提訴を退けた米連邦最高裁判所

1世紀半前の南北分断を彷彿とさせる

これが直ちに南北戦争の際の南部連合「アメリカ連合国」の結成につながるとは思わないが、かつて南部連合を結成した11州の内8州が今回テキサス州と連名で提訴をしており、構造的には1世紀半前の米国の南北分断の状況を彷彿させるのだ。

米国の南北戦争は1865年に終結し奴隷も制度的には廃止されたが、北軍の撤退後南部の支配層は「ソリッド・サウス(堅固な南部)」と呼ばれる団結で北部に対抗するようになり、この対立の構図は今日に至るまで続いているとされる。

それは、北部が「国家は経済活動に積極的に介入すべき」という重商主義的考えに対して、南部が「自由放任的でなければならない」という重農主義に根ざした考えを尊重することで分かれる。

武器を使わない「南北戦争」激化か

事実「大きな政府」を志向する民主党がニューヨーク州やマサチューセッツ州など北部を金城湯池とすれば、「小さな政府」の共和党がテキサス州など南部を地盤にしていることがそれを裏付ける。

規制緩和と減税で米国の景気を回復させたトランプ大統領は、言ってみれば「南部的大統領」だったわけだが、対抗上民主党側は精一杯北部的な主張を打ち出したわけで、バイデン氏は民主党の中道派だが副大統領に就任するカマラ・ハリスさんはその議会での投票歴から100人の上院議員の中で「最も革新的」つまりは社会主義的だとされる(GovTruck調べ)。

トランプ大統領は、言わば「南部的大統領」
トランプ大統領は、言わば「南部的大統領」

その北部的な指導者が米国を率いることに、南部のテキサス州などの指導者は我慢できないというのが今回の最高裁提訴の背景にあるわけで、新南部連合が具体的に結成されなくとも、今後は武器を使わない「南北戦争」が激化することが予想できる。

トランプ大統領の再選を求めるデモ(ワシントン12日)
トランプ大統領の再選を求めるデモ(ワシントン12日)

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【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン+図解イラスト:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。