物価高が続くなか、今年8月から医療費も値上げされようとしている。
しかも対象は、我々の“命のセーフティネット”「高額療養費制度」だ。

一年前、患者たちの声で凍結されたはずだった見直し。しかし先月、厚生労働省はすべての所得区分が値上げされ、最大で38%の負担増になるという案を取りまとめた。

厚労省は、長期にわたって治療が必要な患者への配慮として「年間上限額の新設」や「多数回該当者の負担額据え置き」などで『セーフティネット機能を強化している』と説明している。

しかし治療状況は人によって様々。長期になるほど計算通りにいかなくなる。

~54歳女性(長期療養患者)~
「現在、月々の医療費が8万円台で限度額に達し、多数回該当になるので、月4万4000円の支払いです。しかし限度額が引き上げられると限度額に達しなくなり、多数回該当から外れてしまいます。毎月8万円はとても払えません」

全国保険医団体連合会(保団連)は、「高額療養費の限度額引き上げに伴う患者影響」について緊急アンケートを実施。

寄せられた声からは、厚労省が言う「セーフティネット機能の強化」どころか、「負担が大幅に増加する長期療養患者が少なくない」実情が見えてきた。

■厚労省は「セーフティネットを強化している」と話すが現実は…

【全国保険医団体連合会 本並省吾事務局長】
緊急アンケートに寄せられた声の多くは“悲鳴”です。

~48歳女性~
「がん治療中。昨年末に手術を終え、これから抗がん剤治療などが始まります。収入は500万から200万円へと半分以下に下がる見込みですが、今年は昨年の所得区分の上限額になります。普通に生活していくのもままならないのに、限度額が引き上げになってしまったらもう生活できません。治療も諦めざるを得ません」

高額療養費制度は大きく「一年間の利用回数が1回~3回まで」と「3回以上」に分けられ、3回以上利用すると、『多数回該当』となって4回目以降の自己負担額が大幅に下がります。(例:3回目まで月8万円程度の自己負担額が、4回目からは月4万4400円の自己負担額になる)

厚労省は今回の見直し案で、「長期療養患者の多くが利用している『多数回該当』の負担額を据え置くことで、長期療養患者への配慮をしている」としています。

しかし、見直しがされた場合、負担額が2倍近くになる長期療養患者も少なくないのです。

例えば、長期で抗がん剤治療を行っている患者さんで、1年間ずっと投与し続けている方は多くありません。体調をみながら「2か月治療をして1か月休む」などという風に、投薬と休薬を繰り返している方が多いのです。

仮に、年収650万円の人が、ひと月の医療費8万3000円で、一年のうち6カ月、治療を受けているとしましょう。

現行の制度だと『多数回該当』となり、4万4000円×6で26万4000円の負担です。

それが今回の見直しでことし8月から上限額が引き上げられると、「高額療養費制度」の対象でなくなり、当然『多数回該当』でもなくなるので、負担額は8万3000円×6で49万8000円になります。

負担額が2倍近くになる…23万円超の負担増です。

長期療養で収入が減るケースも多い中、治療を諦めざるを得ない人も出てくるでしょう。

高額療養費制度についてメディアで取り上げられる際、「数百万円の抗がん剤治療が、高額療養費制度のおかげで数万円の負担になり助かった」といった事例をよく見聞きします。

もちろんこのような患者さんもたくさんいます。

ですが、例えば患者数が多い乳がんの標準治療に使用される抗がん剤の多くは、3割負担で1回あたり数万円程。

上限額が引き上げられると限度額に達しなくなり、高額療養費制度が利用できなくなる、つまり『多数回該当』が利用できず、毎月の負担額が大幅に増える人が大勢いるのです。

アンケート結果から、特に子育て世代の切実さが伝わってきました。

治療で仕事が制限され収入は減る一方なのに、住宅ローンや教育費、医療費など支出は増える。さらに物価高が追い打ちをかけ、追加負担を払う余裕などどこにもありません。

物価高対策の財源を投入し、むしろ負担軽減策を打ち出すべきではないでしょうか。

■利用者は15人に1人。高額療養費は他人事ではない。

高額療養費制度は、ガンや難病の患者さんだけが利用するものではありません。

病気やケガで保険医療を受け、自己負担額が高額になった時に、一定額を超えた分が払い戻される制度で、令和5年度の利用者は821万人。国民の15人に1人が利用していることになります。

例えば年収650~770万世帯の方が盲腸などで入院して手術を受けた場合、負担上限額は現行の8万100円から今年8月には8万5800円、来年8月からは11万400円へと段階的に3万円以上も増えます。

長期療養者だけでなく、一度の短期入院・手術でも負担が増えるのです。

物価上昇が止まらず生活が苦しくなる中の3万円の負担増は少なくありません。

■「引き上げるなら安楽死を認めて」悲痛な声が続々…

アンケートでは、次のような声も多く寄せられました。

~60歳女性~
「昨年末でいったん治療が終わりましたが、再発した時に限度額が上がっていたら、治療はあきらめるしかないと考えています。引き上げるなら、安楽死を認めてほしい」

石破政権が凍結した高額療養費の限度額引き上げから、わずか1年で高市政権が凍結解除しました。

患者は「命の選択」を強いる負担増を突き付けられ、失望と怒りが急速に広がっています。

もっと実情を理解した上での再考を強く望みます。

(全国保険医団体連合会 本並省吾事務局長)

関西テレビ
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