2月8日に実施された第51回衆議院議員総選挙において、自由民主党が単独で圧倒的な議席を確保し、大勝を収めた。
これまで高市早苗政権は、石破前政権から引き継いだ少数与党という政治的脆弱性を抱えていたが、この選挙結果によってその制約は雲散霧消し、国民からの強力な信任という政治的お墨付きを得た。
高市総理にとって、自らの理想を形にする政権運営の真のスタートは、まさにここから始まると言える。
対中“戦略的自制”を継続か
一方、今後の主な焦点の1つに日中関係の行方がある。高市総理が選挙での勝利を受けて、より鮮明な保守的・タカ派的政策を前面に押し出すという見方もあり、特に防衛力の抜本的強化や経済安全保障の推進は、高市政権のアイデンティティそのものである。
しかし、外交の実務レベルにおいては、直ちに対決姿勢一辺倒ができるわけではない。注目すべきは、高市首相の戦略的自制の行方である。
2025年秋、高市総理が「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」と踏み込んだ発言を行って以来、日中関係は急速な悪化を辿ってきた。
中国側はこれに対し、日本産水産物の輸入停止措置や軍民両用品の対日輸出規制強化といった経済的カードを切り、激しい反発を示してきた経緯がある。
高市総理は、自らの発言や政治的信条を撤回することはないだろうが、国民の負託を受けた指導者として、不必要な対立が国民生活や実体経済に及ぼす致命的なリスクを管理する責任も負っている。そのため、大勝後もあえて中国を過度に刺激する言動を控え、対話の窓口を閉ざさない「管理された緊張状態」を維持するために、戦略的自制を継続する公算が高い。
要は、日中関係を如何にして管理できるかがポイントになる。
中国は高市政権の“行動”で報復レベル決定
一方の中国側は、今回の選挙結果を日本国内の保守化の定着として、強い警戒感を持って受け止めている。
中国指導部には、日本側の動きに応じてレアアースなど重要鉱物の輸出規制をさらに厳格化し、対日圧力を強める選択肢もあろう。
だが、現時点において、中国が今回の選挙結果のみを理由に先行して対日姿勢を硬化させる可能性は低い。中国が注視しているのは、高市総理の思想そのものよりも、それが具体的な行動としてどう現れるかである。
靖国神社参拝の有無や台湾との公的な接触度合い、あるいは日米豪印(QUAD)等を通じた対中包囲網の具体化といった点について、高市政権が安定した基盤を背景にどのような行動を具体的にとるのか、それによって報復措置のレベルを決定するリアクティブな姿勢をとるだろう。
日米・日中のジレンマ
しかし、今回の選挙の勝利が日中関係に最も大きな影響を及ぼすのは、日米関係という変数を介してであると筆者は考える。高市総理は就任以来、米国との軍事・防衛協力、および経済安全保障分野での連携を加速させる姿勢を鮮明にしている。
特に、先端技術の流出防止や、半導体・レアアースなど戦略物資をめぐる戦略的自律性を高める政策は、高市政権の最優先事項である。こういった分野における米国との関係強化は、日本にとっては安全保障の質を高める合理的選択だが、中国にとっては自らを政治経済的に封じ込める政策と映る。
ここに、日中関係が抱える構造的ジレンマの本質がある。日本が自国の安全と自律性を求めて日米同盟を強化すればするほど、中国はそれを自国への脅威とみなし、対抗措置を講じる。
その結果、日中間では亀裂が生じ、日中関係は後退を余儀なくされる。
選挙大勝も対中改善見込めず
今回の選挙によって高市政権が強力な政治的基盤を回復したことは、このジレンマをより迅速かつ不可逆的なものにする可能性がある。
今後、高市総理がどれほど戦略的自制を説き、中国との間で外交的バランスを試みたとしても、日米が一体となった関係強化という現実の行動が進む以上、中国側の不満と反発を抑え込むことは難しくなるだろう。
2月8日の衆議院選挙は高市政権にフリーハンドを与えることになったが、今後の日中関係は改善がなかなか見込めない一方で、関係悪化を如何にして管理していくかという時代に入っていると言えよう。
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】
