窓の設置理由は“関係ない”
裁判所は2025年12月、双方の主張を丁寧に整理しながら、争点となった「1メートル以内の窓」「地域の慣習」「権利濫用」の3点について判断した。
まず、最大の争点であった民法235条の「他人の宅地を見通すことのできる窓」に該当するのかどうかについて、裁判所は「窓がなぜそこに設置されたか」ではなく、「その窓が物理的に何を見通せるか」を基準とすべきだと明確に示した。
つまり、その窓がお風呂の換気用であろう何であろうと、「他人の宅地が見通せるかどうか」で判断するというのだ。
川崎さん宅の窓やバルコニーはいずれも境界から約60センチの位置にあり、実際にお隣の高橋さん宅の敷地を物理的に見通すことができる構造だった。
したがって、それらは条文が定める「他人の宅地を見通すことのできる窓」に当たると裁判所は判断。「見えるのは物置や通路で、生活空間ではないから“宅地”ではない」との被告側の反論を退けた。
高橋さん宅が敷地内に存在する以上、その土地全体が「住居としての宅地」に当たるのであり、敷地のどの部分が視界に入るかを細かく区別して判断するものではない、とした。
慣習を認めず
続いて、被告・川崎夫妻が主張した「地域の慣習」についても、裁判所は厳格な視点から検討した。
川崎夫妻側は、建築協定が50年以上維持されてきた地域で窓の配置を巡るトラブルが生じたことはなく、住民同士が互いの窓を正面に向けないよう配慮する“暗黙の了解”があると主張していた。
しかし、裁判所は、提出された陳述書に具体的な慣習の存在を裏付ける内容はなく、単に「これまで揉めなかった」という事実だけでは、法を上書きするほどの慣習が成立しているとは認められないと結論づけた。
嫌がらせを裏づける事情は認められない
さらに、原告・高橋さんの請求が「権利濫用」にあたるかどうかも争われた。
被告・川崎夫妻側は、目隠しを設置すれば建築基準法上の性能が損なわれ、長期優良住宅の認定にも悪影響が出る可能性があると訴え、日照の確保にも支障が生じると主張した。
だが、裁判所は、原告が特定の素材や工法を押しつけているわけではなく、観望を遮る“一般的な目隠し”であれば要件を満たすと繰り返し述べている点を重視した。
提出された証拠からは、日照を欠くような極端な遮蔽が生じるとは言えず、建築基準法に直ちに違反する具体的な根拠も示されていないと判断された。
また、原告の行動が嫌がらせ目的だとする主張についても、裁判所は「訴訟以前から一貫して民法に基づく目隠しの設置を求めていた」という事実を確認し、嫌がらせを裏づける事情は認められないと結論づけた。
目隠し設置命じるも慰謝料認めず
こうした総合的判断の結果、東京地裁は2025年12月、原告・高橋さんの請求をおおむね認め、4カ所の窓とバルコニー手すりへの目隠し設置を命じた。
ただし、その素材については、金属製や樹脂製など“観望を遮るに足る一般的なもの”にとどめ、建築法令との整合性を確保しつつ柔軟な施工を認める形となった。
一方、高橋さんが求めた慰謝料については、目隠しが設置されていないという事実だけでは直ちにプライバシー侵害が成立するとは言えないと判断した。
裁判所は「原告が不安感を覚えることがあったとしても主観的なものにすぎない」とし、心理的な不安があったとしても、それが金銭賠償の対象となる法的侵害に当たるとは認められないとして慰謝料の請求は退けた。
